第435話 エリアナ・2

「まだこの世界が壊れていないと思ったら、君たちの仕業だったんだね。しかし同時に二柱の神が降りてくるとは思っていなかったよ」


 妖精神タニアが私たちの目の前に現れて最初に言った言葉がそれだった。


「それってどういうこと~?」


 私の問いを鼻で笑ったタニアは、まさに貶すような言葉を次々と私に吐き出した。

 あ~、今思い出しても腹立たしい。何が頭お花畑よ!

 コホン。とにかくタニアとの会話になっていない話の中で、分かったことがある。

 それは今のこの現状を引き起こしたのがタニアの仕業ということだ。

 ま、まあ。アル君が上手いこと話しを誘導して聞き出してくれたんだけどね!

 タニアのしたことは、アルカに降りてきた神たちの力を奪い、しばらくは天界に戻ることが出来なくして、困る姿を観察してから、さらに神たちを利用してあるものを作った。

 それがあの私たちが入場することが出来なかった七つのダンジョン。

 それをタニアはまるで自慢するように話してきた。うん、調子に乗せると聞いてないことまで話すのは相変わらずね。

 ダンジョンを作り、神の力を利用して凶悪な生物……魔物を生み出してアルカに住む人々に混乱をもたらせるのが一つの目的だったみたい。

 他にも色々と理由があるようだったけど、私は聞くのが疲れたからあとはアル君に任せた。

 いや、実体化は疲れるんだよ? 仕方ないんだよ?

 その後タニアの暴走を止めるための戦いが始まった。戦ったのはアル君だけど。

 私? 私は樹の方に戻り心の中で応援したよ? 今の私には戦う力がないし。

 私も大樹になっていなければ、華麗な魔法で飛び回るタニアを撃ち落としていた。本当だよ?

 もっとも私は手助け出来ないとはいえ何の心配もしていない。だって戦えばアル君が勝つのは分かっていたから。

 私たち十二柱の中で、アル君が一番強い。

 ケル君が本気を出したら分からないけど、基本ケル君は戦うことよりも研究の方が好きな子だから。

 実際戦いが始まったら、私の予想した通りアル君が優勢だった。ううん、手も足も出ていない。タニアは守るのに手一杯なのか、まともに攻撃出来ていないように見えた。

 ふん、あれだけ偉そうに言っていても、やっぱりその程度ね!

 なのに何故だろう? 時間が経てば経つほど私は不安を覚えた。だってここまでタニアが抵抗出来るとは思ってなかったから。本当だったら、もう勝負がついてもおかしくないだけの時間が経っているんだから。

 そしてその悪い予感は、現実のものとなった。


「残念だなぁ。あのアルザハークがこんなに弱くなるなんて。違うか、僕が強くなり過ぎたのかな?」


 タニアのその不穏な言葉は、強がりでも何でもなく、心からの言葉だったのだろう。

 その瞬間から攻守は入れ替わった。

 あのアル君が、防戦一方だ。

 一撃一撃がアル君を傷付けていく。致命傷こそ負ってないけど、鱗が削られ、血飛沫が上がる。

 タニアから放たれる神力が徐々に上昇していくのを感じた。


「気付いたようだね? そうだよ。これは彼らから奪った力さ!」


 タニアは笑いながら、大きな力を放った。

 それはアル君ではなく、私を……大樹を標的にした一撃だった。


「それに相変わらずだ。自分のことだけでなく他人を気にする。まったくもって理解出来ない感情だよ! そんなものを守らず、その隙に攻撃していたら僕を倒せたかもしれないのにね」


 身動きの出来ない私を庇って、アル君が大きなダメージを負ってしまった。

 私は実体化して気にせず戦ってと声を掛けようとして止めた。

 そんなことを言っても、アル君が気にしないで戦うことは不可能だと知っているからだ。


「つまらないな。ま、ここで君には消えてもらおうかな?」


 その言葉に、アル君は間違いなく全力で抵抗した。

 大量の神力を使うことは、天界に戻ることが出来なくなるというのに。

 なのにアル君はそれを選んだ。ここでタニアを止めないと、もっと酷いことが起こると思ったからだと思う。

 最後の攻防は、アル君の勝利で終わった。といっても、タニアも瀕死の重傷を負ったけど無事だ。

 本来なら止めを刺すべきなのに、アル君にはそれが出来なかった。それ程多くの力を酷使したからだ。そこまでしないと、今のタニアを退けることが出来なかったのだろう。

 その後タニアが負け惜しみを言って去り、アル君は多少の力の回復を持って、ダンジョンを生み出した。それは私を守るためのものだった。

 こうして私は……大樹はダンジョンの最奥部に聳え立ち、外界から遮断される形となった。

 それからは色々とアル君は西へ東へと奔走し、それを聞きつけたケル君も時々顔を出す様になった。

 特にタニアの話を聞いた時は驚いていたが、その対策をするためまた怪しげな研究を始めた。

 ならソラ君たちの言っていた水晶の樹は、タニア対策の研究で生まれたものってことかな? 置く場所がないから預かってとかアル君と話していたのを聞いたような気がするのを思い出した。

 ……危険物じゃん!

 だけどいつしかケル君も姿を現すことがなくなり、アル君もタニアは行方不明のままだと話していた。

 その頃になると私は眠ることが多くなって、力を回復することに勤めていた。

 時々アルカの地のエネルギー量が不安定になって、それを埋めるために力を使用していたため、結局力を消費していたけど。

 だからソラ君のいう聖樹の実も、あれが最後の一つになっていたんだよね。

 私はそこまで考えて、気配を感じて振り返った。

 そこには予想通り、クリスちゃんが立っていた。

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