第478話 旅行・1

「お出掛けですか?」

「うん。ちょっと遠くまで出掛けるから、その準備をしようと思うの」


 ミアの言葉に、エルザがしょんぼりとしていた。


「あ、今回はエルザちゃんたちも一緒だから、それで着替えとかの準備をエルザちゃんたちもしてほしいの」


 その姿を見てミアが慌てて自分たちだけで行くわけじゃないことを説明している。

 どうもミアの言葉が足りず、エルザは勘違いしたようだった。

 あの二人の準備に関してはミアに任せればいいだろう。

 ヒカリたちは朝一で町へと出掛けて、色々こちらでしか買えない物を探しに行っている。いわゆるお土産を買いに行ったわけだ。


「サイフォンたちはいいのか?」


 今回の休息期間で行こうと思っているのは、エレージア王国の王都と、エルド共和国のナハルとエリルだ。

 そのためサイフォンたちも里帰りになるかと思って誘ったが、


「誰か知り合いが訪ねてくるかもだし、その留守番をしておくよ。装備も揃えないとだからな」


 ということで、マジョリカに残って留守番をしてくれることになっている。

 俺はとりあえずヒルルクたちの家に向かい、エリルに行くことを伝えにいくことにした。

 帰りたいという人もいるかもだし、手紙などを送りたい人もいるかもしれないからだ。

 俺がそう思って訪れたら、そこには意外な人物がいた。


「ギルドマスターが何故ここに?」


 そう、冒険者ギルドのギルドマスターのレーゼがヒルルクたちと話していた。しかも楽しそうに談笑して。


「言ってなかったのですか?」


 といつもと違うヒルルクの口調も気になったが、言われたレーゼが困ったような表情を浮かべたのも気になった。


「そうですね。この際君には話しておいた方がいいですね」


 レーゼの話は、元々はレーゼは最果ての町の住人で、情報収集のため町を出た者の一人だということだ。

 それを聞いて確かに驚いたが、それ以上にレーゼが自分はハーフエルフだと言ってきたことの衝撃の方が強かった。


「えっ、確か人間という表示が出たはずだけど……」


 思わずそう呟いたら、


「そこは鑑定を阻害する魔道具を身に着けていますから。ハーフエルフは外見は人種と大差ないから普通の人には見分けがつかないでしょうからね」


 と教えてくれた。


「それでソラは何をしにきたんだ?」

「連続してダンジョンに潜っていたから、少し休息日を設けることになったんだ。それでエルザたちを連れてナハルや王都に行こうと思って。それでヒルルクたちはどうかと思って聞きにきたんだ」

「……俺たちは来たばっかだしな。まあ、手紙を届けてほしいって奴はいるかもだから聞いておくよ。それよりいっそレーゼさんを連れてってくれないか。スイレン様たちに会いたいと思うし」


 レーゼは最果ての町を出て既に十年以上経っているという話で、その間一度も里帰りをしていないと言う。


「スイレン様たちがエルド共和国に移住した話は聞きましたが、さすがに長期間ギルドを留守にする訳にはいきませんよ?」

「……内緒にしておいて欲しいんだけど、転移のスキルで一瞬で移動することは可能なんだ。まあ、色々条件があるんだけど。日帰りも出来るけどどうする?」


 ヒルルクがどうにか出来ないかというような視線を送ってきたから、とりあえず誘ってみた。

 迷っていたようだったが、最終的に行ってみたいということで一緒にナハルに行くことになった。

 一応明日出発する予定で無理そうなら送り迎えをすると言ったら、


「何とかしてきます。明日住んでいる家に向かえばいいですか?」


 と言って慌てて家を飛び出していってしまった。


「しっかりしてる人ではあるんだが、どっか抜けているところがある人だから頼んだぞ」


 とてもそんな人には見えないが、それなりに付き合いのあったヒルルクが言うのだから何かあるのだろう。

 その後俺は希望者に手紙を書いてもらい、それを受け取ると家に戻った。

 家に戻ったらヒカリたちが買ってきたお土産をアイテムボックスに回収。新鮮な野菜など食べ物関係がやはり多かった。


「冒険者ギルドのギルドマスターがねえ」


 俺がレーゼのことを話したら、ルリカたちは驚いていた。

 確かに俺も驚いたからそれは仕方ないのかもしれない。


「それよりエルザたちの準備は終わったのか?」

「うん。大丈夫だよ」


 ヒカリたちと話すエルザとアルトを見ると、少しそわそわしているような気がする。

 この町以外のことを知らない二人にとって、外に出るのは楽しみなのかもしれない。

 時々ヒカリが話す旅の様子を食い入るように聞いていたりするからな。

 そしてその翌朝。約束通りレーゼが家に訪れてきた。


「えっと、ちょっと荷物が多くないですか?」


 レーゼは大き目なバッグを背負い、その両手に手提げ袋も持っていた。


「……せっかくなのでお土産を持ってきました」


 本人も自覚はあったのか、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めていた。

 俺は一言断ってアイテムボックスにそれを仕舞うと、転移を使ってエリルへと飛んだ。

 初めて転移を体験するレーゼとエルザたちは不安なのか、俺の体を掴んできた。



 

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