第466話 マジョリカダンジョン 35F・1

 再び三五階にやってきた。

 相変わらず霧が立ち込めて視界が悪い。


「とりあえず警戒しながらゆっくり行こう」


 この階で厄介なのは、霧だけでなく木の間隔の狭さだ。

 本来なら十字の隊列で魔法使いの三人を囲んで進むのだが、どうしてもそれを維持することが出来ない。


「ここだとまともに剣を振るうことも難しそうだな」


 特に大剣のサイフォンとは相性が悪い。

 あとは二刀流のルリカと……セラだとあの斧で木すらばっさりいけるか?


「ソラ、いくら私でもそれは無理さ」


 セラが斧で木を伐採しようとしたが、木は予想以上に堅く表面を傷付けるだけだった。

 俺も魔力を流したミスリルの剣を振り下ろして試してみたが、刀身の半分ほどが木に埋もれる形で止まった。そして引き抜くのに苦労した。


「おいおい、何やってるんだよ」


 とサイフォンに呆れ顔で言われてしまった。

 魔力を流したならワンチャンいけるかなと思ったんだけど、無理でした。


「とりあえずサイレントキラービーに関してはオルガとヒカリの嬢ちゃんに任せて、トレントに関しては守りを固めつつ戦ってみるしかないな」


 トレント。木の魔物で、主な攻撃は枝を伸ばしての遠距離攻撃が主体だ。他にも音による超音波攻撃もしてくるとあった。

 倒し方は三通りあり、一つは魔石を直接破壊する。ただこの場合は、トレントの木の素材としての価値もなくなってしまうようだ。

 理由は分からないが、魔石を破壊したトレントの体は普通の木に成り下がってしまうとのことだ。

 二つ目はゴーレムの倒し方と同じで、トレントの魔力を消費させる。魔力の消費させ方はとりあえず攻撃して枝や幹を傷付ける。

 するとそこを治癒・再生させるためにどんどん魔力を消費していくからそれを繰り返す。長期戦必須といったところか?

 一番の有効打は木ということで分かる通り火属性による攻撃だ。火魔法による攻撃も効くが、その場合威力によっては素材の回収が出来なくなる。

 それを最初聞いた時は、火加減次第では素材の回収が出来るのかと思ったほどだ。

 最後が地面から切り離す方法だ。

 これはどうもトレントが根から魔力を吸収しているからと言われているけど、真相は分からないそうだ。

 ただ切り離すのはかなり難しいそうだ。

 ちなみにトレントは地面に埋まったまま滑るように移動するそうで、進行方向に木があったら邪魔で進めないじゃないかと思われるが、木が避けていくという話だ。

 そして木が避けていく時に鳴る枝葉の擦れるような音で、接近が分かるという話だが、普通に風が吹いて揺れても音が鳴ると思うがどう違うのだろうか?


「そうだルリカ。これを渡しておく」


 サイフォンが取り出した剣は、魔剣の一種だった。


「えっと……これは?」

「ああ、ここの攻略に必要だと思って取り寄せた奴だ。ここはジンとルリカに頑張ってもらう予定だな」


 見るとジンも同じような魔剣を手にしている。

 鑑定して視ると火属性の剣であることが分かった。

 そしてサイフォンが手に持つのは盾だった。


「今回は俺が守りにまわるからよ。ガイツほどじゃないけど、そこそこいけるんだぞ? いい先生が近くにいるからな」


 ガイツを見ると、黙って頷いていた。

 盾を使っているのは見たことがないが、ガイツが口を出さないということはサイフォンに任せて大丈夫だと言うことだろう。

 むしろガイツにお墨付きをもらっているなら、かなりのレベルじゃないのか?


「サイフォンの奴は剣を振るっている方が好きだからね。まあ、任せて大丈夫だよ」


 ジンが俺たちというよりも、ミアとクリスを安心させるために声を掛けている。


「それじゃ行くとするか」


 サイフォンの言葉に、俺とヒカリを先頭に歩き出した。

 MAPを表示させ、さらに気配察知と魔力察知を使うが見える範囲は狭い。

 そしてその範囲内に反応はない。


「ヒカリは魔物の反応が分かるか?」

「……ううん。反応がない。ただ……」

「ただ?」

「いつもより分かる範囲が狭い気がする」


 俺だけでなくヒカリも同じか。

 確か前回この階に来た時にオルガも同じこと言っていたからな。

 本当なら皆にシールドを使っておきたいけど、MPが辛いことになるからな。

 時空魔法とか転移とか、俺が切り札的に使う魔法ってどれもMPを消費する上に、転移用の魔道具でMPが削られているのが地味に痛い。

 一応MP変換があるからその分上限を越して使用することは可能だけど、今度はSP管理が大変になるからね。


「ひとまずゆっくり行こう。音の聞きわけが出来ればいいけど、サイレントキラービーもいるから音に集中するわけにもいかないしな」

「うん。けどサイレントキラービーは蜜を体に貯めているってあった。だから狩りたい」


 ああ、そういえば魔物を調べている時にそんなことが書いてあった。

 さすが食に関することはよく覚えている。


「なら出来れば狩りたいな」

「うん、狩りたい」


 俺の言葉にヒカリは力強く頷いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る