第423話 アルテアダンジョン 9F・4

 お昼を終えて再び移動を開始して、日が暮れると夕食の準備をして休むことになった。

 お昼を食べた精霊たちは、夕食もどうやら所望しているようで、俺が料理を準備するのをまるでジッと見ているかのように動かない。

 しかしこれだと明日の朝食は料理しないと駄目だな。

 余裕を持って作り置きしてあったはずなのに、この精霊たちは何処にそんな量が入るかというほど良く食べた。少なくとも三人で食べるなら、一〇日は十分過ごせる量はあったはずだ……。

 精霊たちの大きさは、俺の頭ほどの大きさしかないと思う。あくまで光の大きさから推察してのことだが、クリスもそれで合っていると言っていた。

 それなのに明らかに食べた料理の量が、精霊の体よりも多い。食べた料理は一体何処に消えていったんだ?

 そもそも俺からしたら光っているようにしか見えないんだよな。

 クリスの話だと、人のようだったり、動物だったりと、その姿は千差万別だと言っていた。


「凄い食欲さ」

「ヒカリならすぐに仲良くなれそうだな」


 その食べっぷりにセラは二度目だというのに驚きを隠せずにいる。

 いや、本当に呆れるほど良く食べる。

 料理を食べない精霊たちも、思い思いに過ごしているようだ。


「明日はその、精霊たちが普段住んでる場所に行くんだよな?」

「うん、次の階へ行くところの通り道みたいだから。それに他にも友達がいるっていう話だよ」


 クリスはそう言うが、改めて魔力察知でこの階を調べたが、ここに集まっている以外の魔力反応はないんだよな。

 魔力を隠す能力があれば、俺の魔力察知には引っかからないから、絶対にいないとは言えないけど。


「それじゃ見張りの順番を決めて、今日はもう休もう」


 精霊たちも満足したのか、ふわふわと宙に浮きながらゆっくりと右へ左へと漂っているし。

 俺も使用した皿に洗浄魔法を使い片付けが終了したため提案した。


「ソラ、その事なんだけど。私の精霊たちが代わりに見張りをしてくれるって」

「……それは大丈夫なのか?」


 魔物がいないというのは聞いたが、ダンジョンの中だということでどうしても心配になる。

 それにクリスの精霊が見張りを出来るというのは今まで聞いたことがなかった。


「うん、大丈夫だよ。何でかは分からないけど、ここにいると精霊との繋がりを強く感じるから。たぶんいつも以上に力も使えると思う」


 いつも以上に……ちょっとそれを聞いて顔が引き攣ったが、それなら大丈夫か?

 王国で精霊魔法を放っていたクリスの姿をふと思い出した。精霊魔法の直撃を受けていた魔物と、それによって出来た大きなクレーターと共に。


「そ、それじゃ言葉に甘えて、今日は休むとするか」


 一応朝まで持つように魔力を籠めてシールドをかけて、その日は三人揃って休むことにした。

 MAPの表示通り、精霊たちの言葉通り、魔物が出ることもなく、その日は久しぶりにぐっすり眠ることが出来た。



 翌朝目を覚ましてやることは……まあ、料理だ。


「クリスとセラも手伝ってくれてもいいぞ?」


 一応食材をカットしてくれているが、最後の味付けは全て俺がやった。


「ソラの料理が一番さ、きっと」

「うん、ソラの味付けは美味しいから」


 そんなことを言われたら仕方ない。チョロいと思うなら思うがいいさ。

 けど久しぶりに他の人の手料理を食べたいと思っている自分がいる。頼めば作ってくれるとは思うけど……。

 それに何だかんだと料理は俺が作るもの以外だと、屋台で買い溜めしたものが食事の席に並ぶのが殆どだ。

 あ、そういえば今回精霊たちに屋台で購入した料理を提供してしまった。

 ヒカリが知ったら怒るかもしれない。結構楽しみにしながら買っていたんだよな。中には王都とかでも購入したものもあるし……もう一度買いに行かないとかな?

 なんて余計なことを考えながら味付けをしていたが、失敗することもなく料理は完成した。料理スキルは今日も良い仕事をしてくれている。

 そして料理を食べ終えたら精霊に導かれるまま森の中を歩く。

 時々料理のお礼なのか、木の実や果物を俺のもとに持ってきてくれる。


「これを料理に使えってことじゃないよな?」


 クリスに聞いたら純粋なお礼だということだからアイテムボックスにしまう。

 もちろん鑑定して食べられるものかどうかは確認している。大丈夫だと思うが、見たことない物も多いからね。これは仕方ない。

 その後はお昼に一度休憩をとり、その後も森の中を進めば日が暮れる前にその場所に到着した。

 その光景を見て、思わず息を呑んだ。

 クリスもセラも、驚いているのか大きく目を見開いていた。

 そこには無数の木箱が並んでいた。いや、実際は木箱じゃなくて、草花や木で作られた器のようなものか?

 そしてその器の中には、一つに対して一体の人形? が横たわって入っていた。

 これが何なのかは分からないが、ダンジョン内であることを忘れさせられるようなものではあった。


「そう……なの?」


 クリスの呟きが聞こえた。

 その声に振り返ると、クリスの顔は真っ青だった。


「大丈夫か?」

「……うん」

「これが何か分か……ったのか?」


 俺の問い掛けにクリスは頷くと、


「この子たちは……精霊みたいなの」


 と答えた。

 俺は改めて目を向けたが、やはりどうしても人形にしか見えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る