第432話 治療

 二人の様子をしばらく看ていたミアだったが、


「私で治せるか分からないけど……、神聖魔法を使ってみるわね」


 と言って、早速リカバリーを唱えていた。思いっきりがいい。

 実にあっさりと二人は目を覚ました。

 ただミアの使ったリカバリーは、俺のリカバリーとは違って、唱えた瞬間濃密な魔力を感じた。

 そのことからも、根本的に俺とミアでは神聖魔法の効力が違うことが分かった。

 そもそもがあまり使う機会が少ないからな、神聖魔法。


「ここは……って、頭痛っ」

「……ミア姉?」


 目覚めたルリカは頭を抑え、ヒカリは視線の先にミアがいることに気付いて、目を大きく見開いていた。


「ミア姉!」


 そしてはっきりと認識したのか、体を起こして近寄ろうとして、バランスを崩して転倒しそうになった。

 それをミアは優しく受け止めると、ホッとしたように息を吐き出していた。

 やはりミア自身も、成功するかどうか不安だったのかもしれない。傍から見たら、堂々とした態度だったが。


「ルリカちゃん大丈夫?」

「心配したさ」


 クリスたちも目を覚ましたルリカに手を差し伸べながら、今一つ状況が分かっていないルリカに説明をしているようだ。


「ヒカリもルリカも無事目覚めて良かったよ。まったく、心配したんだぞ」


 俺も結構倒れて心配を掛けていたが、きっと皆こんな感じだったに違いない。

 特に今回は治療方法が全く分からない状況だったから、余計にそれが大きかった。

 

「うんうん~、良かったわね~」


 その様子を眺めていたエリアナも嬉しそうに頷いている。


「ミア姉、ちっこいのがいる」


 そんなエリアナを見てヒカリが放った一言がこれだった。

 いや、確かにその通りだから正しいけど。

 けどエリアナはそれが気に入らなかったらしく、頬を膨らませてヒカリに喰ってかかった。


「も~、ちっちゃいって何よ~。こう見えて私は偉大なんですからね~」


 自分で偉大なんて言うか! というツッコミの前に、こう見えてと自分で言っている時点で……。

 腰に手を当ててプンスカ怒っているようだが、まあ、迫力はない。


「不思議な生き物?」


 ヒカリは目と鼻の先に来たエリアナを不思議そうに見ていたが、好奇心に負けたのか指で触れようとしてエリアナを突っついた。

 するとエリアナは押された力に負けたのか、くるくると回りながら飛んで行ってしまった。正確に言うと吹き飛ばされたように見えた……弱すぎじゃないか?

 というか触れることが出来たんだな……。


「主、変なのがいた」

「あ~、とりあえずミアを助けてくれたひとだから、あとで謝っておくようにな」


 振り返ると少し離れた場所で止まって浮かんでいるから、大丈夫だろう。

 そう思っていたら物凄い速度で戻ってきて、ヒカリに対して色々と文句を言っている。

 一応怒っているようなんだが、間延びした口調のためそう感じられない。

 やがてぜえぜえと息を切らしたタイミングで、


「ごめんなさい」


 とヒカリがミアに促されて素直に謝れば、


「分かったならいいんですよ~」


 とエリアナの機嫌は簡単に直ったようだ。単純なのか心が広いのか……。


「それよりミア。一度洗浄魔法を使っていいか? さすがにそれは見た目的に酷いだろうし、あまり気持ち良くもないだろう?」


 もっと早く言うべきだったが、タイミングを逃してそのままになっていた。

 今のミアは神殺しの短剣を抜いた時に出血したため、その胸元が血まみれだ。特に白色の服を着ているから余計に目立つ。

 見ればヒカリにも血が付いているし、クリスの服も赤くなっている。

 だがそんな俺を止める者がいた。クリスだ。


「それなら先に着替えた方がいいよ? その、大きくはないけど穴が開いているから……」


 その指摘にミアは自分の胸元を見て、手で隠すような仕草をした。

 いや、真っ赤に染まっているから肌も見えていないし大丈夫だよ。

 なんて口にしたら惨事だと思い俺は口を噤んだ。あと、とりあえず反対方向を向くことにした。

 向いた先にはエリアナがいて、面白そうにニタニタ笑っていたのを見て、思わず指で弾きたい衝動に駆られたが我慢した。

 それをやったらまた五月蠅くなりそうだし。一応神様みたいだし、下手なことはしない方がいいだろう。

 それよりも改めてエリアナを良く見て、何処か違和感を覚えた。

 ジッと見詰めていたら、


「私が可愛いからって~、そんな見詰めないでくださいよ~」


 と言われたから見るのはやめた。

 その後ミアが着替え終わったタイミングで、ヒカリがトコトコと近付いてきて袖を引いてきた。

 視線をそちらに向けると、


「主、お腹空いた」


 と見上げて言ってきた。

 その様子にクリスとセラは笑っている。

 意識を失って心配していたが、いつも通りの平常運転でちょっと安心した。


「それじゃご飯にするか。ここで料理をしても大丈夫か?」


 俺はヒカリの頭を撫でながらエリアナに尋ねたら、


「問題ないよ~。ただ食事をするならこっちでお願いね~」


 と俺たちはエリアナの指定する場所まで移動することになった。

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