第483話 旅行・4
シズネを連れてエリルの町に戻ってきた。
転移を体験したシズネは酷く驚いていた。
「ふん、こんな力を持ってる奴を追い出すとか。連中は馬鹿だったんだな」
と皮肉を言うのも忘れなかった。
「なあ、コトリたちと合流しなくて良かったのか?」
「……コトリたちは今冒険者やってるんだろ? 邪魔しちゃ悪いしさ。それと少しのんびりしようと思ってさ」
アルロンに置いてかれたからなのか、シズネはそんなことを言った。
さっきまでは手伝いをさせてくれと駄々を捏ねていたのに、すごい変わりようだ。
まあ、それほどショックだったのかもしれない。
俺も問答無用で置いて行くとは思っていなかったから驚いたけど、それ程危険なのかもしれない。
基本魔人で非常識な人は……一部にいたな。
「あらお帰りなさい。遅かったですね」
帰ったらスイレンにそんなことを言われてしまった。
「そちらの方は?」
「ああ、アルロンって魔人の人が保護してた人です。向こうで会ってお、危ないから連れ帰ってくれないかと頼まれたんです」
思わず押し付けられたと言いそうになった。
「そうですか。ようこそエリルへ。何もない所ですがゆっくりしていってください」
俺はとりあえずエルザたちが何処にいるかを聞いた。
レーゼの滞在も終わったし、そろそろナハルに行こうと思っていたからだ。
これについては既にスイレンには話していて、馬車を用意してくれることになっている。
さすがにあの二人が歩いて行くには距離があるからな。
一応ゴーレムを使うことも考えていたけど、エリスも一度ナハルに帰るということで今回はその好意に甘えることになった。
「なあ、今の人。耳が尖ってたけどエルフか? 初めて見た」
とシズネが言ってきた。
静かだったのはエルフを見たのが初めて驚いていたからみたいだ。
「あ、お兄ちゃん」
俺たちのことを一番に見つけたエルザが声を上げると、ワラワラと子供たちが集まってきた。
「誰だ、その姉ちゃん」「知らない人?」「顔真っ赤か」
シズネは瞬く間に囲まれて、言葉通り顔を真っ赤にしている。
四方八方から飛ぶ質問に右に左と忙しく顔を動かしている。
ただ一人一人の言葉に丁寧に答えている。
やがて解放されたシズネは肩で息をしていた。
シズネを解放した子供たちはというと、元気に走り回っている。
「お疲れ様。大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
息を整えながらシズネは、走り回っている子供たちに目を向けた。
「なあ、これからどうするんだ? ここに残るか?」
「ソラたちはどうするんだよ?」
「俺たちはダンジョンの攻略の途中だからな。一度ナハルまで行ったらマジョリカに戻る予定だ」
「マジョリカ……魔導国家か……」
「スイレンさんが通信機を持ってるから、用があれば連絡してくれてもいいしさ」
俺の言葉にシズネは考え込んでいる様子だった。
「あの、お兄ちゃん」
そこにエルザとアルトがやってきた。
走り回ったから汗をかいたようで、その額には大粒の水玉が浮かんでいた。
俺は洗浄魔法を二人にかけてやると、
「そろそろここを旅立つんですよね?」
「ああ、悪いな。せっかく仲が良くなったのに」
「ううん、それは大丈夫です。それは分かっていたことですから」
エルザは少し寂しそうに言ったが、ここに残るという言葉は出てこなかった。
ただここで予想外の行動に出た者がいた。
シズネだ。
「か、か……」
と言っていたと思ったら、
「可愛いー」
とエルザとアルトを抱きかかえたのだ。
「なに、この子たちとどういう関係よ!」
シズネは二人を抱えながら聞いてきた。
だから俺はマジョリカに一緒に住んでいて、家の管理をお願いしていると教えた。
「なに、こんな小さな子を働かせているの!」
と怒られた。
そこでエルザが間に入って、エルザとアルトが俺たちのもとで働いている理由を説明し出した。
「そう、大変だったんだね」
シズネは二人をギュッと抱くと、
「分かった。ボクはソラたちに付いて行くよ。二人の面倒を見ながら働く!」
と宣言した。
突然のことにさすがに戸惑ったが、本人にやる気があればいいのか?
「シズネが決めたなら文句はないが……家事とか出来るのか?」
うん、そこで目を逸らすのはどうなの?
「エルザ……大変かと思うけど色々と教えてやってくれ。あとシズネは働きながら何かやりたいことが出来たら遠慮くなく言ってくれよ」
「ああ、分かったよ」
俺の言葉にシズネは素直に答えたけど、生返事だった。
その視線の先は二人に注がれていて、そっちに夢中になっているようだった。
とりあえずこの件に関しては様子見が必要かな?
あ、それとコトリにもこのことは伝えておかないとだ。
その二日後。予定通り俺たちはナハルに旅立った。
さすがに別れる時は別れるのが嫌でぐずる子がいたけど、お互い手紙を書こうという話で落ち着いたようだった。
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