第430話 アルテアダンジョン 10F・5

 俺たちは急いでダンジョンを飛び出すと、二人を看てくれていた人たちに状況を伝え、ユイニたちにも説明した。


「精霊神様がいたのですか?」

「ヒカリは大丈夫なのか⁉」

「私も会ってみたかったです」


 三者三葉の反応が返ってきたが、とりあえず時間もないことだから手早く準備を進める。

 俺がルリカを、セラがヒカリを背負った。

 まあ、ルリカの方が重いからな……いや、ヒカリはまだ幼いし、小柄だからその差は仕方ないんだよ。決してルリカが太っているとか、そういうことではない。本人の名誉のためにしっかり言っておく。

 そしてエリアナの言う通り、ダンジョン一〇階への移動は無事に済んだ。


「ふ~ん、この子たちがそうなのね~」


 エリアナは二人の周囲を飛び回り、時には手で触れながら調査しているように見える。


「ん~、とりあえず仮死状態の子を目覚めさせて頼めば大丈夫かな~? もし無理なら様なら~、私が何とかするよ~」


 何とか出来るなら先に対処したいと思ったが、本人曰くあまり力を行使したくないと言われた。

 その時の真剣な表情を見ると、強く頼むことが出来ない何かがあった。

 もしかしたらそれは、エリアナ自体が発している魔力の弱さと関係しているのかもしれない。

 実際に会った時よりも、エリアナから感じる魔力は弱くなっているような気がするし。

 とりあえず俺は地面に腰を下ろすと、アイテムボックスより必要な素材を出して準備を始める。

 スキルの創造より分かっているのは、エリクサーに必要な材料は聖樹の実と良質な魔石と、各種か回復薬。それはHPやMPの回復系ポーションから、状態異常を回復させる解毒薬が必要で、その全てが良質のものでなくてはならない。

 それを考えると、かなり厳しい条件だと思うが、そもそもエリクサーを自作しようと考える者がどれだけいるかだが……いなさそうだな? あ、けど翁とマジョリカの錬金術ギルドのマスター、ボーゼンあたりならやりかねないか。


「少し集中するから話し掛けないでくれな」


 俺は主にエリアナに向けて言った。

 なんかアイテムを色々だして準備をしていると、わくわくした様子でこちらをうかがっていた。

 それこそ隙あらば話し掛けようという雰囲気も感じた。

 だから相手はクリスたちに任せようと思う。

 俺だって聖樹の実が一つしかないわけだから、失敗が出来ないというプレッシャーのもと作るわけだし。

 そもそもこの聖樹の実がどのような条件で実をなすのかも分かっていない。

 かなりの時間、ここには人の足が向けられなかったのにもかかわらず実が一つしか残っていないことを考えると、これが最後の一つだと言われても十分信じてしまいそうだ。

 もしかしてエリアナがつまみ食いをしていたとか?


「む~、何か失礼なことを考えているよ~」


 ものの見事に言い当てられてドキッとしたが、ポーカーフェイスは崩さない。

 エリアナのぷくっと頬を膨らませた愛らしい姿を見て、ちょっと肩の力が抜けたのは内緒だ。狙ってやったのなら、凄いと思わずにはいられない。

 俺はMPが足りなくなった時に使用するためのEXマナポーションを取り出し、最後にステータスパネルを見ながら考える。

 本来なら転移の目印となっている魔道具を破棄して、減った分のMPを回復させたいところだが、それをやると色々面倒なことになるからな……特に今は何かあった時に駆け付ける手段としてあれは必要だ。

 最悪足りなくなったらその時に破棄すればいいか。俺なら念じることでそれが可能な訳だし。


「それじゃ作製するよ」


 俺は宣言することで集中力を高める。

 創造のスキルを発動し、聖樹の実を中心に素材たちを魔力で包み合成を開始する。

 大きかった魔力の塊は徐々に中央に寄って小さくなっていき、発光を繰り返す。そこに上位種の質の高い魔石を追加しながら魔力を流していけば、発光は次第に弱まっていき、やがて一本の液体の入った瓶が完成した。

 鑑定すれば【エリクサー】としっかり表示される。

 質に関する表記がないのは、効果が質によって変化しないからだろうか?


「ソラ、完成したの?」

「ああ、間違いなくエリクサーだよ」


 使い方に関しては、使用したい対象を指定すると良いみたいだ。

 飲まないと効果がないなんてことになれば、死者を生き返らせるなんて噂は流れないだろうしな。

 これで準備は完了した。

 あとは神殺しの短剣をミアから抜いて使うだけだ。

 俺は一つ大きく息を吐き出し、神殺しの剣に手を添えた。

 が、ここで俺の動きが止まった。

 果たして本当にミアを生き返らせられるか不安になったからだ。

 今までは目的のためにただエリクサーを求めて突き進んで来た(かなり寄り道もあったが)。

 だが実際に目的を達成し、いざ実行に移す段階になって、本当に死者が生き返ることがあるのか疑問に思ったためだ。

 俺のいた世界では、死者は生き返らない。瀕死の重傷で、まだ生き返る余地があるならその可能性はある。

 けど今のミアは、心臓に神殺しの剣が突き刺さり完全に死んだ状態だ。

 それを時間停止の効果で死んだ直後で時間を固定しているのだが、それでも心臓が完全に停止していることには変わりない。

 もちろんここは俺のいた世界と違い、魔法なんてものが存在する異世界だ。ルールも違えば常識も違う。

 それでも何処かに、俺の中の常識が訴えかけてくる。

 本当に死んだ人間は生き返るのか? と。

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