第505話 眷属・1
朝起きたら、疲れた表情を浮かべたクリスがいた。
「どうしたんだクリス?」
尋ねると、寝不足ということだった。
『ごめん』
とカロトスが謝ってきた。
ちなみにダンジョンの外でカロトスの声が聞こえるのは、俺とミア、クリスの三人だけのようだ。
現在クリスの杖に憑依? しているため、クリスが一番カロトスの相手をすることになっている。
カロトスが謝罪してきたのは、すっかり変わった外の世界に興味をもったカロトスが、明け方近くまでクリスに話していたからみたいだ。
「それでソラ。今日ダンジョンに行きたいのですが……二五階に気になる反応を感じ取ったらしいのです」
『そう、行く。気になる』
クリスの言葉に同意するように、カロトスがかなりの早口で言ってきた。
「二五階ですか……」
詳しく聞けば、二六階側。あの石像のことを言っていることが分かった。
確かにあの小部屋で見た石像に似ていたけど、それが何か関係しているのだろうか?
ただ問題はあの階で出る魔物だ。
オークやオークゾンビなど、出る魔物はそれほど脅威ではないけど、あの数の中進むのは骨が折れる。
『大丈夫。魔物、寄せ付かせない』
まるで俺の考えを読むようにカロトスがそう言ってきた。
とりあえず朝食後ルリカたちに相談するということになり、結局行くことになった。
ただ行くのは俺たちいつものメンバーの六人だ。
ゴブリンの嘆きはサイフォンが完全に酔い潰れていて動けなく、ジンとガイツはエルザたちに何かあっては大変だということで残るそうだ。
何故そのようなことを二人が言ってきたかというと、俺たちと一緒に住んでいるから万が一誘拐などされないかを警戒しているそうだ。
「良くも悪くも有名になったからね。彼らを人質に僕たちに素材集めをさせようと考える者がいないとも限らないから。こういう時後ろ盾がないと面倒かな」
ジンの話では、四五階以降に各クランが攻略を始めた時期に、外からかなりの数の商人たちが入ってきたということだ。
長いことこの町で商人をやっている者たちは手を出そうとは思わないが、金儲けに来た商人の中には手段を選ばない奴らもいるかもしれないとジンは言った。
俺はそれを聞いてウィルに相談すべきか考えた。
とりあえずカロトスの願いを叶えた後にしっかり考える必要がありそうだ。
ただダンジョンに行く前に商業ギルドに寄って、獣王からの連絡も受け取ることにした。
たぶん先に行かないと、また忘れそうだと思ったからだ。
商人なのにあまりギルドに寄らないからな……。
俺が商業ギルドに行って用件を伝えると、手紙を渡された。
手紙を受け取ったらそれはアイテムボックスに収納し、次はダンジョンに向かった。
跳んだのは二六階で、そこから二五階に入った。
MAPを呼び出せば魔物の反応の他に人の反応もある。
昨日のバカ騒ぎに参加していたなら今日は休む可能性が高いし、今いる人たちは五〇階攻略の話を知らない人たちかも知れない。
少なくともMAPの中間地点近くにいる人たちは間違いなく知らないだろうな。
俺たちは件の石像に向かって真っ直ぐ歩いて行ったが、不思議なことに魔物はこちらに寄って来ない。
『あっちいけって言った』
俺がMAP上で見たことを皆に話したら、カロトスがそう言ってきた。
その声はヒカリやルリカ、セラにも聞こえているみたいだ。
ダンジョンの中なら聞こえるみたいだ。
結局俺たちは一度も魔物と戦うことなく、石像のところまで到着した。
ただ到着した頃にはすっかり日が暮れていた。
『うん、強く感じる。間違いない』
クリスの杖から飛び出した光が、石像の周囲を飛び回っている。
「良く見たら似てるさ」
「そうね。あの小部屋にあった石像に似ている」
セラの言葉にルリカも頷いている。
『あれ、叩く。その杖で』
カロトスは戻って来ると、クリスに石像を叩くように言っている。
クリスはカロトスの指示に従って、杖を高く掲げて石像を軽く叩いた。
すると昨日と同じように石像が崩れ落ち……台座の上には薄っすらと透けた女性が立っていた。
それはあの石像と同じ容姿の女性に見えた。
「ゆ、幽霊⁉」
ミアが驚いて飛び付いて来たけど、貴女聖職者ですよね?
皆に注目されているのに気付いたミアは、
「あ、いや、その、アンデッドとかなら別に怖くないんだよ? その、可愛らしい女性だったからびっくりしただけです」
そういうことにしておこう。
ルリカが生暖かい視線を送っているけど、気のせいじゃなければルリカの体は小刻みに震えているように見える。
そんな俺たちを他所に、その女性はフラフラと台座から降りてくると、驚きの表情を浮かべて、クリスの傍らに浮かぶ光に向かって近付いてきて手を伸ばした。
『うん、そう。久しぶり』
女性はパクパクと口を動かしているようで、どうやらカロトスと話しているようだ。
俺たちにはその内容が全く分からないけど。
とりあえず俺たちはカロトスの独り言を聞きながら、話が終わるのを静かに待つことにした。
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