第447話 テンス……村?
結局レントの町には寄らず、そのままテンス村を目指した。
そしてテンス村にはメッサを出発してから三日後の昼過ぎに到着した。
俺たちは立派な門を見上げ、身分証を提示して村の中に入った。
馬車は入口近くにひとまず停車場があるため、馬車はそこに停めることになった。
御者の人たちは馬の面倒を見ながら、停車場の中の建物の中で休むと言ってきた。
しかしテンス村……だよな?
村の中に入って見た光景に驚かされた。
確かにあれからかなりの日数が経っているし、様変わりしていても不思議ではない。
実際村を立て直すために人を派遣してもらうことになっているとも、あの時村長のマハトは言っていた。
それでも村の中は整備され、以前は家が点在していたのに、それが区画整理されてきちんと建てられている。特に入場門から続くメイン通りは、そこだけ見たら今まで見てきた大きな町とも遜色ないような気がする。
両側に建ち並ぶ建物は宿をはじめ、飲食店や雑貨屋、武器防具を扱っているお店まである。
外からでは詳しく分からないが、品揃えも悪くないように見える。
品質までは分からないが、少なくとも色々な種類のものが飾ってあるのは見えた。
「なんか凄い変わってるね」
「屋台もある」
「本当さ」
驚いたのは俺だけでなく、ヒカリたち三人も同じだった。
そんな俺たちに声を掛けてくる人がいた。
「あれ? もしかしてミア?」
それはテンス村にミアたちが避難してきた時に仲良くしていた娘の一人、ネイだった。
「やっぱミアだ。どうしたの? ヒカリちゃんとセラもいるし……ソラさんはいないの?」
ミア、ヒカリ、セラを順番に見て、その周囲にいる俺たちを見る。
その言葉に皆首を傾げているが、俺はふと思いついた。ネイたちが俺の素顔を知らないことに。
「あ~、久しぶり。こうすれば分かりやすいか?」
俺はアイテムボックスに仕舞っていた仮面をしてネイに話し掛けた。
「えっ、ソラさんなの?」
と本気で驚かれた。
「けどそうなんだ。いつも仮面していたから怪我でもしているのかと思ってたけど……ふ~ん」
ネイはジロジロ俺を見てきたあと、ミアを手招きして何事か話している。
久しぶりに再会したし、話したいことが何かあるのかもしれない。
「それでどうするんだソラ。ここで一泊するのか?」
アルゴたちにはテンス村には知り合いがいるから、出来れば一泊したいとは伝えてある。
了承を得ているから問題ないが、問題があるとすれば宿が空いているかどうかだ。
予想以上に人が多いため心配になる。
そんな俺たちの話声が聞こえたのか、ネイが宿は空いているはずだと教えてくれた。
それどころか案内までしてくれた。
その案内してくれた宿はメインとなる大通りから離れた場所にある宿だった。
そこはかつて、オークに襲撃された際に皆が立て籠もった宿であった。
あの時立て籠もるために作った外壁は崩されて、補修した個所も綺麗になっている。
ただこの辺りの雰囲気は、入口近くと比べて長閑な感じを受ける。
「本当はあの外壁も残そうって話してたの。けど今の村には邪魔になるからって言われて仕方なくね」
ネイは申し訳なさそうに言ったが、外壁の代わりに宿の周囲には家が何軒も建てられていた。
この辺りは元村人たちの家だそうだ。
またこの辺りには家畜を飼育する場所も確保されている。
農地は外壁の外にどうしてもなってしまったが、外壁を広げるとその分見張りが大変になるという事情もあったそうだ。
ただ今後人が増えたらまたどうするか検討すると言っていた。
ネイに案内された宿は、村の中心から離れているということもあって泊まる人は滅多にいないとのことだった。
なので宿というよりも、村の人を相手にした酒場といった感じだそうだ。
宿の主人もヒカリたちの顔は覚えていたようで、歓迎してくれた。やっぱり最初は俺に気付かなかったけど。
その後部屋分けをして、御者の人たちに泊まることを伝えに行きつつ村の中を一通り歩き、その後再び宿に戻ると、そこには村長のマハトや男たちのまとめ役となったエルクたちがいた。食事の用意も出来たようで、このまま皆で食べることになった。
俺はマハトやエルクと話、ミアたちは村の女性陣に連れられて向こうの席で話している。ルリカとクリスも一緒だ。
マハトからはやはり礼を言われ、近頃王国や帝国からの移住希望者が聖王国の方に入ってきているため、こちらに移住出来ないかと教会関係者から打診されていることを聞かされた。人が増えるのはいいが、少し不安もあるようなことを言っていた。
エルクからは愚痴を聞かされた。相変わらず農作業の方が性に合っていると言うが、エルクの元に集まる元奴隷の男たちからは引き止めの言葉が掛けられている。慕われているな。
アルゴやナオトたちもそこに混ざり、色々な話をしている。ナオトはアルゴや元奴隷たちと一緒にお酒を飲んだりしている。
俺はシュンたち未成年組で固まり、出された料理に舌鼓を打っていると、ミアたちの集まっている方から歓声が聞こえた。
耳を傾けると、どうやらセラがルリカたちと再会出来たことを喜んでいるようだった。初見のルリカたちは、それで色々と質問を受けている感じかな?
やがてある程度の時間が経過すると、一人、また一人と警備をしに行くと男たちが去り、やがて食事会はお開きとなった。
こうして俺たちはテンス村で歓迎を受け、一晩を過ごし、久しぶりにふかふかのベッドに体を休めて寝ることになった。
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