第448話 それぞれの道

 テンス村を発ち、ロイエに到着した。

 その間料理の練習もしたし、ダンジョンについての話もさらに詳しく聞いた。

 また馬を休ませている時間に体を動かすために、模擬戦もやったりした。同じ姿勢で座っているだけだと体が固まってしまうから、適度な運動は必要だ。


「ソラさん。これを……」


 ロイエに到着し、ミハルから渡されたものがあった。通信機だ。

 二つ受け取ったけど、結局のところ殆ど使う出番もなかったため返してきた。

 俺たちが色々な場所に移動し、また多くの人と関わってきたことを改めて知って、必要ならその人たちに渡してあげてと言われた。

 それから俺たちはここで二泊して、次の旅の準備をした。

 といっても俺たちが買う物は特にないから、ナオトたちの買い物に付き合った形だ。

 あとはしばらくは一緒にいられないからということと、一緒に冒険者ギルドで依頼を受けたというのもある。

 時間もないし、近場で簡単に出来る依頼ということで薬草採取に行ってきた。

 俺は冒険者じゃないから関係ないが、折角なので採取した薬草類でそれぞれのポーションを作ってプレゼントしようと思いほどほどに頑張った。

 本気を出すと他の人たちの採取するものがなくなってしまうかもだしな。

 ナオトたちの中で一番薬草採取が得意だったのは、意外かもしれないがシュンだった。もともと生真面目な性格な上、記憶力も良かったようで、薬草、活力草、魔力草他、納品可能な薬草類の全てをしっかり覚えていた。しかもどれが品質の良いものかも、しっかり分けて採取していたのには俺も驚いた。

 鑑定便りの俺とは違うなとそこは素直に思った。

 その後薬草の納品を済ませ、宿に戻って食事を摂ったら、その後は思い思いに過ごした。

 アルゴは何やらルリカたちに相談を持ち掛けていたし、ナオトたちもヒカリやミアたちと談笑している。

 俺はポーション作製のため部屋に戻り、せっせと錬金術でポーションを作っていった。

 さすがに錬金術をしているところを、他の人……宿の客などに見せるわけにもいかないから。



 翌朝俺たちはロイエでナオトたちと別れた。


「プレケスのダンジョンで困ったことがあったら言ってくれ! すぐに駆け付けるからよ」


 ナオトは別れ際にそう言ってきた。

 それぞれが別れを惜しみ、無事再会することを約束した。

 俺たちは国境都市サイテを目指して歩き出すと、ふと気になったことがあったからルリカたちに聞いた。


「昨夜はアルゴたちと色々話してたようだけど、何を話してたんだ?」

「あ~、お婆のことを色々聞かれたんだよ」


 ルリカが苦笑しながら言ってきた。

 ナオトたちの付き添いとはいえ、エルド共和国から離れたことからモリガンのことは諦めたと思ったがどうも違ったようだ。


「あのままだとまともに話せないから、鍛えると言ってましたよ」


 とはクリス談。

 旅の途中でギルフォードから様子を聞いていたが、アルゴはモリガンを前にすると緊張して話すことが出来ないと言っていた。

 それを見たからか、最終的にギルフォードたちはギルちゃんと呼ばれていたが、アルゴはアル坊と呼ばれていたらしい。

 本人は俺だけ特別! と思っていたらしいが、旅の途中でルリカたちから「坊」は幼い子供たちを呼ぶ時に使うぐらいと言われてショックを受けていた。

 それもあって今回は精神を鍛える旅でもあるとか言っていた。

 それを情けないとは俺は言わない。

 むしろ少しだけその気持ちが分かるような気もする。

 難しいんだよな……俺は一緒にいることに関しては慣れているが、いざ大切な話をしようとすると緊張したことが多々あった。

 いや、今も大して変わらないから成長していないかもしれない。

 勇気がいるんだよな、本当に。


「ソラ、どうしたのさ?」


 そんなことを真剣に考えていたからか、割と本気でセラに心配された。


「……何でもないよ。それよりダンジョンをどうしようかと思ってさ。俺たちだけで行くか、それともレイラたちに手伝ってもらうか」

「私は手伝ってもらったらいいと思うけどね」

「私もルリカちゃんに賛成かな。レイラさんたちならある程度ソラたちの事情も知ってるし……ただ……」

「どうしたのクリス?」

「うん、学園に通っているなら、手伝ってくれる暇があるか分からないから……」


 クリスは心配しているが、ダンジョンに潜ることでもポイントが稼げるみたいだからその辺りは問題ないだろう。

 一番の問題は、レイラたちがどこまで一緒について来られるか。レイラ一人のレベルならある程度は大丈夫だと思うが、他の五人は別れた時のままのレベルだと大変だと思う。

 逆にレイラの父親であるウィルを通じて守護の剣に助けてもらうのが一番いいかもしれないが……。


「とりあえず最初は勘を取り戻すためにも俺たちだけでダンジョンに潜って。それからどうするか決めるか?」

「そうね……近頃魔物とあまり戦ってないしね」


 ルリカが答えたら、他の面々も頷いている。

 実際最後に魔物とまともに戦ったのは、王国で魔物の大集団を撃退した時だ。

 そしてロイエを出発してから一〇日後。俺たちはマジョリカに到着した。

 初めて来た時よりも移動時間が短くなったのは、やはりミアが旅慣れしてきたからだろうな。

 あの頃は体力もなく、休み休みの移動だったから。



 

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