第503話 お祭り騒ぎ

 会議室での話が終わった時にはすでに夕暮れ時だった。

 ギルドから出ると、ギルド前の広場が騒がしくなっていた。

 いつも以上の屋台が並び、人も多くいる。


「ああ、ダンジョン攻略の話を聞いてよ。それで皆祝おうって話になってこうなった」


 顔見知りの屋台の親父がそう教えてくれた。

 さらにお金はレイラの父親である領主のウィルが出してくれるから、皆タダだということだ。

 なるほど、人が多いわけだ。

 なかにはマギアス魔法学園の制服を着た生徒の姿も見掛けるし、荷物持ちの仕事をしている小さな子たちの姿もある。


「お腹空いた」


 クイクイっと袖を引いてきたのはヒカリだ。

 今日はボスと長時間戦い、その後はギルドで報告をしていて碌に食事を摂っていないからな。


「もう少し我慢出来るか? せっかくならエルザやアルトを連れてきてやりたいし」

「……うん、それいい」


 俺の言葉にヒカリはコクコクと頷いている。


「そうだな。なら俺がエルザたちを迎えに行って来るよ。ヒカリたちは料理を確保しておいてくれるか?」

「ならボクもついて行くさ。ソラ一人だと絡まれるかもさ」


 そんなことはないと思いたいが、ここはセラの申し出を受けて二人で行くことにした。

 俺たちは後で冒険者ギルドで合流することにして一度別れた。

 サイフォンはユーノにお酒を飲みたいと頼み込んでいるが、今日ぐらいは許してやってもいいと思う。とは思ったが口には出さない。

 その後俺たちは家に戻ると、エルザとアルト、シズネに事情を説明して再び戻ってきた。

 ギルド前の広場まで戻ってくると、中央にはステージのようなものが建てられていてそこにはボス戦に参加した守護の剣の数人(アッシュ含む)とゴブリンの嘆きからサイフォンとジンが立っていた。

 何をしているのかと思ったが、ボス戦がどんなものかを語っているようだ。

 拍手喝采に手を挙げて応えるサイフォンの片手には、大きなジョッキが握られている。うん、間違いなくあれは酒だな。

 俺たちはそれを横目にギルドの中に入ると、ギルドに併設された酒場は人が一杯で、普段なら冒険者が長蛇の列を作る場所には簡易のテーブルとイスが並べられていた。

 その一画に、俺たちに手を振る一団がいた。

 ミアたちとゴブリンの嘆きの残りの三人と……ブラッディーローズの五人だ。


「師匠おめでとうございます」


 席に着くなり声を掛けてきたのはヨルだ。

 俺は礼を言って席に着いた。

 エルザたちもその中に入り、早速乾杯をして食事を食べ始めた。

 この時サイフォンたちが駆り出された理由を聞いたが、話を聞きたがっているという人たちのために、ボスの話をして欲しいと頼まれたとのことだ。

 元々この町に長くいたわけではないから守護の剣に任せようと思ったみたいだが、合同戦線を引いていたのは皆が知っているため、誰かが出ることになった。

 それで白羽の矢が立ったのはサイフォンだ。ジンは保護者的な感じでついていったようだ。

 ちなみにサイフォンも最初は渋ったが、ユーノがお酒の許可を出したことで行くことにしたようだ。


「ああいうのは苦手だから」


 ユーノの言葉にクリスが同意するようにコクコク頷いていた。

 もっともギルド内にいても、俺たちに声を掛けてくる人は多くいた。

 その殆どが祝福の言葉だったのは意外だと思ったが、そこは力こそ全ての冒険者故なのだろう。

 ライバル関係にあったクランの合同連合の人たちも悔しがっていたが、ボスはどうだったかと貪欲に情報入手をしてきた。

 手には賄賂の料理を持ってきているけど、それ、タダだよね? なんて無粋なことは聞かない。

 だってギルドの中に入る時に屋台の方を見たけど、長蛇の列が出来ていたからね。

 それに料理の中には酒場から持ってきたものもあるそうで、ヒカリは興味津々だった。

 俺たちは屋台料理は口にするけど、ギルドに併設された酒場には一度も足を踏み入れたことはないからな。

 ヒカリが持ってきた肉に齧り付くと、それを習ってアルトも頬張っている。

 口元が汚れると、それを甲斐甲斐しくシズネが拭いている。

 シズネは小さな子三人のお世話をしていて食事をあまりとっていないように見えるが、満足そうだから放っておいてもいいか?

 いや、なんかヒカリやアルトに食べさせてもらって恍惚の表情を浮かべているから、むしろ邪魔すると悲劇が生まれるな、きっと。


「皆さん、今日はお疲れさまでした」


 わいわいと楽しんでいたら、そこにレーゼがやってきた。

 突然の冒険者ギルドのギルドマスターの登場に、ブラッディーローズの面々と周囲にいた冒険者たちが驚いていた。

 まあ、ギルドマスターは忙しいみたいだし、俺たちが密かに交流があるのは知らないからな。

 たぶん声を掛けてきたのも、五〇階の攻略に貢献したパーティーだからという認識だと思う。


「レーゼさんも食べますか?」

「そうですね。少し頂きます」


 クリスの言葉にレーゼも席に着いた。

 それから他愛もない話をしながら料理を食べたレーゼは、食事が終わると立ち上がり会議室のある方へと戻って行った。

 それはレーゼだけでなく、他のギルド職員たちも戻って行っている。

 何でもやることが山積みだから、一時的に休憩にきていたそうだ。

 その後もお祭り騒ぎは夜遅くまで続いたそうだけど、俺たちはエルザとアルトが眠そうにしていたところで家に戻ることにした。

 ゴブリンの嘆きの面々はサイフォンが心配だからと言うことで、もう少し残ると言っていたからそこで別れた。

 

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