第493話 マジョリカダンジョン 47F・3

 魔物の追加がなくなると、戦況は一気に傾いていった。

 ヒカリも合流し、クリスも動けるようになったから、セラとルリカに合流するため移動を開始した。

 その際俺は犬型ゴーレムに魔力付与をして、サイフォンたちのもとに走らせた。

 最終的に部屋に出現していた魔物を倒すのに、それから大した時間がかからなかった。

 今回は倒すのを優先で、素材を無視して戦ったというのも大きかったと思う。


「ソラか……」


 アッシュは俺たちに気付いたようだったが、その場に座り込んでしまった。

 何時間も連続して戦っていたのだから仕方ない。

 とりあえず俺とミアはヒールで、ヒカリたちは回復ポーションで負傷者を治療して行く。

 守護の剣は四〇人からなるパーティーで来ていたようだが、戦闘が終わった時に生き残ったのは二八人だった。

 俺たちがかけつけ、さらに治療していなかったら被害はもっと大きかったと言い、お礼を言われた。

 とりあえず俺は倒した魔物をアイテムボックスに回収する。

 この時アッシュから、守護の剣で倒した魔物の回収もお願いされた。口ぶりからして助けてもらったお礼で全て譲渡してきそうな感じだったけど、その辺りはあとで返そう。


「ソラ君助かったよ」


 一段落したところで、ジェイクがお礼を言ってきた。


「何と言ったらいいか……それと、帰還石で脱出しようとは思わなかったのか?」


 気になったので聞いてみた。


「ああ、本当は使いたかったんだがね。運が悪いことに帰還石を持っていた者が真っ先にやられてしまって」


 ジェイクの話だと、突然出現した魔物に帰還石を持っていた二人が攻撃を受けて、二人とも死んでしまったとのことだ。

 それを回収しようとした者も殺されてしまい、どうにか態勢を整えることに成功して魔物を倒していったのに、魔物が次々と湧いてくるため防戦一方となって手詰まり状態だったそうだ。

 そして体力も限界で、回復薬も切れてしまったため、最後に特攻を仕掛けようとしていたところに俺たちが到着したみたいだ。

 回復薬が切れる前に仕掛けることは出来なかったのかと思ったが、その決断をする前に戦力が減ったのと、倒していけばもしかしたら湧くのが止まるかもしれないという希望的観測が頭を過り実行出来なかったそうだ。

 破れかぶれの選択をするなら、一秒でも長く生きて、それこそ別のパーティー、連合クランが来るかもしれないという一縷の望みにかけたのかもしれない。


「だからありがとう。君たちが来なかったら、たぶん我々は全滅していた」


 ジェイクを深々と頭を下げて言ってきた。

 さらに詳しく話を聞いたところ、壁側に移動したのも意図しての行動ではなく、魔物に押し込められてのことだと言った。

 確かに自分たちで逃げる、もしくは耐えようと思ったら、壁ではなく通路の方に移動した方が生存確率は上がるか。

 そうなると……。


「ああ、たぶん意図的に我々は動かされたんだろうな。罠の解除をされないために」


 ジェイクも気付いたようだ。

 確かに罠の解除スイッチは、反対側の壁にあった。


「も、もう終わったのか……」


 そこにサイフォンたちも合流した。

 惨状を見て顔を顰めたが、すぐに切り替えている。


「あいつを迎えによこしてくれて助かった。さすがにユーノの奴が限界だったからな」

「……なら一度ここから移動しよう。大丈夫だと思うけど、何が起こるか分からないからさ」


 罠を解除したから再び罠が発動するかは分からないけど、何が起こっても不思議じゃないのがダンジョンだからな。

 その後通路まで移動して休憩を取った。

 さすがにこのまま移動するのは難しいだろうしな。

 帰還石で戻るか聞いたが、俺たちがこのまま進むと答えたら、一緒に行かせてくれないかと言われた。

 消耗品がないということで、俺から買ってくれたし、あと一日もかからないところに階段があるから、せっかくだから一緒に行くことになった。

 料理をして、食事を食べながら再び話を聞いたが、どうやら今回の罠は近付くことで強制的に発動するタイプの罠だったようで、完全に不意打ちを打たれたとのことだった。


「油断しているつもりはなかったんだけどね」


 アッシュは力なく言っていた。

 もしかしたら俺たちがかかっていたかと思うと何も言えないな。

 一応その辺りは俺だけでなく、ヒカリやルリカ、オルガも注意してくれているけど、意地悪な罠は今までも多かったからな。

 その日は俺たちが見張りをかって出ると、守護の剣の面々は死んだように眠った。

 何時間も終わりの見えない戦いを強いられたんだ、仕方ないのかもしれない。

 俺はその様子を見ながら、四八階以降のことをどうするか悩んだ。

 サイフォンもそれを感じていたようで、俺たちは見張りをしながら相談するのだった。


「ソラ君、ありがとう。この恩は忘れないよ」


 無事四八階まで到着した俺たちは、帰還石を使って地上に戻ってきた。

 その時ジェイクはそう言うと、生き残った守護の剣の面々をお礼を言って帰って行った。

 随分あっさりとしたもののように思うけど、これからが大変だからな。

 死んだ者の中には家族もいたようだし、説明やら何やらをしないといけないだろうから。


「俺たちも帰ろうか」 



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