第467話 マジョリカダンジョン 35F・2

 まず最初に遭遇したのはサイレントキラービー。名前の通り普通のキラービーと違うのは羽音がしないというところ。

 普段ならそれほど困る魔物ではないけど、気配察知などの探索系スキルの効果がいつもよりも低いということと、視界を奪う霧のせいで厄介極まりない。


「けどこれぐらいなら問題ない」


 木と木の間を縫うように接近してきたサイレントキラービーは、逆に音もなく近付いたヒカリの背後からの奇襲で命を絶たれていた。

 どうやらヒカリにとっては感知さえ出来れば簡単に対処出来る相手のようだった。

 短剣は小回りが効くから相性が良いのかもしれない。

 逆にサイレントキラービーにとっては不運だったのかもしれない。


「主、まだいるから注意」


 ヒカリのその言葉が終わらないうちに、俺も気配察知で魔物の反応を捉えた。

 どうやら森の奥から複数のサイレントキラービーが向かってきているようだった。

 俺は先日防具屋で新しく買った小さめの盾を持ち、空いた右手に持ったミスリルの剣を強く握り締めた。

 飛んできたサイレントキラービーは、子供の頭ほどの大きさで、普通のキラービーよりもちょっと小さい。

 ただお尻から生えている針の太さは、倍以上あるように見えた。

 俺は向かってくるサイレントキラービーに対して、主に突き攻撃で応戦した。

 素早く動き回る魔物に対して点攻撃となると当たる面積も少なく大変だが、そこは身体能力の差がものをいった。

 あとは小回りの効く盾によるシールドバッシュも効果的で、およそ一〇体いた魔物もものの数分で倒すことが出来た。

 ただ俺が倒した数よりも、ヒカリが倒した数の方が多かったのはさすがヒカリだといったところだ。


「とりあえず解体はまた今度な」

「……うん」


 俺の言葉にヒカリはちょっと残念そうだった。

 たぶん蜜を回収して舐めたかったんだろう。

 その後もサイレントキラービーの襲撃は続いたが、ヒカリやオルガの活躍で大して手間取ることなく撃退することが出来た。

 クリスとユーノが風魔法で気流を乱してくれたのも大きかった。

 あれはトルネードの魔法を応用して使っているみたいだった。


「森の中で全力で使うとその、環境破壊になってしまいますから……」


 とはクリス談。

 ルリカが言うには、昔は時々森の中での依頼でやらかしたそうだ。

 悪いとは思っても、自分の命優先と考えれば仕方ないと思う。

 そこが村とかで何か利用しているところだと問題になるかもだけど。

 それでもクリスは森で木を傷付けない方法を研究したそうだ。

 ユーノはクリスに魔力の籠め方とかを教えてもらったと言った。

 俺の見てないところで、色々と交流があったようだ。

 いや、俺もガイツから色々と盾の扱い方を教わっていますよ?


「一度休憩をとるか。さすがにこうも視界が遮られると神経使うからよ。消耗が早い気がする」


 サイフォンの言う通り、いつも以上に集中しているから疲れているのかもしれない。

 俺? 俺は歩いているから大丈夫ですよ。

 俺は皆を囲むようにシールドを使用した。

 これなら皆を囲むように使えばMPの消費は一回で済むから使っても問題ない。

 その分強度は弱くなるけど、それでも不意打ちの一撃は防ぐことは出来るはずだ。

 俺はアイテムボックスから温まった飲み物が入ったポットのようなものを取り出すと、それをカップに注いで皆に渡した。


「はー、やっぱ落ち着くよね」

「ありがたいさ」

「僕たちの場合はこれに慣れたら怖いけどね」


 ルリカとセラがフーフーと息を吹きかけて冷ましていると、ジンは逆に今後のことを心配しているようだった。

 たぶん俺たちと別れたあとのことを考えいるのだと思う。

 確かレイラにも昔同じようなことを言われた気がする。


「ダンジョンでお金を稼いで高性能のマジック袋を買えばいいんじゃないか?」

「ソラはそう言うがな。あれは金があっても買えるもんじゃないからな」

「そうよ、ソラ。オークションにそもそも出品されないものなんだから」


 俺の言葉にサイフォンとルリカが口々に言ってきた。

 確かに冒険者として活動していて手に入れたら、自分たちで使うって人が多いのかもしれない。

 実際売りに出されるのは、お金が必要な人だったり、もう冒険者を引退するから使わない人たちが出品するのが殆どのようだ。


「まあ、性能が低いやつはそれなりに出はするんだけどな。ただそうなると保存機能はついていても、長時間は無理だからな」

「その辺は鍋に入れるなりして温めたらいいんじゃないか? 燃料となるアイテムか木材でもれば、火を点けるのはユーノさんがいるから楽だと思うし」

「その手間がな……」


 俺の言葉にサイフォンが言葉を濁した。

 いや、それぐらいやろうよ。

 きっと女性陣の皆はそう思ったに違いない。


「調理用の魔導器具もあるんだから。あれなら楽だと思うよ?」


 ルリカの言葉に、真剣にサイフォンたち男性陣が悩んでいるようだった。

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