第451話 ゴブリンの嘆き
マジョリカに到着して三日後の朝。今日、ついにサイフォンたちと会うことになっている。昨夜レイラからの使いの者が連絡をくれたからだ。
「ソラ、落ち着いたら?」
「そうそう、内緒にしていたことをまずは謝ればいいんだから」
「そうです。話したらきっと分かってくれると思いますよ?」
ミアには注意され、ルリカは気楽な調子で言い、クリスは安心させるように声を掛けてきた。
いやルリカ、他人事だからそう言えるんだぞ?
「主、当たって砕ける」
ヒカリさん、ちょっとその言葉はどうかと思いますが?
ミアたちが楽しそうにヒカリに言い回しが変だと教えている。
セラは一人見守る感じで傍観している。何か一言くれてもいいんですよ? 答える余裕はないかもだけど。
「お兄さん、お客さんです」
そんな中、エルザがサイフォンたちを案内して客間に入ってきた。
なんか戦いでもここまで緊張したことがないと思いながら立ち上がると、ちょうど部屋の中に入ってきたサイフォンと顔を合わせることになった。
サイフォンたちが驚きの表情を浮かべ、俺は気まずさを覚え、
「えっと、久しぶり」
とだけしか言葉が出なかった。
自分でも情けないと思ったが、どう声を掛けたらいいのか分からず、頭の中がぐちゃぐちゃになって、出たのがその言葉だったわけだ。
「ソラなのか? いや、本当に?」
サイフォンは驚きの声をあげて立ち尽くしたが、その横を通り抜けて近付いて来る人がいた。
その人は俺を強く抱き締め、
「生きていたんだな」
と涙を流していた。
その人は盾士のガイツで、ある意味ゴブリンの嘆きの人たちの中で、俺が一番お世話になった人だ。
「すいません、色々黙っていて」
「いや、いい。生きていたと分かっただけで十分だ」
その言葉に、正直救われた気がした。
もっと責められるかもしれないと思っていたから。
それからお互い落ち着いたところで、俺は順を追って説明することにした。
俺が何故あの時死んだことにして姿を消したか。
その後正体を隠して生活してきたかを。
サイフォンたちは最後まで黙って話を聞いていて、俺の話が全て終わると、
「大変だったんだな」
と言い、今は自由になったことを喜んでくれた。
「それでサイフォンさんたちは、レイラから話を聞いてきたんだよね? 私たちダンジョンに行く予定なんだけど、一緒に行ってくれるの?」
話が一段落したところでルリカが尋ねると、サイフォンたちが困ったように顔を見合わせた。
なんか視線で互いに牽制しているような感じで、最終的にユーノが微笑むと、サイフォンが観念したように口を開いた。
「その事なんだがな……実は俺たちも謝らなきゃいけないことがあるんだ」
そうしてサイフォンたちが話した内容は、実はサイフォンたちはエルド共和国所属の特殊部隊の一員みたなもので、いわゆる各国の情報などを集めるため動いていたそうだ。
その背景にはボースハイル帝国のエルド共和国侵攻が影響していて、各国の情勢を調べることで事前に被害を食い止めようとしたようだ。
ボースハイル帝国に攻められる前は、工作員みたいな人は多少はいたようだが、その数は少なかったそうだ。
サイフォンたちも昔から特殊部隊に所属していたわけではなく、冒険者だったのをスカウトされたそうだ。
声を掛けられたのは、ユーノが良いところのお嬢様だったのもあるそうだ。
「ユーノはお転婆だったらしくてな。まあ、家を飛び出して冒険者をしてたんだよ」
その話を聞いたミアがちょっと顔を赤くしている。
ありましたよね、貴女も昔。教会を飛び出したり、飛び出したり、飛び出したり。
「まあ、それで実はルリカとクリスの嬢ちゃんと王都で会ってから、それとなく指令を受け取ってたんだよ。過度な干渉は必要がないが、万が一の場合は守るようにってな。それであの時嬢ちゃんたちに接触したソラのことはちょと警戒してたんだ」
「まあ、悪く思わないで欲しい。ソラのことを調べたら何も情報が出て来なかったからね。怪しいと思ったわけなんだ」
サイフォンの言葉に、ジンが申し訳なさそうに理由を話した。
確かに俺の過去を調べようとしても、異世界からきたからこの世界において生活した記録は一切ない。怪しく思うのも仕方ないかもしれない。
「ただ中継都市で嬢ちゃんたちとはあっさり別れるし、その後も冒険者として一生懸命活動してただろう? だからまあ、気になって色々世話をやいたりしてたんだ。ガイツの奴も珍しく気に入ったみたいだしな。珍しいだぜ? あまり話さないこいつが積極的に色々教えたのは」
サイフォンはそう言うが、ガイツも面倒見が良かった記憶がある。
「……一ついいかな? 俺はまあ事情を説明するために色々話したわけだけど、サイフォンたちは何でそのことを話したんだ?」
「あ~、まあ、ダンジョン同行を断られないためだな。本当は俺たちもフレッドたちと一緒に獣王国に行く予定だったんだ。だがその直前に、嬢ちゃんたちがマジョリカのダンジョンに行くから、その手伝いを絶対するように連絡が入ったんだよ」
サイフォンが疲れたように遠い目をしている。
かなり強く言われたんだろうな。結構フレッドたちとは馬が合ってそうだったのに、それを断ってこちらに来たから。
「……お婆ちゃんのせいかもしれないです」
クリスがそれを見てぽつりと呟いた。
俺はそれを聞いて、可能性がありそうだなと思うのだった。
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