第462話 引っ越し準備と手伝い

 翌日朝食を食べたら早めに商業ギルドに向かった。

 いつもは閑散としているイメージのあった商業ギルドだったが、今日は珍しく混んでいるようだった。

 そんなことを言っても、別に頻繁に足を運んでいるわけではないから普段が分からない。

 そもそも今回マジョリカに到着して来るのは二回目だし。


「家をお探しですか?」


 順番が来たので用件を伝えた。

 説明したのはクリスなんだけど。

 大人数の利用ですと話したら、


「新しくクランでも設立するのですか?」


 と割と本気で聞かれた。

 もしかして近頃そうやって家を買い求める人が多いのだろうか?

 とりあえず俺たちが希望する場所を話したら、いくつかの物件を紹介してくれた。

 予想よりもちょっと大きな家になってしまったが、仕方ない。

 個人的にしっかりしたお風呂があった方がいいよな、と思った結果です。


「大丈夫、かな?」


 とちょっとクリスは心配そうにしていたが、お金は結構稼げているから大丈夫なはず。

 むしろ掃除とかの確認がちょっと大変かもしれない。


「それなら何人か先に呼んだらいいと思うよ。足りない家具とかも揃える必要はあるんだしさ」


 それはルリカの言う通りだ。

 クリスに通信で確認してもらったら、女性陣を中心にいつでも行けるという話だった。

 転移用の魔道具はエリルに設置してあるから、いつでも迎えにいくことは可能だ。


「それじゃクリス。昼過ぎに迎えに行くって伝えてもらっていいか?」


 準備もあるだろうし、昼過ぎに迎えに行くことにした。

 それというのも、エルザとアルトがせっかく新しく買った外出着で町中を回っているので、もう少しそれを堪能してもらおうと思ったのだ。

 アルトは特に表情も変えず服に着替えて現れたが、エルザは最初ちょっと恥ずかしそうだった。

 それでもヒカリに手を引かれて歩いていたら徐々に慣れていったようで、今は楽しそうにヒカリたちと一緒に歩いている。

 子供の頃ってのは何も考えずに遊んだことだが、この世界じゃそれをするのは珍しいのかもしれない。環境にもよるけど。

 それを考えると今いる仲間たちは幼少期を普通の環境で育っていなかったなとは思う。

 ヒカリは王国の機関で間者としての教育を受けていたし、ミアにしても神聖魔法に目覚めたから親元を離れて教会に預けられている。

 ルリカ、クリス、セラたちは戦火に巻き込まれ、ルリカとクリスは冒険者として生きていくための訓練をしていたようだし、セラに至っては奴隷となって黒い森で戦いを強いられていたわけだし。

 それを考えると目的があってダンジョンに行かなくてはならないけど、こうやって息抜きをする時間を作ってやった方がいいと思った。


「どうしたの、ソラ?」

「ああ、いや、たまにはこういうのもいいと思ってね」


 ミアが振り返り小首を傾げて俺に聞いてきたから答えたら、


「確かにダンジョンに行っていると時はずっとそのことばかり考えているからね。特にソラは一人で色々やり過ぎなんだから、もっと気を抜いた方がいいと思うよ」


 とミアが笑いながら言ってきた。


「……資料を読んでダンジョンのことを俺に教えてくれれば助かるけどな」


 ミアさん、そこで何故目を逸らしますか?

 まあ本を読むとかの地味な作業はクリス以外苦手なんだよな。

 ヒカリは時々一緒に手伝いにきてくれるけど、気付いたら寝ている感じだ。必要になりそうなことだけはしっかり覚えているんだけど。


 結局家に戻ったのは、お昼を食べてからになった。

 ルリカたちがせっかくだからサイフォンとユーノを二人きりにさせてあげようという気遣いもあったようだ。

 帰った時にサイフォンからはレイラが訪れたことを教えてくれて、三日後にダンジョン前に集合ということになった。

 一応前日に詳しい話をしにまた来るとのことだ。

 その後転移用の魔道具を持って町の外に出て、エリルに飛んだ。

 家の中で直接飛んでもいいかもしれないが、一応入場門から入った方がいいだろうということになったからだ。

 先行組は獣人のヒルルクともう一人が手伝兼護衛みたいな感じで同行し、子供を含む婦人方が八人が行くことになった。

 必要なものをアイテムボックスに回収していたら、


「ソラさん、皆さんのことをよろしくお願いします」


 とスイレンが顔を出して頼みにきた。

 それから身分証を使って町に入ったらその足で家まで向かい、掃除他色々と忙しく働いた。

 俺たちだけでなくサイフォンたちも手伝ってくれたため、ダンジョンに行く前に引っ越しの準備は完了し、残りの人たちも転移で連れて来ることが出来た。


「俺たちもある程度生活に慣れたら冒険者になろうと思う。やっぱ腕っぷしが自慢だからな」


 ヒルルクはそういって一緒に引っ越してきた男連中と話していた。

 女性陣は子供の面倒をみつつ、何か仕事がないかを探すそうだ。

 冗談がどうか分からないが、冒険者もいいかもという人もいた。


「いや、あの人は冗談でなく本気で言っている」


 とヒルルクたちが戦慄をしていたが、もしかして強いとか?



 

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