第454話 買い物・1

 朝目を覚まして食堂に下りてくると、エルザたちに混じって料理をしているユーノがいた。

 料理が苦手ということだったが、ミアに誘われて始めたようだ。

 ゴブリンの嘆きのメンバーたちは、ダンジョンに一緒に行っている関係で現在この家に住んでいる。

 どうせ部屋も空いているというのもあったが、現在マジョリカに多くの人が流れてきているという事情もある。

 王国や帝国のごたごたや、黒い森の派遣依頼を受けていた冒険者が次の仕事先として、ダンジョンを選んだというのもある。

 魔王関連の騒動が一段落した影響かどうかは謎だが、野良で出る魔物の数が減っているらしい。

 そもそもな話、魔王の存在自体が王国の自作自演の流れにもっていかれていると、サイフォンから聞いた。


「なあ、一つ聞いていいか?」


 食事を済ませてのんびりしているところ、サイフォンが尋ねてきた。


「なんであの子はメイド服を着てるんだ?」


 今現在、俺たちの目の前にはヒカリと一緒に体を動かすアルトの姿がある。

 服装はまあ……サイフォンの言った通りだ。


「男の子だよな?」

「ああ、そうだな」


 俺からはそうとしか言えないし、何故メイド服を着ているかと言われれば、着ているからとしか言えない。

 だってさ。ウィルのところで働いている時も、メイド服を着ていたって話だし。

 きっとあの人を誰も止めることが出来なかったんだろう。


「ま、まあ。本人が気にしてないんならいいんじゃないか? もしかしたらこの町の文化かもしれないし?」


 そんなことはないと思いつつとりあえず答えておいた。ないよね?


「そ、そうか……」


 きっと何かを察してくれたんだろう。それ以上サイフォンは聞いてこなかった。

 ちなみにアルトがヒカリと一緒に体を動かしているのは、別に健康のためではない。

 かといって冒険者になりたいわけではない様で、ヒカリが言うにはエルザのことをしっかり支えたいからとのことだ。

 何でもウィルの屋敷で働いている時も、基礎的な訓練は受けていたそうだ。

 例の方曰く、


「メイドたるもの主人を守るためには戦えなくてはいけません」


 だそうだ。

 エルザもしっかり訓練を受けていたようで、かなり上達したらしい。

 この世界のメイドは何処を目指しているんだろうか? ヨルのところのメイドさんも実は実力者揃いとか?

 ヒカリがそれを聞いて興味をもったらしくて模擬戦をしたが、筋は良かったそうだ。

 アルトはその差を埋めるために、ああやってヒカリに教えを乞うているわけだ。

 年齢差もあるし、無理にやる必要はないと思うが……せっかくアルトが積極的になったから邪魔をするのも悪いと思いヒカリに任せている。


「それでは今日は防具屋に行くんだったか?」

「ああ、どんな盾があるかちょっと見に行きたくて。あとは雑貨屋でポーションとかの価格も調査したり、あとは屋台巡りかな?」


 マジョリカに到着してからのんびり町を散策出来ていないから、それを今日実行に移そうというわけだ。

 ちなみにエルザたちも一緒にお出掛けだ。


 その後家事を済ませると、昼前に俺たちは出掛けることになった。

 食事は外で摂る予定だからこの時間になった。

 サイフォンたちは今日は休むと言っていたから留守番をしてくれるみたいだ。

 しかし……改めて町を歩くと目立つな。

 今日は冒険者用の服じゃなくて町中を歩く用のものに着替えているというのもあるが、男女比がおかしいことになっているのが原因だ。たぶん。

 しかもエルザとアルトは普通にメイド服だから、一見すると男一人に女七人のグループに見える。

 これでミアたちが奴隷の首輪をしていたら、俺はどんな目で見られていたことか……いや、前も見られていたけど、あの時は仮面をしていたからさ。

 エルザたちにはメイド服じゃなくていいと言ったんだけど、頑なにメイド服で行くと言ってきた。

 ただミアが言うには、普通の服をあまり持っていないからじゃないかとのことだ。

 だから今回の買い物はエルザたちの服を購入するという目的も追加されている。

 本人たちにはまだ言っていない。言うと絶対必要ないからって言うのが想像出来るため。

 まずは予定通り防具屋を訪問した。

 これはエルザたちにも伝えてあったし、俺たちの目的を後回しにして服選びなんて最初にしたら遠慮するに違いないと思ったからだ。

 そういえばこの世界に来て初めて装備を買いに来た時は、武器屋の主人に色々と相談に乗ってもらったな。

 正直今も色々と聞きたいところだが、お店が予想以上に混んでいるからそれは難しそうだ。

 むしろ普通の服装の俺たちとメイド服の集団を見て訝し気な視線を向けられている。


「前はしっかり守れるような盾ってことで大きな奴ばかり見てたけど、改めてゆっくり見ると色々あるんだな」

「これなんか小さくて私たちでも扱えそうですね」

「魔法の盾はあっちの棚か……ちょっと見ている人が多いね」


 俺と一緒にクリスやミアも盾を見ている。


「けどこれならソラが作ってくれた奴の方がいいかもね」

「うん、そうですね」


 ミアたちの言う通りかもしれないな。

 それならダンジョンで素材を集めて、創造で作っていった方がいいのかもしれない。

 けど俺の作る盾は魔力を使って力を発揮するような感じだからな。

 最終的に俺は今使っているのよりも一回り小さい奴を一つ買うことにした。

 これは手で持って使用というよりも、腕に付けて装備する感じだ。


「それじゃ次は雑貨屋……の前に屋台に行くか?」


 そろそろお昼時ということで、俺たちはその足で屋台を見て回ることにした。



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