第469話 マジョリカダンジョン 36F・37F

 ダンジョンの三十六階に出る魔物はジャイアント。そこは三十四階と変わらないが、一度に出る数が違う。

 ダンジョンは下に行くほど通路幅が広くなっているが、巨体のジャイアントが同時に五体現れても並んで通路を進行するのは難しいため、結局通路で戦う分には、脅威はそれほど大きくない。一度に戦える数が決まっているからだ。

 ただしこの階から変わったのは、通路の先に大きな部屋がいくつもあることだ。

 そこは一部屋五十メートル四方もあって、ジャイアントが五体以上いても十分自由に動けるほどのスペースがある。

 しかも部屋によっては固定湧きのような判定があるようで、討伐してから一定時間経つと再び魔物が湧くとのことだ。

 それを考えると部屋がある場所を警戒すればいいと思うが、通路にも出没するから気を抜くことは出来ない。


「あそこに陣取っているのは冒険者だよな?」


 小部屋に入ってまず目に入ったのは冒険者たちの姿だ。魔物はいない。


「魔物が湧くのを待っているんだろうな。ここで複数の巨人と戦うことを覚えてから、下の階に挑戦していくんだろうな」


 三十六階ではそういう人が多くいた。

 ただそれは三十五階への階段に比較的近いところで見られる光景で、先に進むほど人の姿が見えなくなる。

 次の階を目指すわけではないなら、戻ることを考えれば当たり前のことなのかもしれない。


「十体ぐらいなら、囲まれてもどうにかなりそうだな」


 俺たちのパーティーは人数は少ないが、バランスがそれなりにいいため今のところ苦戦らしい苦戦はしない。

 正直言って三十五階の方が大変だった。


「正直言ってこのゴーレムのお陰だ。こいつがいるからバランスよく守ることが出来ている」


 ガイツの言うことは間違いないだろう。

 これが通路だったら前後を守っていればいいけど、部屋など開けた場所だとそれだと手が回らなくなる。

 挑発スキルで魔物を引き付けることは出来るが、やはり限界がある。

 だから広い空間ではちょうど俺とガイツとゴーレムで三角形をつくるようにしながら移動している。

 あとは圧倒的な火力があることも大きい。

 その中でも一番突出しているのは今はクリスだが、MPの関係上どうしても常に魔法を撃つことは出来ない。強力な魔法の分、その負担も大きいからだ。

 その点セラとサイフォンは安定した高火力を出せるため、頼りになる。

 数が多い時は頭数を減らすために率先して戦い、減ってきたら今度はジンたちの補助に回ることでペース配分を考えて体力の温存も務めている。

 だから奥に進むほど俺たちも効率よく狩れるようになるし、魔物を倒すことでレベルも多少なりとも上がっていくからさらに強くなっていく。


 三十七階の階段前で一晩過ごした俺たちは、階段を下りた。

 三十七階に出る魔物は三十六階と同じジャイアントが出現する。

 ただ変更点があり、それが持っている武器だ。

 三十六階では近接武器。棍棒を使っていたが、三十七階では遠距離から攻撃出来るモーニングスターを持っている個体が現れる。

 比率的には近接戦闘の武器を持っている方が多いが、遠距離攻撃は直接後衛を狙えたり、また倒すためにはこちらから接近する必要があるため、陣形が崩れやすい。

 オーラシールドで防ぐことは可能だけど、それを使えるのは俺とガイツだからゴーレムが担当する場所がどうしても穴になってしまう。

 オーラシールドの範囲も任意で広げることは可能だが、広げる分だけSPの消耗は大きくなるし、強度もどうしても下がってしまう。

 それに相手にする魔物は遠距離攻撃をするジャイアントだけではないからな。

 ミアやクリスに以前作ったシールドを張れる魔道具を創造してゴーレムに渡すという手もあるが、あれは使用者の魔力を消費して展開するものだ。学習さえすればゴーレムでも可能だが、その分魔力を消費するから稼働時間が減るという問題もある。


「とりあえずオルガを中心に、こっちも遠距離攻撃で対抗するのが一番だな。あとはヒカリ嬢ちゃんも基本投擲ナイフでの援護を頼んでいいか?」


 サイフォンの意見に、コクリとヒカリが頷いた。

 これは武器の相性問題というよりも、投擲武器の扱いが一番上手いからだ。

 指の間にナイフを挟んで、複数本を同時に投擲するのは匠の技だ。しかも命中率も高いし。

 ただどんなに対策をとって、それでも擦り抜けて後衛に攻撃が流れてくる場合はやはり存在する。

 その最後の砦となるのはミアだ。

 彼女はプロテクションなどの補助魔法をメインに戦っているため、危ない時は魔道具のシールドで後衛を守る役割を担ってもらうことにした。

 これも全てレベルが上がって、魔力量に余裕があるから為せる技だ。

 ただ……、


「あまり無理はするなよ。辛かったら言うんだぞ?」


 ということはミアに伝えた。

 確かに魔力量では余裕があるが、遠距離攻撃をしてくる魔物の数が多い時は、四方からの攻撃に注意を払う必要が出てくる時があるため、集中しないといけない。

 その分貯まる疲労は増えていくことだろう。


「ふふ、ソラじゃないんだし。私は駄目な時は駄目ってしっかり言うから大丈夫よ」


 と、まあ、言われてしまった。

 実際のところ、三十七階の戦いは疲労が見えたら無理せず休憩を挟んで進んだこともあって、日数はかかったが無事通過することは出来た。

 ただそこで一つ問題が生じたわけだけど。

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