第437話 神人(エリアナ視点)

 正直言って驚いた。そこに聖女ちゃんがいたから。

 いや、聖女ちゃんがいたというよりも、今、目を覚ましていることに驚いたのだ。

 だって今、この空間ではクリスちゃん以外が目を覚まさないように力を使っていた。

 多少の衰えはあるとはいえ、普通の人が抵抗出来るはずがない。

 私は聖女ちゃんを視た。

 そこには想像外のものが……いや、初めて見るものがあった。


【名前「ミア」 職業「聖女」 Lv「100」 種族「神人」 「状態「——」】


 神人って何?


「あ、あの、エリアナ様大丈夫ですか? どうしましたか?」


 クリスちゃんのその言葉で我に返った。

 いや、本当に驚いた。

 私が凝視していたからか、聖女ちゃんに困惑した顔をされた。

 むしろ困惑しているのは私よ~!

 と叫びたい衝動を抑えて腕を組んで考えた。

 でもその前に一つ確認だけしておこう。


「聖女ちゃんは~……人間よね~?」


 私の言葉に聖女ちゃんだけでなく、クリスちゃんも変な顔をした。

 あ、なんか物凄く心配されているのがクリスちゃんのその顔から分かった。私はセイジョウデス、よ?

 そして失敗に気付いた。

 そもそも人間ですか? なんて言われても困るって。

 あ、けどソラ君は鑑定を使えるから、もしかしたら視ているかもしれない。ポロっと鑑定のスキルを使えたって話してたし。

 何かクリスちゃんはソラ君に全幅の信頼を寄せているようだけど、結構危うい気がするんだよな~。あ~、恋は盲目なんて何処かで聞いた気がするけど、まさにそれかもなしれない。誰が言ってたっけかな~。

 確認するならソラ君を起こすのが一番だけど、今は止めておいた方がいいかな。クリスちゃんも今はソラ君の手助けを望んでいないみたいなこと言ってたし、心の準備が必要だろうし。

 そもそも神人なんて種族は私が知る限りいなかったはずだし……私がここに引きこもってから生まれた可能性もなくはないけど……。

 そこでふと私は気付いた。さすが私! と自画自賛……ただの偶然だけど。

 聖女ちゃんを視ていて、感じたのだ。懐かしい気配を。

 そして私は閃いたのだ。

 聖女ちゃんはエリザちゃんに憑依されたことによって、エリザちゃんの力を少しだけど受け継いでいることに。たぶん。

 それなら聖女ちゃんから僅かだけど神力が感じられたのも納得がいく。

 というか、それ以外は考えられない。

 あの時は気にしてなかったけど、もしかしたら意識を失っていた二人が無事目を覚ましたのも、その辺りが関係しているかもしれない。

 だって無理なら私が力を使って目覚めさせようと思ってたんだから。

 これは一度確認した方がいいかな?


「ねえ、聖女ちゃん~。何でもいいから魔法を使ってみてもらっていいかな~?」


 私の突然の申し出に、聖女ちゃんはクリスちゃんの方を見たけど、私の願いは聞き入れてくれたようだ。

 プロテクションという神聖魔法を使ってくれた。

 私はもちろん意識を集中して観察した。

 予想通り、その魔法からは神力を少し感じ取れた。集中しないと気付かないレベルの力だけど、神力であることには違いない。


「その、エリアナ様。私も聖女ちゃんじゃなくて名前で呼んでもらってもいいですか? なんかそういう呼ばれ方は好きじゃないから」


 考え込んでいたら聖女ちゃんからそう言われた。

 困っていると、クリスちゃんが聖女ちゃんの名前はミアだと教えてくれた。ミアちゃんね、覚えましたよ?


「分かりました~。それでミアちゃんだけど、ちょっと魔法を使わせてもらってもいいかな~? このままだと何かあった時に危険なことがあるかもだから~」


 私の言葉に不安そうなミアちゃんを、クリスちゃんが落ち着かせている。

 私も言葉が足りなかったなと思って、鑑定された時に見え方を変えるだけだよと説明して魔法を掛けて、どうしてこのようなことをするかも説明した。

 一応種族が「神人」なんてことになった理由をつけて。

 あとでソラ君から最初からそうだったよなんて言われたらちょっと恥ずかしいけど!

 ふう、しかしやっぱり力が落ちている。

 数度の神力の使用で疲れが酷い。体が自分でも縮まったのが分かった。

 これは先に済ませてしまった方がいいかな。

 私は二人に断りを入れて、アル君の牙で作られた短剣を手に取り、それを大樹に突き刺した。

 正確に言うと大樹に吸収させたのだけど、二人にはそう見えただろう。

 実際二人は突き刺した時に驚きの声を上げて、また大樹の中に消えていく短剣を見てさらに驚いているようだった。

 私は大樹の中に消えていく短剣を眺めながら、徐々に体に力が湧いていくのを感じた。うん、体が少しだけど大きくなった。

 ソラ君から短剣を譲ってもらったのは、思い出の品というよりも、アル君の力を欲したからだ。

 これでまた時間を稼ぐことが出来る。

 実のところ、私の力は確実に落ちてきていた。ソラ君が言っていた、聖樹の実が一つしか残っていなかったのがその証拠だ。

 それを今補充することが出来た。

 ただ確実にアルカが弱っていることは分かる。

 このまま何もしなければ崩壊する未来しかないと思う。

 だからアルカの地に降りて姿を消した、他の神々の力が必要なのだ。

 そのためにはミアちゃんの力ももしかしたら必要になってくるかもしれない。

 私は素早く考えをまとめると、ミアちゃんを仲間に引き入れるための言葉を並べていった。

 

 

  

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