第502話 巨神カロトス

 守護の剣の面々、ゴブリンの嘆きが門を潜ったのを見送り、クリスは早速エリアナから与えられた神の力を発動させた。

 サイフォンたちはきっとなかなかダンジョンから戻らない俺たちのことを心配するだろうな。

 何か言い訳を考えないといけないな、と思っていたら、突然世界から色が消えた。

 風景が灰色一色に変化し、先程まで光っていた門からも光が消えた。


「ソラ、あれ!」


 クリスの指差す先に、もう一つの門が現れていた。

 俺たちは顔を見合わせ、その門を潜った。

 門の先は小部屋になっていて、部屋の中央には台座に立つ三メートルを越す石像がある。

 何処か二五階にあった石像に似ているが、向こうが女性の像だったのに対して、こちらは男性の像だ。


「すごい魔力を感じます」


 クリスの言う通り、石像からは魔力察知がなくても分かるほど強い魔力を感じる。

 これはヒカリやルリカ、セラたちも分かったみたいだ。


『……懐かしい。目が覚めた。けど違う。誰、君たち?』


 俺たちが石像に圧倒されて立ち尽くしていたら、頭に響く声があった。


「私たちはエリアナ様に頼まれて、ここまで来ました」

『エリアナ? 確かにエリアナの力。それに君から、エリザベートに似たもの、感じる』


 それはたぶんミアに向けて言った言葉だろう。


「まずは事情を説明させてください」

『分かった』


 クリスが説明を終えると、


『そう、悲しい。責任、ボクたちにある』


 落ち込んだ声が返ってきた。


「それでエリアナ様に開放をするように頼まれてきました」

『そっか。うん、ならその杖で石像叩く。それなら壊せる、はず?』


 クリスは声に導かれるまま杖の先端で軽く石像を叩いた。

 すると石像に亀裂が入り、やがてポロポロと崩れ落ちた。

 石像が消えると、台座の上には一つの宝玉が転がっていた。


『ありがとう。そうだ、名前。ボク、カロトス。よろしく』


 カロトスは自ら巨神と名乗った。

 カロトスの話では、地上で生活していた時に妖精神が訪れてきて、不意打ちをくらったとのことだ。

 その時に神力の大半を奪われ、残った神力を使ってこのダンジョンを妖精神が造ったとのことだ。

 カロトスをこの場に封印したのは、ダンジョンコアの代わりをさせると共に、ダンジョンを維持するために神力を消費させて復活させないためじゃないかと言った。

 あくまでカロトスの考えとしてだけど。


『持つ。エリアナのところ、連れてく』


 そして全ての話が終わると、カロトスはエリアナのいることろに連れて行くように言ってきた。


「一ついいですか?」

『ん? なに?』

「カロトス様の先ほど話だと、カロトス様をここから連れ出すとここはどうなりますか? ダンジョンが消失してしませんか?」


 確かにクリスの言う通りだ。

 この地はダンジョン都市として栄えている。

 仮にダンジョンが消えてしまったら、マジョリカにとっては大打撃だ。


『大丈夫。もう、ボクいなくてもここ、そのまま』


 俺たちがカロトスに心配していたことを話すと、カロトスはそう言ってきた。

 その言葉に俺たちは確認のしようがないから、ここはカロトスの言葉を信じるしかない。

 それどころかダンジョンが安定して、モンスターパレードのような、ダンジョンが暴走することがなくなるとも言った。

 ただしダンジョンの宝箱から、貴重なものが出にくくなるかもしれないとも言っていたが、その辺りは仕方ないと思った。

 そもそも宝箱は一攫千金を狙う人が求めているだけで、多くは堅実に魔物の素材を売って生計をたてているわけだしな。


「この宝玉を持って行けばいいのですか?」

『……その杖で叩く』


 クリスが指示通り宝玉を叩くと、まるで杖に吸収されるように消えた。


『これで大丈夫。さあ、行く』


 宝玉が消えると、今度は杖から声が聞こえるようになった。



 俺たちが小部屋から出ると、そこはダンジョンへの入口だった。

 既に守護の剣の面々とサイフォンたちの姿がある。

 サイフォンたちは普通に俺たちに話し掛けてきた。

 特に遅れたことに対する言及がなかったが、もしかしたら時間が止まっていたとか?

 その後俺たちはギルドに戻り、報告をした。

 ダンジョン五〇階の攻略と共に、ダンジョン最下層到達の報告にギルド内は沸いた。

 俺たちはタイタンの死体を倉庫に置くと、会議室のようなところに通されボスとの戦いについての報告を行った。

 書記のような人が忙しくメモを取っているのは、資料の作成をするためだろう。


「ご苦労様でした。そういえば、ボスは宝箱を落とさなかったのですか?」


 最後にレーゼにそう言われて、そう言えばボスを倒しても宝箱がなかったことを思い出した。

 あの時はボスを倒したことでホッとしたのと、頭の中に響いたダンジョン攻略の声もあってすっかり忘れていた。


「たぶん、報酬は個別に入っているのだと思う。ダンジョンを出る時に声を聞いた」


 ジェイクの言葉に、皆が頷いている。

 声? 俺はそんな声聞かなかったけど? カロトスの声は聞いたけど……。

 その後の話で、新しいスキルや加護のようなものをもらったことが分かった。

 もちろん何をもらったかは皆詳しくは言わない。

 守護の剣の面々はクランに戻ったら報告するかもしれないけど、スキルとかは知られると厄介なものもあるからね。

 ただ皆の表情を見る限り、決して悪くないものをもらったということだけは分かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る