第485話 旅行・6
「へえ、あんたらがエルザとアルトね。話には聞いてるよ。三人は迷惑を掛けてないかね?」
モリガンの言葉に、エリスが楽しそうにクスクス笑っている。
「は、はい。お姉ちゃんたちには色々教えてもらっていますし。良く料理も一緒にしています」
エルザは緊張した様子で答え、アルトはエルザの後ろでコクコクと頷いている。
「そうかい? ならこれからもよろしく頼んだよ」
セラが料理の言葉にちょっと気まずそうに視線を逸らしたのは、とりあえずスルーすることにしたようだ。
まあ、セラは料理がちょっと苦手だからね。
その分他のことで手伝いをしているから、差し引きゼロだと思う。
だからセラもそこまで気にする必要はないと思うんだよな。
ナハルの町では、主にエリスが率先して案内してくれた。
俺たちも何度か訪れているけど、なんか来るごとに大きく変化しているような気がする。
町の人口も少しずつだけど増えているということも聞いたしね。
「なんか不思議な感じかな」
町中を歩きながら、シズネはキョロキョロと周囲の様子を見ている。
「ほら、僕たちはあまり町を歩いて回るってことがなかったからさ。はっきりいって珍しいだよね。感覚としては外国に旅行に来ている感じだよな」
シズネたちは王国では基本王城の中で生活していたし、外に出た時も基本魔物と戦ってレベル上げをしていたということだ。
プレケスはダンジョン攻略のために長い間町に滞在していたけど、こうやって自由に歩き回ることはなかったという話だしな。
町にいる時は豪華な宿で休憩し、他はダンジョンの中で生活。
しかも他者との交流は皆無だったから、話し相手はいつもコトリたちか付き添っていた騎士団の人たちだけだったようだ。
たぶん、シズネたちがプレケスのダンジョンを利用していた時は、他の人たちの利用を制限していたという話だし、それで他の人と出会うことがなかったんだと思う。
王国としては他の人と接触されて、この世界の情報を入手されるのを警戒していたのかもしれない。
「マジョリカもいい所だし、エルザたちに案内してもらうといいよ。確かに生活は色々不便なことが多いかもしれないけど、慣れたら悪くないよ」
料理も美味しいものが多いしね。
「……そうだね。そうさせてもらうよ」
シズネはそれだけいうと、エルザたちに混じって町の散策を楽しみ始めた。
屋台で買い食いをしたり、見たことがない道具を見てその使い方の説明に真剣に耳を傾けている。
結局ナハルには三日間滞在することになった。
予定ではもう少し旅を続けて、エルド共和国の首都であるフラーメンにも行く予定だったけど、結局マジョリカに戻ることになった。
色々な環境変化を体験した影響もあるけど、一番は馬車での移動が原因だと思う。
やはり旅慣れた俺たちと違って、疲れがたまっていたようだ。
「別にまた行けばいい。時間はたくさんある」
ヒカリの言葉に、二人は頷いていた。
「おう、帰ったのか」
マジョリカに戻ってよく皆が集まる部屋に顔を出すと、サイフォンたちがいた。
「もういいのか?」
と聞かれたから、戻ってきた理由を話した。
「まあ、旅は慣れないと辛いからな。それよりも……」
「ああ、彼女はシズネ。しばらくの間ここで働いてもらう予定だ」
「そうか。まあ、よろしくな」
その後シズネの部屋を用意したり、エルザたちにはゆっくりしてもらったり、サイフォンから俺たちがいない間のマジョリカの様子を聞きながらその日は過ごした。
どうやらダンジョン攻略に関してはかなり大きな動きがあったようで、今まで競い合っていた大手クランが連合を組んだことが大きな話題になっているとのことだ。
「どうも俺たちが最初に四五階に到着したことがきっかけだったみたいでな」
サイフォンの話では新参者の俺たちが最前線に立ったことで、古参の人たちがプライドを捨てて手を取り合って攻略に乗り出したということだ。
「唯一【守護の剣】だけは単独でこのまま攻略するみたいだけどな」
クラン同士が手を組むことで、精鋭を揃えて攻略出来るという利点は確かにある。
ただ逆に連携面では精度が落ちる。
もちろんダンジョンの下層で戦えるレベルの人たちだから、合わせることは十分可能だが、急造ではカバーできない場面というはどうしても出てくる。
サイフォンはそう言って、【守護の剣】が連合に入らなかった理由を語った。
「それでどうする? 近日中に装備は届くらしいぞ」
「……シズネを案内しながら、消耗品の確認をするよ」
「そうか……けどな。あまり女性を増やすのはどうかと思うぞ?」
これからのことを話していたら、最後にサイフォンにそう言われた。
確かにまた女性が増えたわけだけど、別にシズネはそういうわけじゃないんだけどな……。
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