第455話 買い物・2
「だ、大丈夫かなお兄ちゃん」
エルザが面白いほどオロオロしている。
目の前にはヒカリとアルトが、拳大の肉が三つ刺さった肉串を手に持って頬張っている。
確かにヒカリなら問題なく食べられると思うが、アルトは大丈夫かと俺も思った。
だけどアルトも嫌がっている様子はないし、ヒカリが注文する姿を目で追っていたからな。
「エルザも食べる?」
ヒカリに声を掛けられたエルザは、首が取れてしまうんじゃないかと心配するほどの勢いで激しく左右に振っていたけど。
「食べる子は育つ。アルトは小さいからたくさん食べて大きくなるといい」
ヒカリの言葉にアルトが肉を頬張りながらコクコク頷いている。
さながら師匠の教えに従う弟子のように見えなくもない。
ヒカリはそれを見て満足そうに頷くと、自分も再び肉に齧り付いている。
「まあ、無理はしないようにな。それよりエルザは何を食べるんだ?」
ここは冒険者ギルドの前にある屋台のためか、ボリュームのある料理が多く並んでいる。
ギルド前の屋台で食事を摂ることになったのは、解体を頼んでおいたオークの肉を取りに来たからだ。
「それなら、あの、スープにします」
エルザは野菜スープを選んだが、野菜スープとは名ばかりでゴロゴロした大き目な肉が入っていた。
まあ、ヒカリたちが食べている肉に比べたら小さい部類に入るんだけど。
クリスやミアもエルザと同じものを頼み、俺はサンドイッチのようなスライスされた肉と野菜を挟んだパンを食べることにした。
その後雑貨屋を回り薬草類や各種ポーションの値段を確認した。
人が多くなった影響で薬草関係の値段だけでなく、聖水などの値段も上がっていた。
どうやらアンデッドの階層を探索している冒険者が近頃増えてきた影響のようだ。
聖水は基本教会で作られるから、どうしても数に限りがある。
一応神聖魔法のあるスキルを使えれば、水を清めて精製することは可能だが、成功率と手間を考えると冒険者が自作することは稀だ。それならそのスキルで聖属性を付与した方が効率がいいからだ。
けど薬草の値段が上がっているのか……ちょっと五階に行って採取したいと思ってしまうな。
二五階の森だと毒草ばかりで普通の薬草は採れなかったし、あとは三五階の特殊フィールドがまた森になっているみたいだし、そこで採れるかだな。
その後は予定通り服屋に寄って、皆で買い物をした。
正確には俺を除く女性陣とアルトがワイワイと楽しく服を選んでいた。
最初はエルザも遠慮していたが、元々興味はあったみたいで、ミアたちに色々な服を着せられているうちに途中からそれがなくなっていた。
むしろあれだけの数を着せられていたのに元気なのが凄い。
楽しそうに服を選んで笑うその様子は、家でテキパキ働く時と違って年相応に見えた。
まあ、家のことはある意味仕事みたいな感じだからそれは仕方ないのかもしれないな。
買い物が終わったあとは、レイラたちと話した時に聞いたお店に寄った。
そこは近頃評判の甘味のお店だそうで、多くの人がいて賑わっていた。マギアス魔法学園の制服を着ている人もチラホラ見えた。
この世界の甘味は結構値段が高かったりするが、冒険者として稼いでいるのかな?
それとも甘味好きにはお金に糸目をつけない人もいるし、その可能性もあるのかもしれない。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「遠慮しなくていい」
「そうですよ。せっかくなんですから遠慮しなくていいのよ。ねえ?」
「そうね。あとはユーノさんのお土産も必要よね」
エルザはテーブルに並ぶケーキの数々に落ち着きなくしているし、ヒカリ、ミア、ルリカはどれを食べようか迷っているようだ。
俺はとりあえず一つだけもらい、アルトと一緒にゆっくり食べることにした。
俺たちが一つ食べるまでに、女性陣の前のケーキは一人あたり三つ消えているような気がするがきっと気のせいに違いない。
俺は紅茶に似たようなもので口の中の甘みを誤魔化しつつ、楽しそうに笑う一行を眺めていた。
「アルトも食べたい物があったら遠慮しないで食べた方がいいぞ」
俺の言葉にアルトは三つ目のケーキに手を伸ばしていた。
食後はルリカの宣言通りお土産のケーキをさらに大量に買っていた。
あ、はい。アイテムボックスにしっかり入れておきますよ。
人気店のようで次にはいつ来るか分からないし仕方ないか。
実際俺たちが店を出る時には、さらにお店の前に並んでいる人の数が増えていた。
この世界では食事の保存がしにくいから、テイクアウトの文化があまりないんだよな。屋台とかもその場で食べるのが主流だし。
だからだろう。俺たちが大量のお土産を買って持って行くのをお店の人も驚いていたようだ。
ケーキは夕食後にも振る舞われたが、ユーノが凄く喜んで食べていた。
もちろん女性陣も一緒に食べたが、夜は一つに抑えたようだ。
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