第428話 アルテアダンジョン 10F・3

 エリアナの反応が怖くて、俺は真実を伝えるべきか迷った。

 そんな俺の手を、クリスが優しく包んできた。

 俺がクリスを見ると、


「ソラ、本当のことを話そう。きっと大丈夫だよ」


 と言ってきた。

 その自信に満ちたようなクリスの態度は、俺の背中を押すには十分だった。

 我ながら情けないと思うが、相手が神かも知れないから慎重にならざるを得なかったのだ。いや、ただの言い訳だな。

 理由はどうあれ、本音はエリアナの知り合いであるエリザベートを殺したという罪悪感を覚えたからだろう。

 鑑定は便利だが、相手の正体を知ることで怖気づくこともあるんだな。


「アルザハークはもうこの世にはいない」


 思わずストレートに言ったら、クリスのいる方から小さなため息が聞こえた。セラもちょっと苦笑している。

 二人がそんな態度をとったのには理由わけがある。

 俺の言葉を聞いたエリアナの顔がみるみると歪み、その瞳には涙が溜まっている。

 今にも泣き出しそうな状態になった。


「あ、いや。違う。この世界にはいないけど、生きているはいるんだ」

「どういうことですか~?」

「アルザハークは天界? とにかく神様たちが住んでいた世界に戻ったんだよ」


 エリアナは今度は困惑した表情を浮かべている。

 アルザハークも向こうに戻るために、エリスの作ったゲートを利用していたようなことを言っていたから、個人で戻ることは出来なかったはず。

 だからそれを聞いたエリアナも半信半疑なのかもしれない。


「とりあえず順を追って説明するよ。その前に、エリアナはこの世界のことをどれぐらい知っているんだ?」


 そもそもエリアナは、今はここにいるが外に飛び出て自由に活動出来るかなどで、事情は大きく変わってくる。

 それによってエリザベートのことをどう話すかを考える必要があるからだ。

 クリスは真実を話した方がいいと言うが、その怒りの矛先を回避するのが目的だ。

 目の前のエリアナからは強いという感じは受けないが、それでも本当に神様の一人であるなら、戦闘力はエリザベートと同等と考えておいた方がいいだろう。


「ん~、この世界のことか~。近頃アル君も来てくれなかったしな~? 前に会ったのはいつだったんだろう~……確かアル君がユイニちゃんが生まれたって、奥さんと三人で来た時ぐらいかな~?」


 それって一〇〇年以上も前の話じゃないか?


「エリアナはここに一人でいるんだな。寂しくないのか?」


 だからか、思わず関係ないことを聞いていた。


「基本眠っているからな~。今も久しぶりに何者かの気配があったから~、様子を見るために目覚めた感じだし~?」


 さらに詳しく聞けば、エリアナはこの地に移ってからはここから出ることもなく過ごしているため、外の世界のことはまったく分からないとのことだ。

 アルザハークが時々来て話してくれることも、他愛もない会話みたいで、エリザベート関係のことは一切聞いてないみたいだ。

 俺はそれを念頭に話をすることにした。

 やはりここは俺がこの世界で辿ってきたことを順に話した方が分かりやすいと思い、俺がこの世界に呼ばれたことから話した。

 その方がエリザベートの立位置も分かりやすいと思ったというのもある。

 エリアナはその話を黙って聞いてた。

 感情移入がしやすいのか、クリスたちのセラとの出会いや、ケーシーの石化が治るところ、エリスとの再会等々、その都度涙を流して泣いていた。

 他にもヒカリ関係でエレージア王国や、セラに酷い仕打ちをした帝国には怒っていた。


「そう、エリザちゃんが……」


 そしてエリザベートの最後について話した時は、悲しんでいた。

 何かを耐えるように、その口はきつく結ばれていた。


「それでソラ君たちは~、エリザちゃんに憑依されて死んだ子を助けるために~、ここに来たってことなんだよね~?」

「そう、なるな」

「どんな状態かを見せてもらえるかな~?」


 俺はアイテムボックスからミアを取り出すと、ゆっくりと地面におろした。


「この短剣から~、アル君が感じられますね~」

「竜王からもらった牙で作ったから」

「そうなんだ~。確かに仮死状態のまま時間が停まっているし~、エリクサーなら生き返らせることは可能なのかな~?」


 エリアナはそう言ったきり、腕を組んで黙ってしまった。

 時々唸り声を上げていて、どうするか悩んでいるようだった。


「……あの実は貴重なもので~、実は今はあれしかないんですよね~。だから条件として~、私のお願いを叶えてくれたら譲るけどどうしますか~?」

「それは……無理難題だったりするのか?」

「ん~、どうだろう~?」


 エリアナは一度クリスを見てから、そう答えた。


「一応そこのクリスちゃん? に頼むことになるかな~。もちろんソラ君たちにも手伝ってもらえたらと思うけど~」

「それは一体何ですか?」


 クリスの質問にエリアナはダンジョンを攻略して欲しいと言ってきた。


「ダンジョンに何かあるのか?」

「……大切なものがあるんだよ~」


 エリアナは大樹に一度視線を向けると、


「どうかな~? 難しいようなら~、断ってくれてもいいよ~。ただその場合~、あの実を譲ることは出来ないかな~」


 エリアナの言うダンジョンが何処かも分からないため、不用意に返事が出来ない。

 だがそれを断れば聖樹の実を手に入れることは出来ない。

 確かナオトたちはプレケスのダンジョンを攻略したと言っていた。エリアナの言うダンジョンがそこならいいのだが……。

 俺がそう考えていると、


「分かりました。その条件を飲みます」


 とクリスが答えていた。

 それにはセラも驚いていたが、特に何か言うことはなかった。

 だから俺が止めようと口を開こうとすると、クリスはそれを目で制してきた。


「だってあれはミアには必要なものだから。大丈夫、お婆ちゃんもいるし、お姉ちゃんもいるし。他にも心強い味方はたくさんいるよ。だからきっと何とかなるよ」

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