第449話 エルザとアルト

 マジョリカに到着してまず向かったのはもらい受けた家だ。

 仮に誰もいなくても予備の鍵を持っているから入ることは可能だ。


「確かこの辺りだったはずだけど」


 MAPを頼りに家を探せば、程なくして見付けることが出来た。

 この辺り結構似たような家が多いんだよな。


「来たのは一度だけだったけど、やっぱどう見ても立派な家、だよね?」


 ミアの言葉に、ヒカリ以外の面々は頷いている。

 確かにヨルやレイラたちの家と比べたら小さいけど、以前借りていた家と比べ物にならないほど大きい。

 一人一部屋使っても、部屋にはまだ余裕がある。少なくとも倍以上の。


「とりあえず中に入らない? もしかしたら掃除が必要かもだし」


 それはルリカの言う通りだ。

 定期的に掃除をしてくれることになっているが、掃除をしてから日が経っている可能性だってある。

 とりあえず中に入ろうと敷地内に足を踏み入れたところで、突然ドアが開いた。

 そこには小さなメイドの少女がいて、大きく目を見開いている。


「ソラお兄ちゃん? に……ヒカリお姉ちゃん?」


 そう呟く少女の後ろから、もう一人の少女……じゃない少年が顔を覗かせた。


「うん、久しぶり。元気だった?」


 ヒカリが問い掛けると、二人が駆け寄ってきてヒカリに抱き着いた。

 エルザは満面の笑みで、アルトも良く見れば嬉しそうだ。


「二人とも元気そうで良かったわ。それよりも掃除をしてくれてたの?」


 そんな二人の様子にミアの頬も緩んでいる。


「あ、そうです。お掃除の途中でした。アルトが人の気配がするって様子を見に来たら皆さんがいたから……」


 エルザの言葉にアルトがコクコクと頷いている。


「なら皆で掃除しましょう」

「だ、駄目ですよ。お掃除は私たちの仕事ですから」

「気にしなくていいさ。早く終わった分だけ、エルザたちの話を聞かせてくれればさ」


 ミアの提案にエルザがすかさず止めようとするが、セラがそれを無視するように家の中に入って行く。

 少し強引な気もするが、ここまでしないとエルザも首を縦に振らないだろう。

 その不器用な様子にルリカとクリスも後を追い、それをさらにエルザがバタバタと慌てて追っていった。


「アルト、案内して」


 ヒカリの言葉にコクンと頷いたアルトが、ヒカリとミアの手を引っ張って中に入って行く。

 あの人見知りのアルトがここまで積極的になるとは……と驚きながら俺も後を追った。

 エルザは掃除途中と言っていたが、中は綺麗なものだった。

 なんでも五日に一度のペースで掃除にきてくれていたみたいだ。

 結構頻繁に来ているんだなと思ったら、これも掃除の練習の一環だそうだ。


「お兄ちゃんたちはしばらく町にいるんですか?」


 掃除が終わり休憩していると、エルザが聞いてきた。

 最初にはっきりと俺と分からなかったのは、仮面をしていなかったからのようだ。周囲にヒカリたちがいたから、たぶん俺だと思って声を掛けたようだ。

 アルトも気になるのか、顔をこちらに向けている。


「ああ、またダンジョンの方に行こうと思ってな。とりあえずしばらくはいるつもりだ」


 そう言うとエルザたちは嬉しそうに笑った。


「あ、ならウィル様にそのことを伝えないと! あ、あの、また私たちも一緒に住んでも大丈夫ですか?」

「うん、一緒。またお家守って」

「そうですね。その方が私たちも安心ね」


 ヒカリの言葉にミアも相槌を打っている。


「とりあえず用意もあるだろうし、エルザたちも別の仕事があるかもしれないからな。とりあえず二、三日はゆっくりしていると思うから、良く話し合ってきてくれな」


 ギルドの資料室に行って、またダンジョンについて調べる必要もあるし、色々と物資も揃える必要があるかもしれない。

 アイテムボックスの中には食料や回復薬などの消耗品は入っているが、見落としがあるかもしれないからな。

 あとは単純に体を休める意味もある。

 聖王国内の殆どは馬車で移動してきたとはいえ、やはり疲労は溜まっている。

 ピンピンしているのは俺と……何故かミアも元気だよな。やっぱ種族が神人になったことが影響しているのだろうか? 単純にレベルが高くなって、体が丈夫になったからという可能性もあるけど。

 そういえば模擬戦をした時もミアは強かった。攻撃はしなかったけど、回避能力が物凄く上がっていた。

 その後は時間まで、エルザたちと色々な話をした。

 皆で掃除をした分、余裕が出来たからだ。

 俺たちが行った先々の国の話をすれば、それを楽しそうに聞いていた。

 特にヒカリの他の国で食べた料理の話には、興味津々みたいだった。

 ああ、分かっているよ。今度二人にも食べさせてあげるさ。

 ヒカリが何か目で訴えていたが、今料理を出して食べると、二人が戻った時に夕食を食べられなくなるかもしれないからな。

 その後二人を送りながらマジョリカの町を歩いた。

 特に真新しいものがあるわけではなさそうだが、久しぶりだから懐かしさを感じた。

 ただ町の至る所で、冒険者の姿を良く見掛けた。

 エルザの話によれば、ここ最近また増えてきたようなことを教えてくれた。

 人が増えてダンジョン攻略が進むのはいいが、結局最奥まで俺たち自身が行かないとだからな。

 ま、先に進む階が更新されれば、その分後発の俺たちは攻略情報が手に入るから、決して悪いことだけじゃないわけだけど。

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