第486話 メイド……服?
翌朝目を擦りながらシズネは食堂に現れた。
エルザに起こされ、手を引かれながら。
エルザが話し掛けているけど、まだ夢の中なのか生返事だ。
「……シズネお姉ちゃん……これ……」
そんなシズネにアルトが手拭いを持ってきた。
シズネはそれを受け取り顔を拭いたけど、まだ寝惚けている様子だった。
「ありがとうな」
けどタオルを返す時にアルトを見て、その動きを止めた。
途中で動きを止めたシズネを不思議そうに見たアルトだったが、タオルを受け取るとそれを片付けに奥の部屋に消えていった。
シズネはその後姿を見ていたが、アルトの姿が見えなくなるとぐるりと首を振り、俺と目が合うとこちらに向かってきて、
「ど、どういうことだ? 何だあれは? あれ、アルト君だよな?」
と早口に捲し立てた。
言いたいことは分かるが、
「とりあえず落ち着け。そしてあれは間違いなくアルトだ」
と落ち着かせた。
「そ、そうか……アルト君か。けど何であんな格好を?」
答えにくい質問というか、そのジト目は俺があんな格好をさせているとでも思っているのか?
「あ、あの。あれはタリヤさんが用意した服で……その、家事をするならこの服だって言われて」
言い寄られている俺を助けるべく、エルザが間に入ってくれた。
うん、俺が何か言っても聞き入れてくれそうにない雰囲気だったもんな。
「タリヤ?」
「あ、はい。私たちに家事を教えてくれていた先生です。今も時々様子を見に来てくれていて、その度に色々なことを教えてくれるんです」
エルザの説明によって、やっとシズネは納得してくれたようだった。
その後サイフォンたちを含め、皆で朝食を済ませるとシズネを連れて外に出た。
主にこの町の案内と、ダンジョンに行くための消耗品の確認だ。
ポーション類の在庫は足りているけど、昨夜サイフォンから四五階のことを聞いて木材の補充を少ししたいと思ったのだ。
それなりの数の薪がアイテムボックスの中にはあるけど、何があるか分からないからな。
あとは創造で使用する素材が売っているかを探そうと思った。向こうの世界でいうホッカイロのようなものを作ってみようかな、と思ったのだ。
その後買い物を済ませて、せっかくなのでお昼は外で食べて家まで戻って来た。
お店というよりも露店で昼食を済ませた。
シズネはナハルの町を回った時もそうだが、露店での買い食いのようなものが楽でいいと言っていたからだ。
それに露店といっても、その町や作り手で色々と工夫しているから微妙に味が違うんだよな。
「あ、タリヤさん!」
家まで戻って来ると、そこにはいつものメイド服に身を包んだタリヤがいた。
その着こなしは完璧で、今日も隙一つない、ような気がする。
タリヤに気付いたエルザとアルトが近寄り、話をしている。エルザは旅行のことなど、楽しそうに話している。
タリヤは表情を崩すことないが、そんな二人の様子を慈しむような目を向けて見ている。
「あ、そうです。タリヤさんにお土産を買って来たんです」
エルザはそう言うと、バタバタと駆け出した。
アルトもそれを追って歩いて行く。
「家事の腕は上がっているようですが、まだまだ落ち着きが足りないようですね」
その姿を見て、タリヤは小さくため息を吐いてた。
そんなタリヤに、
「あんたが噂のタリヤさんか?」
とシズネが話し掛けていた。
噂のとは? と思ったが、その答えを聞くことは出来なかった。
俺から見えたシズネの横顔は真剣そのものっで、少し怖いような印象を受けたからだ。
何を話しているかは分からないが、シズネがタリヤに色々と言っていて、それに対してタリヤが簡潔に答えているような気がする。
ただ最終的に二人は頷き合い、握手を交わしていた。
うん、二人の間に何かあったのかは、俺には分からない。
先ほどまでの表情が嘘のように、シズネの表情も柔らかいものに変貌しているし。
そこにエルザとアルトが戻ってきて、そんな二人の様子を不思議そうに首を傾げて見ていた。
その反応は正しいと思う。
「あの、これがお土産です。それと屋敷の皆さんの分もあるんです」
「……そうですね。せっかくなのでそれは直接手渡してあげるのがいいでしょう。ソラさん、明日二人を……いえ、三人を貸してもらってもよろしいですか?」
「僕もか?」
「はい、先ほどエルザから貴女がここで家事を習うと聞きました。それなら
それを聞いたシズネは、
「僕には似合わないからいい」「こんなヒラヒラしたもの着れない」
と顔を真っ赤にして抵抗していた。
ただ多少は興味があるのか、タリヤやエルザの切るメイド服をチラチラと見ていた。
最終的にタリヤから言われた一言で素直に従うことにしたようだ。
ちなみにタリヤの声は小さかったが、俺の耳にも辛うじてその言葉が届いた。
「アルトとお揃いですよ」
それがタリヤからシズネが言われた一言だった。
ま、まあ形から入るのは大切だからね。|
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます