第468話 マジョリカダンジョン 35F・3
サアァァァァという今まで聞いてない音が聞こえたような気がした。
最初は気のせいでなく徐々にそれが大きくきた。
音のする方向の霧を吹き飛ばせば、木が左右に割れている光景が目に入った。
「トレント!」
それは本当に、地面を滑るようにこちらに進んできている。
ちょっと地面の下がどうなっているか気になるが、それは考えても仕方ないことだ。分かったところで何か役に立つわけでもないし。
「まずは相手の攻撃を防ぐぞ! 攻撃陣は各自の判断で攻撃を! オルガとヒカリ嬢ちゃんは周囲の警戒を頼んだ!」
確かにトレントが派手な登場で現れたが、敵はトレントだけとは限らない。
トレントは攻撃範囲に入ったのか、ある程度の距離を保ちながら攻撃を仕掛けてきた。
伸びる枝は鞭のようにしなり、不規則に、いっぺんに襲い掛かってくる。
ガイツとサイフォンが攻撃を防ぐが数が多い。
俺も盾を構えて攻撃を防ぎながら剣で叩き斬る。その際剣に火属性を纏わせる。
ルリカとジンも同じように枝を斬っているが勢いは止まらない。
それでも徐々にトレントから感じられる魔力が徐々に減っていくのが魔力察知で分かった。
そして戦端が開かれてから三十分後、トレントは完全に沈黙した。
「結構時間がかかったな」
「三体同時だったからね。あとは斬ったのが枝だったから、もしかしたら効率が悪かったかもしれない」
サイフォンの言葉に、ジンが考えを述べた。
「それはあるかもね。あとは見た感じ、トレントが同時に伸ばせるのは五本といったところかな?」
ルリカのその言葉には、ヒカリとオルガの二人が同意している。
二人は一歩下がった位置で警戒しながら戦いを見ていたからよく分かったと言った。戦いながらそれが分かったルリカを褒めているほどだ。
褒められたルリカはちょっと照れ臭そうにしていた。
その後トレントと戦って分かったのは、やはり枝を斬るよりも本体……幹を斬った方が魔力を大きく消費させることが分かった。
体を再生する時の魔力量が多いのが原因みたいだ。
あとは一度だけセラが幹をぶったぎったことがあったが、その時は一撃でトレントが沈黙してしまった。
そのことから地面から切り離されると、トレントは生きていけないということが分かった。
もっともそんな力技が出来る者はそんなにいないだろうというのが俺たちの共通の見解だ。
「けどトレントの素材も、昔は高かったみたいだけど今はそうでもないんだよな?」
「最初の頃はかなり高額で売れたみたいだけどな。荒稼ぎした奴がいる一方で、魔法使いの人口がそんなに多くないってのもあるかもしれないな」
休憩中、トレントの素材について俺はサイフォンと話した。
俺たちが最初にマジョリカに来た時は、結構な値段がしたが今は半分以下にまでなっていた。
「ただその分、魔法使いたちにとっては嬉しいことかもだけどな。あとは別の用途での使い道が研究されたら、また変わるんだろうけどな」
サイフォンが言うには、素材が多く取れれば安いから、新しいものを作ろうと研究する輩が増えるだろうということだ。
「例えば俺みたいに魔法が使えない奴でも、魔法が使える魔道具とかな」
今でもそういうものはダンジョンで手に入るみたいだが、やはり貴重なものらしく年に数本もオークションに出ればいいぐらいみたいだ。
「けどそういう杖って、魔法の威力は高かったりするのか?」
「そこは杖によって差があるみたいだな。一応強さは鑑定して調べてるみたいだけどな」
魔法しか効かない魔物もいるし、そこは普段使いというより切り札的なポジションになるそうだ。
「あとは例えば火の魔法が使える杖だったら、火の属性魔法の威力を上げる効果もあるって話だな」
それはトレントの枝で作った魔法の杖よりも強いとのことだ。
そこは一つの属性特化になっているからという理由もありそうだと思った。それが正しいかはまた別の話になってくるけど。
最終的に三十五階を通過するのにかかった日数は十日間だった。
その間一日に何度もトレントと戦う機会があったから、最後の方にはかなり効率よくトレントを狩ることが出来ていた。
やはりサイフォンが用意してくれた武器が大きかった。
それなりに属性が付与された魔法剣は出回っているらしく、お金さえあれば杖と違って手に入りやすいとのことだった。
ただ今回はエルド共和国のバックアップがあったからこそ、だとのことだった。
あとは視界が見え難いという環境は俺たちを消耗させるには十分で、階段に到着した頃には皆疲れ果てていた。
俺たちがここまで苦労したのは、やはり人数が少ないのも関係していたと思う。
ゴーレムが寝ずの番をしてくれたから、どうにかなったような気がする。
今だと新しい仲間を集めるのは難しいし、いっそゴーレムを増やしてみるのも一つの手かもしれないと思った。
ただ難点は、作っても学習させないと役に立たない可能性があることか。
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