第434話 エリアナ・1

 私は横になる六人を確認してから、大樹の前に飛んで行った。

 久しぶりに目覚めたから、体が正直重い。さらには契約とかで無理して力を使ったから、その反動もあるんだろうな。自分の手を見れば、少し小さくなっているのが分かる。


「エリザちゃん……」


 けどエリザちゃんの苦しみに比べたら、きっとこんなものは小さなものだ。

 エリザちゃんを殺したのはソラ君じゃない、私たちだ。

 私は大樹の前まで到着すると、大樹に寄り掛かり泣いた。

 そして同時に悟った。アル君が今になってあの子たちをここに導いた訳を。

 見ればその中の一人はハイエルフだった。それは始まりのエルフ種だ。

 脈々と血が途絶えることなく受け継がれていたのかどうかは謎だけど、私は彼女に頼むことにした。

 それがもしかしたら過酷な宿命しめいを負わせることになるかもしれないけど、今の私に出来ることは頼むことだけだから。

 この場から動けないこの体が恨めしい。



 アルカの地に舞い降りた私たちは、行方不明の八柱のどうりょうたちを探しながら、最悪見付からなかった場合を考えてエネルギーの循環施設を作る準備を始めた。

 技術的なことが分からない私とアル君が行方不明者の探索で、ケル君が循環器の製作に取り掛かっていた。

 もちろんそれを作るのに必要な素材を集めるために、ケル君も私たちと一緒に世界を飛び回ることもあった。

 そんな中、アルカの地に私たちが踏み入れることが出来ない領域がある場所があった。

 ダンジョン。ただ全てのダンジョンがそうではなく、七つのダンジョンだけ私たちが入ろうすると弾かれてしまった。

 それは神力を解放しても無駄で、まるで私たちの侵入を拒んでいるようだった。

 私たちはなんとかして中に入れないか模索していたけど、結局最後まで入ることは出来なかった。

 アルカの地に異変が起きて、それどころではなくなったからだ。

 天災が頻繁に起こり、農作物が育たなくなった。

 生物の数もどんどん減っていき、凶悪な魔物の数が増えていった。

 このままいけば人は全滅し、やがてアルカの地自体が砕けて消滅するかもしれないという危機感を覚えた。

 そこで私はその身を捧げ、この地に根を卸した。

 それが今目の前にある大樹だ。そう、この大樹こそ今の私の本体だ。

 これは私が精霊だからこそ出来たこと。精霊は自然との親和性が高いから。

 大樹となった私は、周囲の魔力を吸収し、それを根を通じて大地へと送っていく。

 その時私の神力も送ることで、私の力は落ちるけど大地の崩壊を防ぐことに成功した。魔力を吸収して混ぜて送ったのは、一気に神力を送ると逆に大地を壊してしまうかもしれないと思ったのと、少しでも長い間機能するようにするためだ。

 ただこれで、私はもう向こうに戻ることは出来なくなるかもしれないと思った。

 界を渡るには、莫大な神力を必要とするから。特に上位の場所への移動には、多くのエネルギーが必要なのだ。神界うえからアルカしたへの移動は楽なのにな。

 でもアル君とケル君の二柱ふたりが戻れれば問題ない。

 皆との別れは悲しいけど、これでアルカが救われるならいい。

 私たちにとってそれが最優先事項なのだから。

 とはいえ、世界が安定し、私が力を送らなくても大丈夫になれば、時間はかかるけど力を蓄えることが出来るようになるかもという願望も少なくともあった。

 もっとも私が動けなくなったせいで、アル君とケル君の負担が増えたけど。

 まずケル君は素材集めを単身ですることになり、アル君は動けなくなった私を守るためにこの地に国を興した。

 確かに今の私は無防備だし、樹の実を食べる鳥たちを追い払うことも出来ない。

 そこで私は思い付いた。

 少しだけ力を分けて、守れる者たちを生み出そうと。

 そうして大樹の実から私の眷属が生まれた。

 この世界にエルフ種と精霊が生まれた瞬間だった。もっとも精霊に関しては、このアルカの地にも元々いたようだけど。

 またエルフたちは私のお世話の他にも、各地に派遣して荒れ果てた大地を治療する役目を与えた。一人では無理だけど、精霊の力を借りることで可能な子がいたから。

 大変な使命だけど、私が動けない代わりをしてもらうことにした。

 その試みは、長い年月を受けて徐々に実を結んでいった。

 同時期にアル君とケル君の準備も整い出し、アルカの崩壊を食い止めることにも成功し安定してきたため、本格的に神たちの探索を始めるようだった。


「一人にして大丈夫じゃろうか?」


 年より臭い話し方をするアル君は最後まで心配していたけど、私は元の姿に実体化して頷いた。樹のままだと碌に会話も出来ないからね。

 ただエネルギーの消費量が多いから、長時間はやめておいた。省エネは大事。

 心配性のアル君は、結局国の人たちに私を守るように念を押して、旅立っていった。

 旅立っていったなんて言っても、様子を見に頻繁に戻ってきていたけど。

 けどそんな日々を送っても、いなくなった八柱の神たちは見付からなかった。地上の何処を探しても、だ。

 そうなるとあと私たちが行っていないのは入れなかったダンジョンだけになる。

 その間アルカの人たちの中でダンジョンを攻略する者が出始めたが、その最奥には何もないという話を聞いた。

 完全に私たちは手詰まりになり、困っていた。

 だけどそんな私たちのもとに彼は現れた。

 かつてアルカの地に降りた一柱。妖精神タニアが……。


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