第506話 眷属・2

『うん、そう。この子たちが助けてくれた』


 カロトスのその言葉に、その女性の視線が初めて俺たちの方に向けられた。

 かなり夢中になっていたみたいだしな。

 女性はそれを受けてか、物凄く頭を下げてきたが、何を言っているか分からない。

 俺たちのその態度に、カロトスも女性の声がこちらに聞こえていないことに気付いたようで、


『聞こえてない?』


 と聞いてきたから頷いた。


『そう、待つ』


 カロトスは黙り込むと、ピカッと突然光るとその光が女性を包み込んだ。


『カロトス様どうしたのですか?』

『彼女たちに声、聞こえてなかった。今、どう?』

「はい、聞こえました」


 クリスの言葉に、カロトスはピカピカ光っている。

 カロトスは女性と違って光の球体だしな。


『ならいい。カイナもう一度言う』

『はい! この度はカロトス様を救っていただき、ありがとうございました』

『違う。カイナも救った』

『私なんかを解放していただきありがとうございました。私はカロトス様のもとで巫女を務めていたカイナと申します』


 カロトスが言うには、この女性、カイナはカロトスの眷属みたいだ。

 何代目かは分からないが、カロトスが妖精神に襲われた時の巫女で、カロトスを助けるために戦ったそうだ。

 結局助けることは叶わず、仲間たちは殺され、最後に生き残った彼女は妖精神の気紛れで石像にされたそうだ。

 今はカロトスの力で思念体として蘇った、ということらしい。

 俺たちはその日は一日ダンジョンで過ごし、翌朝元来た道を戻ろうとしてあることを思い出した。

 確かダンジョンのルールで、入った階の脱出装置はすぐに使えなかったはずだ。

 急ぐなら二五階の入口側にいって地上に飛ばないといけない。

 そのことをカロトスに言ったら、


『問題ない』


 と言ったため二六階に向けて歩いて行き、カロトスが台座に触れると普通に脱出することが出来た。


『次、エリアナのところ。行く』


 ダンジョンから脱出する前に、カロトスはそういうと再カび杖の中に消えていった。

 この時カイナも、カロトスの力で一緒に杖の中に消えた。

 確かにあの半透明の状態で町に行けば目立つし、騒ぎになること間違いないからな。

 俺たちは帰る前に、レーゼを訪ねてあることを報告することにした。



「二五階の石像が、ですか?」


 俺は迷ったが、一応レーゼにはカロトスの件を含めて説明することにした。

 何で石像がそんなことになっているのを知っているか突っ込まれたら、どうせ上手い言い訳が出来ないからということで素直に話すことにしたのだ。

 この時俺たちがすんなりギルドマスターのレーゼに会うことが出来たのは、間違いなくダンジョン攻略者の肩書があったからだと思う。


「そんなことが……イグニス様たちに報告しても問題ないですか?」


 イグニスたちになら言っても大丈夫かな?


「それとソラ君たちが来たら伝えようと思っていたのですが、タイタンについてです。調べた結果。タイタンの皮膚には魔法を打ち消す力があるようです。ただそれも万全ではないようで、耐久値を超えると魔法を防げなくなるようです。あとはこの素材を使えば魔法を防ぐことの出来る防具が作製可能みたいですね」

「……それってどうやって調べているんですか? 聞いていいのかわかりませんが」

「これは私のスキルによるものですね」

「鑑定スキルですか?」

「はい、そう思ってもらって大丈夫です」


 俺の鑑定ではそこまで調べることが出来ない。

 まだ俺の知らない上位スキルが存在するということなんだろうな。


「どうかしましたか?」

「あ、いや。俺もそういうのが分かればもっと楽に戦えたのにな、と思って」


 魔法が効くと分かれば、また違った戦い方が出来たはずだ。

 基本的に純粋な火力として考えれば魔法の方が強いし。MPが続く限りという条件はあるけど。


「……そうですね。能力鑑定。解析。看破など。鑑定にも色々ありますが、どれが良いのかは分かりませんからね」


 ここまで色々な分類があるのをレーゼが知っているのは、そういうスキルを持っている人がいたのを知っているからのようだ。


「それでソラ君たちはこれからどうするのですか?」

「あー、とりあえず次は獣王国に行く予定です。なんか手紙を受け取ってしまったので」


 手紙の内容は、やはり武闘大会に参加しないかというものだった。

 ダンジョンに入るため資格が、Bランク以上の冒険者かこの武闘大会に出場して本選に出場する必要があるということだ。

 これはパーティーメンバーの誰か一人がそうなら資格ありと認められるとのことだ。

 もっとも最後の一文に、「勝負しようぜ!」なんて書いてあったから、ダンジョンの入場資格を餌に呼び出そうとしているのは間違いないだろうな。


「そうですか。ではマジョリカを離れるということですか……エルザちゃんとアルト君はどうするのですか?」


 レーゼもジンが言ったように、二人のことを心配しているようだ。

 俺としては二人のことは心配だが、シズネがやらかすかもしれないという方が心配だ。

 最悪マジョリカが火の海になりかねない。

 俺はいっそのこと馬車で移動するなら、三人を獣王国に連れていってもいいかな? とか思っていたりする。

 この辺りはミアたちに相談する必要があるけど、一時的に町から避難させるのも一つの手ではあるんだよな。

 俺はそのことをレーゼに伝えると、何かあれば力になると言ってくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る