第445話 料理のお時間

 さすが高性能馬車は進むのが早い。今日メッサを出発したのに、明日にはレントに到着出来る。

 しかも到着するのは昼過ぎ辺りだから、急ぐようなら町に寄らないでそのまま進むのもありだ。

 俺としてはテンス村には寄りたいと思っているが、レントの町には寄らなくてもいいと思っている。

 宿でゆっくりしたいというなら仕方ないが、一度相談するのもありか。

 だがその前に大切なことがある。

 料理指導だ。

 といっても、それは主にルリカとクリスにミアの三人が、ナオトたち同郷の面々に簡単な料理の仕方を教えている。セラも一応助手的な立ち位置で参加している。

 俺は? と問われたら、一応俺も料理を教えている。ヒカリと一緒に、だ。

 相手はギルフォードたち、というか主にギルフォードだ。

 他の面子も興味はあるようだが、積極性は感じない。


「苦労しているんだな」


 と思わず出た言葉に、


「分かってくれるか~」


 とかなり本気で言われた。

 今日俺がギルフォードに教えるのは簡単な味付けだ。

 そもそも冒険中の料理だ。そんな凝った料理は作れないのが一般的だ。

 アルゴたちとナオトたちはそれぞれマジック袋とアイテム袋を持っているから、食材の持ち運びは可能だが、俺のアイテムボックスと違ってさすがに食材の品質保存は完璧ではない。

 アルゴたちのマジック袋は高品質なものだから、一〇日間ぐらいなら品質を保つことが出来るそうだ。馬車で町と町の間を移動する分には、十分すぎる性能だと思う。

 ただ保温性がないみたいだから、料理をそのまま買っても意味がないそうだ。

 まず教えたのは肉料理の味付けと焼き方だ。

 普通に肉串に刺して焼く方法と、鉄板焼きだ。

 これは調味料の使い方に変化はないから、どちらかというと焼き方や火加減について話した。


「う~む、焼き方でこうも変わるのか……」

「調理用の魔道具があると楽かもな。火の調整が焚火で調理するよりは楽になると思う」

「確かに……これなら一考の価値はあるかもな」


 俺が説明する傍ら、ヒカリの焼いた肉がアルゴたちにも手渡されていく。

 それを手に取り一口食べれば、アルゴたちも驚いている。

 その様子をヒカリがちょっと満足そうに見ている。

 肉の調理に関しては、ヒカリの料理も実は美味しい。変な調味料を使う余地がないからな……いや、オリジナルソースを作らなければといった方が正しいか。

 その後は野菜を使ったスープを教えた。

 これはどちらかというと調味料の説明だな。野菜本来の甘みなどを生かし、少ない調味料で味を調えるスープから、いくつかの調味料をスープ用に調合して作ったものを使ったスープなどなどだ。


「そんな複雑な調合じゃないんだな」

「これは簡単なやつだからな。だけど味は悪くないだろう?」

「ああ、確かに……これなら俺たちでも問題なく作れそうだな」


 ギルフォードが意味ありげにアルゴたちの方を見たら、物凄い速度で視線を逸らしていた。

 うん、手伝う気はなさそうだ。肉料理の時はそれでも興味を示していたのにな。

 やっぱ肉料理は人気があるな。

 俺は料理の説明が一段落したところで、ミアたちの様子を見た。

 カエデとミハルがかなり真剣な表情で何度も頷いている。

 他の三人も一応話に耳を傾けているようだが、その表情は険しい。

 俺みたいにスキル持ちではなければ、地道に覚えていくしかないから、ここは頑張ってもらうしかない。

 何をするにしても、何度も繰り返すことが重要なわけだから。


「主、食べない?」


 そんなことを考えていたら、ヒカリが肉を頬張りながら尋ねてきた。

 見ればアルゴたちは、ギルフォードが追加で焼いた肉料理を食べていた。文句を言いつつ手が止まらないところを見ると、満足いく味なのだろう。

 確かに料理は温かいうちに食べる方が基本美味しいからな。


「先に俺も食べさせてもらうかな」


 俺もギルフォードが焼いた肉を受け取り一口口にした。

 やはり体を使うからか、塩コショウは多めに振られているのか塩味が強いが、この世界ではこれぐらいは普通だ。

 御者の二人も満足して食べているし。

 ただやはり女性の手料理は気になるのか、時々視線をミアたちの方に送っている。

 これは御者だけでなく、アルゴたちもそうなんだけど。


「アルゴたちは何だったら向こうに参加してもいいんだぞ?」


 そんな風に声をかけたら、一心不乱に目の前の肉に齧り付き始めたけど。

 その後ミアたちも料理が終わったのか、食事を開始した。

 色々見本を見せたり、教えながら料理をしたため多めの料理が出来上がってしまったが、アルゴたちが嬉々として食べるのに参戦したため残ることはなかった。

 やはり女性の手料理は別腹なのか?

 料理が終われば交代で見張りを立てて寝ることになった。

 御者の二人は長時間の運転で疲れているから、見張りは御者を除く俺たちだけですることになった。

 見張りは男女からそれぞれ人を出すことになった。

 馬車が広いとはいえ、さすがに八人が同時に横になると狭くなる。特に男の方は。

 別に地面を魔法で整地して寝てもいいと思うが、せっかくなので馬車で寝ることになったのだ。

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