第441話 国境都市サルジュ

 首都フラーメンで装備と食料を補充し、歩くこと五日でサルジュに到着した。

 その道中は、進行方向向かって右手は岩山が続き、左手は草原が広がるといった感じで、街道を境に全く違った景色を眺めることが出来た。

 ただ岩山は人が生活するには厳しい反面、盗賊が根城にすることも多いため注意が必要だとルリカから説明を受けた。

 主にミアに言っているんだろう。もっともそれは冒険者というよりも、旅をする際の注意みたいものだ。

 あと昼間は人影が分かりやすいから、注意するなら夜だな。

 一応街道から岩山の麓はそれなりの距離があるから、昼間に向こうからやってきたらさすがに目立つから。


「そういう情報は冒険者ギルドで聞けば分かるの?」

「だいたい教えてくれるよ。あとは町の門番の人たちに聞くのもありかな? ただ朝と日暮れ時は聞くのは避けるようにね。忙しい時だと迷惑になるから。あとは人が多く並んでいる時とか」


 その言葉にミアは何度も頷いていた。

 サルジュから西に向かえば聖王国領に入り、北東に延びる道を進めばダンジョンのある町に到着する。

 エルド共和国にあるダンジョンは岩山の中にあるため、町の規模はそれほど大きくないそうだ。

 そのため商人が買い付けにわざわざ行くことなく、素材がサルジュに運ばれるためサルジュの町が大きく発展している。

 ちなみにダンジョンのある町に行くには、サルジュを経由するしかないようだ。


「人の数が多いね」

「凄い賑わいさ」


 ミアがヒカリの手を握り、セラは人々の流れに目を丸くしている。

 ルリカとクリスもここに来るのは初めてのようでちょっと驚いている。


「とりあえずギルドに行って魔物の買取をしてもらわないか?」


 ここに来る途中、ウルフに遭遇したため狩ったのだ。


「本当にあれを納品するの?」


 不安そうに聞いてきたのはミアだ。

 冒険者になったことで、ルリカとヒカリに教わりながら解体していた。前も少しはやっていたが、冒険者登録したことでやる気の度合いも変わったようだ。別に前が真剣じゃなかったというわけじゃないけど。

 俺も人のことは言えないけど……うん、ミアは頑張ったと思う。

 ウルフの肉や素材は食料にもなるし、毛皮でそれこそミアなら服も作ることが出来る。

 ただ今後のことを考えて、出来るだけお金に変えていこうということになった。

 もちろん貴重な素材は別だが、もう奴隷ではないんだし、自分のお金は自分で管理してみようという話になったのだ。


「ヒカリちゃんは食べ物だけじゃなくて、装備類にもしっかりお金を使うようにね」


 ルリカの言葉に、ヒカリも耳を傾けて頷いている。

 その後冒険者ギルドでお金を受け取り、宿代を払って町を回ることにした。

 行く場所は屋台巡りで、こればかりは仕方ない。

 ただいつもなら目に付いた肉串を買うヒカリも、先ほどの言葉の影響か良く見てから買うお店を選んでいる。

 俺はそれを見ながら、ひとまず誰も手を出していないジャンルの料理を買うことにした。

 屋台で料理を買ったら、憩いの場として作られている広場の一角に腰をおろしてそこで料理を食べることにした。

 向こうの世界でいう公園のようなもので、意外とこういう場所は珍しかったりする。

 周囲に目を向けると、俺たちと同じように食事をする人もいれば、寝転がって昼寝をしている人もいる。あの一画には冒険者たちが集まり、どうも酒盛りをしているみたいだ。

 また人種だけでなく、獣人の姿も多く見られて、仲良く談笑している。

 俺たちも料理を分けながら食事を開始した。その中でも美味しかったものに関しては、宿に戻る時に追加で購入してアイテムボックスに収納した。

 こうしておけばまた食べたい時に食べられるし、何よりマジョリカに到着した時にエルザたちにも食べさせてあげることが出来る。

 だから特産品みたいな料理も買ったわけだが……癖があるやつもあるから口に合わないものもありそうだ。

 一通り町を回ったら宿に戻った。

 部屋に入ると洗浄魔法で汚れを落として、荷物の確認を行った。

 それぞれがアイテム袋を持っているから、アイテム袋から消耗品などの在庫を調べている。

 ポーション類はナハルを出発してから一度も使ってないから補充の必要はないだろう。

 他には装備に不具合がないかのチェックだ。一応ウルフとの戦闘後にも各々確認しているが、やはり町の中でゆっくりするのは違う。

 駄目になっても予備もあるからすぐに交換できるが、前もってそれを防ぐ必要がある。

 盗賊や魔物に襲われた際に、使う武器や防具に不具合が出たら危険だ。

 他には靴底の擦り減り具合とかは足を痛める原因に繋がるから注意が必要だ。

 俺は歩いてる時だとその辺りが気付きにくいため、擦り減ったまま使用していたという過去がある。自然回復向上もあって足を痛めることはなかったが、靴底が擦り減ってグリップ力がなくなれば、踏ん張ることも出来なくなるからな……。

 ミアは時々分からないことをルリカたちに質問しながら、真剣にチェックしている。

 俺も自分の分チェックを行い、宿で食事を摂ってその日は眠った。

 そういえばコトリたちはどの辺りまで進んだかな? 護衛中かもしれないし、こちらから連絡しない方がいいかもしれないな。

 通信機もあまり他人の前で使わないようにも言っておいたしな。


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