第479話 旅行・2
突然見えていた光景が変わって驚いたのか、初めて体験した三人はキョロキョロと周囲を見ている。
といってもここは転移の地点に設けた場所だから、特に何か珍しいものがあるわけじゃない。
ただ掃除をしてくれてあるようで、ほこりっぽくもないし清潔だ。
「二人とも、行く」
ヒカリがエルザとアルトの手を引いて、部屋の外に出て行った。
俺たちもそれを追うように部屋を出ると、騒がしい声が聞こえてきた。
声のする方に向かえば、そこには子供たちに囲まれたヒカリたちがいて、エルザとアルトが色々と質問攻めを受けているようだ。
エルザはその勢いにオロオロとして、アルトは二人の背後に隠れるようにしている。
「はいはい、皆さん落ち着いてください。それではヒカリさんたちも困ってしまいますよ」
声を聞きつけてやってきたのか、スイレンが手を叩いて子供たちを静かにさせた。
「とりあえずヒカリさん、紹介していただいてもいいですか?」
「ん、任せる」
指名されたヒカリが子供たちにエルザとアルトのことを紹介し、ここに来た目的を話すと、子供たちはまたワイワイ騒ぎ出して、
「ならこの町を案内してやる!」
と誰かが叫ぶと、三人の手を引いて外に出て行ってしまった。
「私も付いて行くね」
ミアは子供たちの楽しそうな様子を微笑んで見ていたけど、何かあってもいいようにヒカリたちに付いていくことにしたようだ。
結構やんちゃな子が多くて、よく怪我をする子がいたからな……それを心配したのだろう。
「あらあら、それよりも……久しぶりですね、レーゼ」
子供たちが外に出て行くのを見守っていたスイレンは振り返ると、レーゼに声を掛けた。
「……はい、お久しぶりです。スイレン様」
答えたレーゼの声質には少し硬さを感じた。
「ソラ、私たちも行こう。邪魔しちゃ悪いと思う」
クイクイ、とクリスが袖を引っ張てきて小声で言ってきたから、俺はチラリとレーゼの方を見て頷いた。
「それじゃ俺たちも少し町の様子を見ようと思います」
「そうですか? あ、でしたら畑の方に行ってみてください。ちょうどエリスさんが来てくれていますから」
「え、エリス姉が?」
スイレンの言葉にルリカが声を上げて、ソワソワし出した。
それはルリカだけでなく、クリスやセラも同じだ。
「分かりました。ちょっと行ってみます」
俺たちはレーゼを残して家を出ると、スイレンの言っていた畑の方に足を向けた。
いや、そんなに急がなくてもエリスは逃げないと思うよ?
俺はそう思ったが、他の三人は違うようだ。
徐々に歩く速度が上がっている。
だから町の中心地から離れた場所に畑はあったのだが、それ程時間がかからず到着した。
「ここ、だよな?」
はずなんだけど少し自信がない。
それは目の前に広がる光景が、前回来た時とまったく違ったからだ。
「どっかから木を持ってきて植えたのかな?」
ルリカも自信なげに呟いていた。
確かにここを発って、フリーレン聖王国に寄ってエーファ魔導国家に移動した。
その後もダンジョンに通っていたし、時間はかなり経っている。
それでも木が成長する速度を考えるとこの光景はありえないと思う。それとも異世界の木は成長が違うのか?
「そんなことはないから」
心の中で言っていると思ったら声に出ていたようだ。
ルリカから鋭いツッコミを受けた。
「あれ? クリス? それにルリカとセラも、どうしたの?」
四人で立ちすくんでいたら、木の向こう側からエリスがその姿を見せた。
会った当初と呼び方が変わったのは、三人が子供扱いされるのを嫌ったからだろう。
「あ、お姉ちゃん。スイレンさんからこっちに来ているって聞いたけど、ここで何をしているんです?」
「畑作業のお手伝いかな?」
そう言って案内された先は、もういつでも収穫出来そうな野菜が育っている畑が多数あった。
さっき見た木も果実が生っていたし、聞けばもうすぐ収穫できるところまできているとのことだ。
「これも全てエリス様のお陰だよ」
農作業をしている一人が言えば、皆そうだそうだと頷く。
「あの、そのエリス様という呼び方はどうにかなりませんか?」
「そうは言ってもな。これだけの偉業を為してくれたお方だ。それにま……エルフ様には、スイレン様をはじめお世話になっているからな」
今魔王様と言い掛けたよね?
けどここの人たちはスイレンたちのことを崇拝とまではいかないけど、頼りにしているから仕方ないかもしれない。
サイフォンが言うには、エルフ信仰の強い地域ってのはあるって話だし。
「それよりお姉ちゃんのお陰って何ですか?」
「うん、私と言うか、新しく契約した精霊様のお陰かな」
エリスはそう言うと、両手を広げて呪文のような言葉を呟いた。
するとその先には、強い魔力を持った何かが現れたのが分かった。
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