第480話 植物の精霊
エリスが言うには、新しく契約した精霊だということだった。
今もエリスの近くを浮かんでいる。
魔力察知を使うと、この辺りは精霊の反応が多数ある。
エリアナと会った影響かは分からないけど、魔力察知で精霊の反応の見分けがつくようになった。
意外とこの世界は色々なところに野良の精霊がいたりするけど、町中ではあまり見掛けない。
「畑仕事を手伝っていたら出会った子で、最初の頃は私たちの作業を珍しそうに見守るだけだったの」
それが何日も続いたある日。その子から話し掛けられたとのことだ。
「悪い子ではなかったし、時々精霊の力を使って植物の成長を速めてくれたりしていたの。ただ精霊は契約者がいないと力に制限がかかるから、それ程強くはなかったのよ?」
なかには能力が極めて高い精霊もいるから、契約者がいなくても強い力を行使することが可能な精霊もいるそうだが、それは稀だということだ。
まあ、エリスはその稀な精霊と既に契約しているみたいだけど。
「たぶん、自分が植物を成長させたことで、畑仕事をしていた人たちが驚いたり喜んだりしているのを見て、もっと力を使いたいと思ったんだと思うの」
エリスの言葉を肯定するように、一体の精霊の反応が強まった。
それ以来その精霊の力を借りて畑仕事をしていたら、作物は大きく育つし味も良いし、成長するまであと何年も待つ必要があると思っていた木もすくすくと成長した。既に果実をつけるまでになったそうだ。
確かに樹木には色とりどりの果実が生っていて、その表面は光沢がかかっていて美味しそうだ。
それは説明を受けていたルリカたちの視線も釘付けになるほどで、それを見ていたエリスが可笑しそうに笑うと一つずつ採って寄越してくれた。
その赤い外見をした果実は一口食べれば甘さが口の中に広がる。
俺的にはちょっと甘さが強く感じたけど、ルリカたちにはちょうど良いみたいだ。
「甘くて美味しいね」
とその果実のことを褒めたら、それを聞いた件の精霊が彼女たちの周囲をくるくると飛び回っていた。
「けど、大丈夫なの?」
「他でやると少し問題があるかもね。だからここで力の使い方の練習をしているの。どうも張り切り過ぎると、この子も自分の力を上手く制御出来ないみたいだから」
クリスの問い掛けに、エリスが丁寧に答えている。
確かにこの作物を成長させるという力は、欲しいと思う人は多い気がする。
例えばここエルド共和国でも、俺たちがナハルに到着した当初は食糧難で困っていたことがあったほどだ。
だからその力を聞きつけた人たちが、それこそエリスによって恩恵がもたらされたことを知れば、攫ってでも手に入れようと考える者がいてもおかしくない。
さらにはこの世界に美食家なんてものが存在するか分からないが、そういう人たちに目をつけられるなんてこともあり得る。
勝手なイメージだけど、我が儘貴族にいそうな感じを受ける。
まあ、エルド共和国の人間ならモリガンの息のかかったこの地に手を出そうとは思わないだろうし、仮に他の国から噂を聞きつけてやってきても、変化の術で人になっている魔人が何人も待機しているから、大丈夫だとは思う。
「あ、エリス姉ちゃん!」
しばらくエリスと話しながら畑の見学をしていたら、ヒカリたちがやってきた。
あっという間にエリスは子供たちに囲まれて話し掛けられている。
ナハルに滞在中、スイレンの家にお世話になっているという話だし、接する機会が多いのだろう。
ただ子供たちの態度を見るに、ただ単に一緒に生活している以上の信頼のようなものを感じた。小さな子には抱っこを要求されて、楽しそうにそれに応えているし。
またその中には、エルザとアルトが子供たちと楽しく話している姿もあった。
特にアルトは興味深そうにキョロキョロと周囲を見ながら、珍しく積極的に話をしていた。
「どうも初めて見るものが多くて興奮しているみたい。最初は他の子たちの勢いに押されていて、エルザの陰に隠れてたんだけどね」
ミアが近付いて来て、そっと教えてくれた。
そんな二人を見るミアの目は、優し気で何処か子供を見守る母親的な感じを受けた。
ある意味俺たちの中では一番エルザとアルトと接する機会が多いのはミアだし、二人の変化が嬉しいのかもしれない。
お昼は結局、手伝った流れで採れたて野菜を使った料理を振る舞われることになって、バーベキューみたいな感じで皆でワイワイ騒ぎながら食べた。
エルザとアルトが料理の手伝いをすると、子供たちから驚きの声が上がった。
エリスが言うには、子供たちはあまり料理の手伝いをしないから、料理が出来る姿を見て感心しているんだろうと言った。
その際ルリカたちの方を見ながら言ったから、昔のことを思い出していたのかもしれない。
そしてルリカたち三人はエリスのその言葉を受けて、何故か目を逸らしていた。
けどルリカたちがエリスと一緒に生活したのは小さな子供の時だし、それは仕方ないと思う。
それともこの世界では、小さな子でも手伝うのが一般的なのだろうか?
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