第501話 マジョリカダンジョン 50F・4

 俺が複製するのは神殺しの短剣だ。

 あれを作るには、明確にイメージして魔力を籠める必要がある。

 MP不足はMP変換で補えばいいだろう。

 俺が複製の準備を始めると、そこにミアが現れた。


「向こうの守りはいいのか?」

「タイタンが遠距離に飛ばせるものは近くにないし、クリスがいるからね。それに私がいた方が集中出来るでしょう?」


 ミアが言いたいのは、ミアがシールドを張ってくれたら集中出来るという意味だ。

 神人になったミアは魔力量も規格外になっているから、仮に攻撃が飛んできても防ぐことは出来るだろう。

 さすがに長時間シールドを展開することは無理だろうけど、少なくとも俺が複製を創るぐらいの時間なら大丈夫だと思う。

 それに俺の方に注意が向かないように、ガイツたちが必死に戦ってくれている。

 俺は守りはミアに任せ、複製に集中した。

 ミアの体を突き刺した短剣を、その当人が近くにいるところで作るというのは少し複雑だが、タイタンを倒すためには仕方ない。


「ヒカリ、そんなに長くは複製した武器は形を保ってられない。出来たらすぐにタイタンを倒しに行くぞ」


 俺の言葉に、ヒカリは力強く頷いていた。

 俺は大きく息を吸い込むと、イメージをした。

 元々あれは俺が作ったものだから、イメージはしやすい。

 あとは魔力を籠めてしっかり作り上げていく必要がある。

 ステータスを確認すれば、物凄い勢いでMPが消費されていく。

 ギリギリまでMPが減ったら、それをスキルを使ってMPを回復させる。

 その結果出来たのは一振りの短剣……神殺しの短剣だ。

 しかしこれ辛い。ステータス画面を確認したがMPはまだあるのに、MPがなくなった時のような倦怠感に襲われた。

 けどあと少しだ。ここは勝負所、休んでられない。


「ヒカリ、援護するから頼むぞ。それと……」


 俺たちが動き出そうとすると、ミアが補助魔法を追加でかけてくれた。

 遠距離からも前線メンバーにかけてくれていたんだよな。

 倦怠感が僅かになくなり体が楽になった。

 俺たちが戦線に復帰すると、サイフォンたちもそれに合わせて動いてくれた。

 ジンはヒカリの持つ武器を見て、それが何であるか分かっていないだろうけど、すぐにヒカリがカギを握っていると判断したみたいだ。

 そのことをジェイクたちに伝えているのが聞こえてきた。

 さすがサイフォンのお目付け役だ。気配りが完璧だ。

 ガイツが攻撃を止め、それに合わせて波状攻撃をかける。

 ヒカリが攻撃しやすいように、タイタンの注意をひきつつ休ませない。

 それでもタイタンは俺たちを吹き飛ばそうと強烈な一撃を放ってくるが、俺がシールドで腕を止めて、攻撃をさせない。

 さすがに見えない壁に突然腕がぶつかり動かないことにはタイタンも虚を突かれたみたいで、一瞬隙が出来た。

 そこにセラ、サイフォン、ギャバンと高火力の人員が次々と前から側面から斬り付け、タイタンへと攻撃を繰り返す。

 その猛攻にタイタンの再生能力が追い付いていないが、今は耐える時だと判断したのか攻撃を止めて防御重視の行動をとった。

 それでも構わずサイフォンたちは攻撃をして、時に防がれ弾かれていた。

 吹き飛ばされた者には、ミアのヒールが飛び瞬時に回復させていた。

 そしてタイタンはこの攻撃を受けて、明らかに前方に注意がいっていた。

 俺もガイツも、守護の剣の盾士も、こちらに意識を誘導するように挑発やスキルを使っている。

 そんな中、がら空きの背後から忍び寄る者がいた。

 ヒカリだ。

 ヒカリは完全に意識から外れ、タイタンも背後からの襲撃に気付いていない。

 ヒカリは瓦礫を利用して飛び上がると、背後から短剣を刺した。

 そこは俺が魔力察知で一番強く魔力を感じた場所……たぶん魔物の心臓ともいえる魔石のある場所だ。

 そこはさすがに厚い鎧に覆われていたが、神殺しの短剣は簡単に貫いていく。

 タイタンは悲鳴を上げて暴れるが、もう遅い。

 ただタイタンの肉厚の体の前に、短剣だと長さが足りなくて魔石まで届かない……のは想定済みだ。

 ヒカリは神殺しの短剣を根元まで突き刺すと、そこで魔力を籠めたようだった。

 短剣を手放し離脱した。


「離れる!」


 ヒカリの声を聞いた皆が、瞬時に反応してタイタンから離れた。

 それを待っていたように神殺しの剣は弾け飛んだ。

 結果。大きな爆発は起きはしなかったけど、背中はえぐられ、タイタンの瞳から色が消えて俺たちの方へと倒れてきた。

 地響きを上げて倒れたタイタンは、その後動くことはなかった。


 俺は少しの間倒れたタイタンを眺めていたが、


『ダンジョンは攻略されました』


 という声が頭の中に響いた。

 驚いていると、それを聞いたのは俺だけでなく皆も聞いたようだった。


「やったんだな……」

「ああ、俺たちが攻略者だ!」


 素直に喜ぶ者、その場で崩れ落ちる者、泣く者反応はそれぞれだったが、とりあえず俺はタイタンがダンジョンに消える前に回収することにした。

 魔法を打ち消す能力など、謎は多いが解体することで調査が進むかもしれない。

 そうなれば次に攻略する人たちの役に立つはずだ。

 ただ今の状態だと、魔法使い組は肩身の狭い思いをするかもしれないな。


「けどこれから俺たちはどう帰るんだ?」

「確か他のダンジョンの記録だと、地上に戻ることが出来る門が出るという話だったな」


 俺の疑問に、ジェイクが答えたその時、フロアの中央に門が出現した。


「詳しい話は戻ってからしよう」


 ジェイクの言葉に、反対するものはいなかったが、俺たちにはまだやることがある。

 ひとまず守護の剣と、サイフォンたちが出たあとにクリスがエリアナから授かったという神の力を使ってもらうしかないな。

 俺は足取り軽く門へと向かう守護の剣とサイフォンたちの後を追いながら、そんなことを考えていた。

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