第491話 マジョリカダンジョン 47F・1

 四十七階にも先客はいた。

 ただMAP上に映し出された反応の数から、それが連合クランではないことがすぐに分かった。

 俺がそのことを皆に話すと、


「さすが守護の剣ってところか。少しだけ接する機会があったんだけどよ。なかなかの兵がいたのを覚えている」


 サイフォンの言葉に、ゴブリンの嘆きの面々が頷いている。

 俺たちも少しだけ交流があったが、あれはマジョリカを発つ直前だった。


「いつから守護の剣がこの階にいたのかは分からないけど、とりあえず行こうか。守護の剣が魔物を倒してくれたお陰か、途中までは数も少ないようだし」


 実際に守護の剣は、MAPの半分ぐらいの地点まで到着している。

 魔物との戦闘を極力避けたとしても、追い付くのは難しいかもしれない。

 もっとも俺たちの目的はダンジョン攻略ではあるけど、一番にダンジョン攻略をする必要はない。

 名誉が欲しければ上げるし、むしろボスの情報などあった方が、危険リスクも少なく済むまである。


「いっそプレケスとか、情報が出揃っているダンジョンをまず攻略すべきか?」


 と思ったことがあるが、ダンジョンごとに出る魔物の種類が変わってくるから、攻略するなら同一ダンジョンを一息に攻略した方が良いようだ。


「守護の剣の様子はどうだ?」


 夕食を食べ終えた時、サイフォンは気になるのか聞いて来た。


「気になるのか?」

「一応ライバルだからな」


 サイフォンはそう言うが、別にサイフォンも競おうとは思っていないようだ。


「普通の冒険者だったら、富と名誉のために頑張るんだろうけどな。それに俺たちは少人数でダンジョンに潜っているから、十分金は稼げてるんだよな」


 確かにダンジョンは下の階層に行くほど素材は高く買取ってくれるし、魔石に関しても買取価格は高い。

 クランに所属していると人数で割ることになるし、きっとクランの運営費のようなものにも充てられているから一人あたりの稼ぎはどうしても少なくなってくる。

 その分クランに所属することで得られる特典もあるから、決してそれが悪いわけじゃないと思う。

 特に経験が浅い時など、先輩からのアドバイスを受けたりすることも出来るだろう。

 そうやって最初はクランの恩恵を受けながら成長し、ベテランの域に入ってきたら今度はそれを返すという流れが出来ているのだろう。


「それじゃここの攻略が終わったら、サイフォンたちはのんびり暮らすのか?」

「どうだろうな。冒険者はまだ続けるんじゃないか?」

「そうですね。お酒を飲まなくなれば、今の貯金でも普通に暮らせると思うんですよね」


 サイフォンの冒険者続ける宣言に、ユーノがため息を吐きながら言った。

 冒険者の多くは仕事終わりに一杯といった感じでお酒を良く飲んでいる。

 皆で楽しそうに冒険譚を語りながら飲むのにはちょっと憧れるんだよな。

 誇張された自慢話になっているから鵜呑みにはしないけど、創作が入っているから聞いていて楽しんだろうな。

 けどお酒で身を滅ぼした冒険者の話も冒険者になったばかりの頃に聞いたことがあるし、もうお酒のために冒険者を続けているって人もいたんだよな。


「ソラ君。こんな風になっちゃ駄目だからね」


 ユーノの言葉に、サイフォン以外のゴブリンの嘆きの面々が頷いている。

 特にジンはフォローが多かったようで、深々と頷いていた。

 サイフォンもその辺りは自覚があるようだから、下手に反論しないで黙っていたな。



 ダンジョン攻略に関しては、時々魔物と戦うこともあったが順調に進んだ。

 日が経つにつれて守護の剣との差も徐々に詰まって来ていた。

 そしていよいよ次の階への階段と、守護の剣の背中が見えてきたある日。それが起こった。

 最初に気付いたのは俺、クリス、ミアの三人だった。

 続いてはっきりしたのはMAP上にそれが表示されたから。


「どうした?」


 顔に出ていたのか、サイフォンが聞いてきた。


「守護の剣が魔物に囲まれている⁉」


 数が多い。明らかに守護の剣の三倍以上の魔物に囲まれている。

 しかも通路だった表示が、大きな部屋になっている。

 罠?

 守護の剣との距離が近付いていると言ったけど、走っても二、三時間ぐらいはかかりそうだ。

 それはあくまで足の速い人の足で、だ。


「耐えられそうか?」

「出た魔物の種類が分からないからな」


 ここの階に出る魔物はギガンテス。

 装備も近接から遠距離、魔法と色々な種類と今まで戦ってきた。

 ただボス部屋に出てきた個体よりもレベルは低かったから少しは弱かった。

 それでも数が数だからそれは脅威だ。

 それに罠の作動で出現する魔物は、時々その階で出ない魔物が出現することもある。

 以前レイラが巻き込まれた罠のように。

 あの時は大きな振動を感じたといっていたから、今回の罠は別物だと思うが……。


「とにかく出来る限り急ぐか。最悪ソラたちだけで先行してくれて構わない」


 確かに俺たちだけなら早くつくかもしれない。

 クリスとミアは足が遅いが、そこは犬型ゴーレムに乗ればいい。

 そうなるとパーティーを分けることになるから、俺たちのリスクが上がることになる。

 そうなった場合は帰還石でサイフォンたちだけ帰ればいいのか?

 俺たちはそう結論を出すと急ぐことにした。

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