第442話 聖都メッサへ

 国境都市サルジュを出発し、フェアインを経由して聖都メッサを目指した。

 フェアインを出発すると右手に森が見えたが、あれがスタンピードを引き起こした森か。改めてMAPで見ればかなり広いことが分かる。

 俺が森を眺めていると、ふとミアも森に視線を向けていることに気付いた。

 少し複雑そうな顔をしているのは、あの時のことを思い出したからかもしれない。


「ミア、大丈夫か?」


 あの時のことは、ミアにしてみれば思い出したくない記憶なのかもしれない。


「大丈夫よ。それに……嫌なことばかりじゃなかったから」


 その言葉を、ミアがどんな気持ちで言ったかは分からなかったが、その時の顔は実に晴れ晴れとしていた。



 聖都まであと二日という距離のところまできたところで、コトリから通信が入った。

 ちょうど俺たちの食事が終わったタイミングだ。

 ちなみに今日の料理は俺の監視のもと、ヒカリとミアが料理をした。

 主にヒカリが余分な調味料を入れないように見てただけとも言うけど。

 ただ二人は手際がいいし、変な挑戦をしなければ美味しいものをしっかり作ってくれる。そう、余計なことをしなければ、だ。


「ヒカリちゃんも美味しいもの作れるようになったさ」


 セラの一言にヒカリも嬉しそうに頷き、


「次はオリジナル料理に挑戦」


 と少し物騒なことを言っている。

 それは阻止する必要がある、と。俺はルリカたちと静かに頷き合った。

 さて、話を戻そう。

 コトリからの連絡だが、まず無事聖都に到着したという報告を受けた。


「お兄ちゃんたちは今どうしてるの?」

「俺たちはもうすぐメッサに到着するかな」

「そうなの? 私たちも昨日到着したばかりなのに!」


 コトリの話によると、護衛の依頼は馬車の周囲を歩いていくものだったらしい。

 護衛の依頼は馬車に搭乗出来るものもあれば、歩くものだったりするからな。

 今回コトリたちが受けた依頼は後者のものだったようだ。


「アルゴさんたちがいたけど、知らない冒険者の人たちもいて大変だったんだよ。特にシュン兄がさ……」


 それから始まるコトリの愚痴の数々。

 まずはフェアインへの護衛依頼は特に問題も起こらず無事遂行出来たみたいだ。

 問題はフェアインからメッサに向かうために受けた護衛依頼で、結構大きな商隊だったため護衛を複数の冒険者で受け持つことになったそうだ。

 俺はその話を聞きながら、王国の王都で受けた初めての護衛依頼のことを思い出していた。

 他の冒険者たちの語る夢を聞いたり、タイガーウルフに襲われたりと色々なことがあった。あの時組んだ冒険者たちの皆は、元気にやっているんだろうか?


「ねえ、お兄ちゃん? 聞いているの?」


 コトリの声が過去の思い出に浸っていた俺を現実に戻した。

 コトリが言うには、メッサまでの護衛依頼が最悪だったそうだ。

 規模が大きいから冒険者も多くいて、Dランクに上がったばかりのコトリたちを侮る者が多かったそうだ。

 特にAランク冒険者のアルゴたちとセットで参加したため、おまけで同行しているんじゃないかと陰口を言われたそうだ。

 ただこれに関してはコトリも自分たちが新人だから仕方ないと思っていたみたいだが、その護衛の冒険者たちがカエデやミハルに言い寄ったのが問題だった。


「カエデお姉ちゃんは大人の対応で上手いこと躱してたんだけど、ミハルお姉ちゃんがパニックになっちゃってね。それで怒ったシュン兄が喧嘩を始めて……」


 それで何人かの冒険者と取っ組み合いになったようだ。


「まあ、ああ見えてシュン兄は強いから相手を簡単にのしたんだけど」


 ただその後シュンはアルゴたちに説教されたり、それからの数日間はギスギスした空気の中歩いて、精神的に疲れたとのことだ。

 その話を周囲で聞いていた女性陣は、


「シュンやるわね」

「男気があるさ」

「うん、凄い事だよね」


 と高評価のようだ。

 どうやらミアたちとしては、身を挺してミハルを守ったということでシュンの株は上がったようだ。


「それじゃアルゴさんにお兄ちゃんたちが近くまで来ていることを伝えておくね」


 途中からミアたちも会話に参加していた通信が、やっと切れた。

 なんというか、一度話し出すと止まらないというか……魔力を結構消費した。

 俺でもそう感じるのだから、コトリの方は大丈夫か心配になるな。魔力切れで通信が途切れることがなかったら大丈夫だと思うが……。

 こうしてその日はいつも通り休み、二日後には予定通り聖都メッサに到着した。

 初めてメッサに来たルリカとクリスは、その街並みにちょっと驚いていた。

 ほぼ白一色の街だからな。俺も最初に来た時には思わず立ち止まったりしたものだ。

 もっとも俺たちが来た時はさらに降臨祭で、もっとお祭り感があったけど。


「先にダンのおっさんに……ヨルの家に行くか? それとも宿を取るか?」


 昼間のこの時間なら、仕事をしていればたぶんダンは中央教会の方にいるだろう。

 さすがにそこに会いに行くとなると、ミアの顔を知る者がいるはずだ。

 だからどうするか尋ねたら、先にヨルの家に向かうことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る