第499話 マジョリカダンジョン 50F・2

「現状魔物はタイタン一体だ。だが何が起こるか分からない。警戒を怠るな!」


 ジェイクの声に、守護の剣の面々が返事を返した。

 今までのボス階では、倒した魔物が再召喚されたり、時間によって復活することはあったみたいだが、ボスが一体だけという状況は今回が始めてだ。


「魔法使いたちはどうするんだ? 下がらせるのか?」


 守護の剣の一人がジェイクに尋ねると、ジェイクは考え込んでしまった。

 口調が荒々しいのは冒険者ならではだ。

 それがクランの隊長相手でも変わらない。


「……護衛に数人回してくれ。追加で魔物が出るかもしれないし、遠距離で攻撃してくるかもしれない」


 ジェイクは少し考えたのち、そう指示を出していた。

 俺たちの方もそれを見て俺、ミア、クリスにユーノはひとまずこちらに残ることにした。

 ミアとクリスは魔道具でシールドを張れるし、ユーノにもそれを渡してある。

 ただ魔力の大量に消費するから、あまり何度も使用出来ない。

 ゴーレムも一応こちらに待機させることにした。


「すまないが皆を頼んだよ」


 アッシュは前線で戦うようで、魔法使いの面々のことを頼むと言って駆け出していった。

 俺は気配察知の魔力察知を併用しながら追加で出現するかもしれない魔物を警戒しながら、前で戦う人たちの様子を観察した。

 タイタン攻略は四方を囲む作戦で、障害物のない場所で戦うことにしたようだ。

 盾士が前面に出ているけど、相手の力が分かっていないためまずは回避重視の行動を取っている。

 最初は上手いこと囲い、一つのところでタイタンを引き付けている隙に、背後から強襲をかけるといった具合で攻撃をしていたが、露出している肌は剣の一撃を受けて多少の傷を負うが、再生能力が高いようで、生半可な攻撃ではすぐに傷口が塞がってしまう。

 ルリカの魔力を籠めたミスリルの剣の一撃でさえ、放っておくと一〇秒もすれば傷口が完全に塞がっている。

 これを防ぐには回復する暇を与えないほど連続で攻撃する必要があるが、戦いながらタイタンは誰が脅威になるかを把握したようで、攻撃を防ぐ者、無視する者をわけて対処し始めた。

 そうなると数的有利がなくなり、むしろ味方の攻撃の邪魔になっていた。

 さらにタイタンが体を意図的に動かしてコントロールしているようにも見えた。

 俺の見たところ、攻撃が通っているのは守護の剣はギャバンとアッシュだけ。俺たちの方はサイフォンとジン、セラといったところか? 手数を増やせばルリカもいけそうだけど、長時間攻撃を続けるのは体力的に難しいかもしれない。魔力に関しては一応俺がミスリルの剣に魔力付与しているから余裕はありそうだけど。

 ヒカリは麻痺付与を試みているようだけど、それも再生のせいか効果がないみたいだ。

 邪魔になるからと、攻撃が効かない攻撃陣が距離を取り始めた。

 無駄な攻撃をして体力を減らさないのは、何が起こってもいいように備えているのもあるが、負傷されると他の人に負担がかかるからだ。

 神聖魔法の使い手はいるけど、守護の剣の人は連続ヒールは二〇回が限界と言っていた。

 回復ポーションやマナポーションはこっちも向こうも余裕を持ってきているけど、連続使用すると効果がなくなるからな。

 そんなことを考えていたら、タイタンが突然盾士に突撃を仕掛けた。

 ガイツがいる反対方向だ。

 実力が低いところで、盾士二人でカバーしていたところだ。

 タイタンはそこを強行突破して、止めようと斬り掛かってきた攻撃も無視して突っ込んだ。

 タイタンが目標にしたのはあの崩れている建物だった。

 サイフォンたちは追い掛けたが、タイタンは建物のところで立ち止まると、棍棒をまるでバットのように振り抜いた。

 タイタンの体格と比べると低いその建物は、棍棒によって弾け飛びその破片をこちらに飛ばしてきた。

 ガイツをはじめ盾士たちは前に出て仲間たちを庇っていたが、破片は後衛のこちらの方にも飛んできている。

 俺は前にでてシールドマスターのスキルのオーラーシールドを使うと、その破片を弾いた。

 ただそれは一回で終わらず、二度、三度と建物を破壊している。

 破片はランダムで飛び交い、盾士の足が完全に止まった。

 タイタンの飛ばす破片は速度が十分出ているから、あれが掠りでもしたらただでは済みそうにない。

 皆盾士の後ろに隠れながら、反撃の機会を狙っているようだがその隙を与えずタイタンは建物を破壊して回る。

 まさかボスが地形をここまで利用するとは、完全に予想外だった。

 だからこそ守備に回らざるを得ないのだが、タイタンはただ破片を飛ばすだけでなく、建物を破壊したことによって生じる土煙を利用してきた。

 視界が遮られ、タイタンの姿が見えなくなる。

 だけど気配察知でタイタンが移動しているのが分かる。

 それは次の建物の方にではなく、明らかに冒険者の方へと近寄ってきている。

 もしこの時、ガイツたちが狙われたなら対処出来たかもしれない。

 ガイツの後ろにはルリカとヒカリ、オルガがいたからタイタンが近付いたことを伝えることが出来たかもしれない。

 しかしタイタンが狙ったのは守護の剣の方だった。

 タイタンは土煙に身を隠しながら、破片から身を守っていた盾士目掛けて棍棒を振り下ろしたようだった。





 

 


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