第465話 マジョリカダンジョン 依頼・3

 元々勤勉な人たちが多いのだろう。マジョリカの生徒たちの吸収する力は凄まじいものだった。

 薬草の見分け方も数をこなすごとに、良質のものだけを採取し始めていた。

 

「す、凄いわね」

「そうさね。ボクたちじゃここまで集中力は続かないさ」


 薬草採取が苦手なルリカとセラが感嘆の声を上げている。

 その成長は薬草採取だけでなく、料理でも発揮されている。

 特に男子生徒の成長が著しいのだが、それには理由があった。

 何故か料理の上手い男子生徒が脚光を浴び始めたのだ。そのため我こそはと皆頑張り始めた。


「うんうん、料理が出来る子ってのは冒険者には少ないし、結構重宝されるんだよ」

「そうですね。私たちも色々な国を回りましたが、料理をする冒険者の比率は少なかったですね」


 ルリカとクリスの言葉と、女子生徒たちの熱い視線による賜物ではあるが。

 動機はどうあれ、頑張れるならそれに越したことはない。

 あとは見張りの仕方や野営地の選び方、ウルフやブラッドスネイクの解体方法なども教えることになったが、さすがに詰め込みすぎじゃないかと思ったが、誰一人根を上げることなく俺たちの説明を聞いている。


「食用として確保するなら血抜きをするのが大事なんだ」

「それなら複数狩った時は、一体を血抜きしている間に他の個体を解体して素材を確保していけば効率的になるのか」


 などなど、普段は荷物になって捨てるところが多かったが、それを活かす方法を話し合っているようだ。



「最初はどうなるかと思いましたが、今回ソラたちに頼んで良かったですわ」

「この試みは学園の方から頼まれたんじゃないのか?」

「安全に狩りが出来る方法はないかという話し合いはしているみたいですが、実はこれは私が個人的に考えたのですわ」


 レイラは生徒たちの様子を眺めながら嬉しそうにしている。


「何でやろうとしたの?」


 レイラと二人で話しているとミアがやってきて尋ねた。


「降臨祭を見に聖王国に行ったり、ケーシーちゃんを連れてルフレ竜王国に行ったりして、ダンジョン以外での活動を体験したのが大きかったと思いますわ。ただ盲目的にダンジョンの下層を目指すのではなく、もっと色々見て欲しいと思ったのですわ」


 そう語るレイラは、私ももっと早く気付けたら良かったと言っていた。


「それでレイラは料理の方は参加しないの?」

「い、家の方で練習しているから大丈夫ですわ。ここは後輩たちに道を譲るのが先輩というものですわ」


 ミアの追及にちょっと怪しい反応をしたが、そこは黙っていてやるのが優しさだと思ったから俺は沈黙を守った。

 その後魔物を狩ったり、薬草採取だけでなく木の実や果実を採ったりしながら六階の階段を目指した。


「今日はありがとうございました!」

「ヒカリちゃん、今度はお勧めの屋台を教えてね」

「クリスさん、今度魔法談義しましょうね」

「ミアさん、神聖魔法について今度話しましょう」

「セラの姐さん、また手合わせお願いします」

「ルリカ。また今度ね!」


 買取カウンターで清算を済ませ、ギルドを出たところで皆が口々にお礼を言って学園の方に帰って行く。


「レイラたちは行かなくていいのか?」

「私とケーシーちゃんは家の方に帰りますわ。それでソラ、一五階の探索ですがいつにしますの?」

「……早ければ早いほどいいし。準備がかかるようなら、その間に三五階の探索を先に済ませたいと思っているんだが……どうだ?」

「……それならソラたちが戻ってからお願いしますわ」


 レイラたちとは方向が途中まで同じだから一緒に帰った。

 本当は話したいことがあったようで、道中色々とレイラから話を聞かされた。

 もっとも俺たちも前回会った時もあまり多くは話せなかったから、レイラたちに何をしていたかを話した。


「そう、クリスのお姉さんが見つかったのですの」

「うん、あと行方不明だったお婆ちゃんも見つかったかな」

「それって例の元気な?」

「はい、会った時はちょっと元気がなかったけど、今は元気にしてますよ」


 クリスの報告に、レイラとケーシーはまるで自分のように喜んでいた。


「それでソラたちは他のダンジョンにも行きたいような話をしてましたが、マジョリカにはいつまでいるのですの?」

「ここの最奥を目指す感じかな? 問題は何階まであるかなんだけどな」

「あ~、確かにここのダンジョンはまだ分かっていませんものね。お隣のプレケスは確か二〇階だったような気がしますわ」


 それはナオトたちから話を聞いていた。

 階数は少ないが一階一階が広くて、尚且つ階によっては環境が悪すぎて大変なようなことを話していた。

 それでもあの時は王国だけでなく、プレケスの領主からも支援を受けていたから恵まれていたと言っていた。

 同行した騎士も強かったため、最後の二〇階以外は常に身の回りの世話をしてくれていたそうだったし。


「それじゃソラ、ダンジョンから戻ったら連絡を下さい。エルザなら家の門番も顔を知っていますの。彼女に頼むといいですわ」


 レイラたちと別れ、それから三日間休息と準備をして、三五階に再び足を踏み入れた。

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