第424話 アルテアダンジョン 9F・5
草花の棺……綺麗に並べられた精霊たちは、クリスの話では特に気にする必要はないと今も元気に飛び回る精霊たちに言われたそうだ。
ただそれでもクリスの気分は優れないようで、とりあえずセラに付き添ってもらって休ませている。
もちろん場所は移動した。
やはり視界に入ると気になるからな。
俺だって気になる。それこそあれは何だと聞きたいところだけど、それを聞ける雰囲気ではなかった。
もしかしたらクリスにはあれが何なのか心当たりがあるのかもしれないし。
「食事の用意をしたいがいいか?」
通訳がいないから近くに浮かぶ精霊に尋ねたが反応がない。
やはり俺の言葉は通じないようだ。
仕方なくアイテムボックスから肉を取り出したら反応を示した。
さらに追加で食材を出せば、いつも料理に群がる精霊たちが寄ってきた。
どちらにしろ俺たちも何かお腹に入れないと駄目なわけだし、料理をするか。止められるような気配もないし大丈夫だろう。
俺は地面を整地すると、火をおこして料理をする。
森の中だから燃え移りに注意が必要だが、ちょうど料理をするのに良い空間があるから助かる。
万が一飛び火しても魔法ですぐに消せるように注意は忘れない。
俺は三つの調理場を作り、その内の二つで肉を焼き、もう一つでスープを作る。
なんか良く分からないが、ここ何回かの料理で肉が人気であることが分かったからだ。
精霊なら野菜とか自然由来のものを好むかと思ったのだが、クリスが言うには食べたことがない味で衝撃を覚えたということらしい。
ますますヒカリと気が合いそうだと思いながら鉄板の上で肉を焼けば、徐々に精霊たちが近付いてくる。
火傷とかはしないようだが、見ていてハラハラするな。
実際俺の目に映るのは発光している玉なんだが、実際はさっき見たような形だと思うと、大丈夫かと心配になってくる。
まあ、その辺は行儀が良いようで、お皿に盛るまで我慢しているから、焼いた肉もとい熱い鉄板にダイブすることはないようだ。
いや、最初はあったんだよ? けどクリスが怒って躾けたんだよ。
あの時のクリスの剣幕は、普段が普段なだけにちょっと……かなり怖かったのは覚えている。うん、怒らせないように気を付けよう。
俺は焼き加減を確認し、最後に塩コショウや特製ソースで味付けしてお皿に盛っていく。
そして準備が終わって俺が離れると、我先に群がるのは精霊たち。
一度で満足することがないのを知っているから、俺は第二陣を鉄板の上に投入していたらセラがやってきた。
「精霊たちは相変わらずさ?」
「まあ、見ての通りだ。それよりクリスの様子は?」
「うん、少し横になっているさ。理由は……今は話すのも無理そうだったさ」
「そうか」
俺はセラにスープを渡し、ステーキを渡した。
自分たち用に避けておいたものだ。
セラはそれを口に運びながら、視線は精霊たちの群がる皿に注がれている。
俺も自分の分を食べながら、焼き具合を確認しながらお皿が空になったら肉を補充する。
それを四度ほど繰り返せば、精霊たちも満足するようで空になったお皿の周りに集まって動きを止める。
これが人間ならお腹一杯で動けないといったところか。
俺とセラは飲み物を飲みながらそれを眺めているわけだが。
「クリスの分はどうしたらいいと思う?」
「ソラが作った保温容器の中に入れておけばいいさ。何なら交代で起きてるかい?」
「明日にはここの階を抜けられると思うし、昨日はぐっすり眠れたしそれもありかもな」
ということで今日は交代で起きていることにした。
先にセラが休むことになり、俺は調理場を片付けながらアイテムボックスから薪を取り出して一つ残した火に薪をくべる。
別に寒くないからそれ程火力は必要がないから、様子を見ながら少しずつくべる。
炎の揺らぎをボーとしながら眺めていると、なんとなくだが肩の力が抜けて体が休まるような気がするからだ。不思議な感覚だ。
いつしか精霊たちも火の回りに集まり、特に何をするわけでもなく眺めている、んだと思う。
パチパチの火が弾ける音が静寂の中に響き、ゆったりとした時間が流れる。
炎を眺めていると、ここがダンジョンの中であるということを忘れてしまいそうになる。
「ソラ?」
炎を眺めていたら、声が聞こえた。
振り返ればクリスがこちらにやってきた。
「大丈夫なのか?」
と尋ねたらコクリと頷き、俺の隣に腰を下ろした。
チラリと横顔を覗き見ると、炎に照らされて顔色が分からない。
「スープだが食べられるか?」
「……うん」
あまり食欲はなさそうだが、クリスも何か食べておかないと体が持たないことが分かっているから口にするようだ。
俺は折角なので温め直してそれを渡した。
なんとなく精霊たちが物欲しそうにしているように感じたが、君たちさっき大量の肉を食べたばかりだからね。
「ねえ、ソラ。ソラも休んだ方がいいよ。あとは私が見ているから」
スープを飲み終わると、クリスが言ってきた。
俺は迷ったが、その申し出を受けることにした。
疲れてはいなかったが、クリスから一人にして欲しいような感じを受けたから。
「クリスも一息吐いたら休むんだぞ?」
だからそれだけ言って少し離れた位置で休もうとしたら、クリスがその手を伸ばして服を掴んできた。
どうやら無意識の行動だったようで、クリスも驚いていた。
ちょっと顔が赤くなったような気がしたが、それは炎に照らされていたからかもしれない。
俺はひとまず浮かし掛けた腰を下ろすと、シーツに包まってその場で寝ることにした。
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