第422話 アルテアダンジョン 9F・3
辿り着いた場所は森が開けた場所で、花畑が広がっていた。
「あ、ちょっと見ててって、言ってるの」
クリスの言葉に精霊たちが花畑のすぐ上を並んで飛ぶと、その時発生した風に草花が大きく揺れた。
すると花から光が飛び出て、キラキラと花畑を照らした。光はそのまま空へと登り、少しの間浮かんでいたがやがてゆっくりと落ちてきて花畑に吸い込まれるようにして消えていった。
「凄いさ」
「ああ、凄いな」
「綺麗……」
俺たちの反応に気を良くしたのか、何度か精霊たちはそれを繰り返した。
「ありがとう。それじゃ私たちはご飯にするけど貴方たちは? そう、分かりました。ならまた後で」
「どうしたんだ?」
「うん、精霊さんたちも食事をするって言ってた。私の精霊たちは食事とかしないからちょっと驚きました」
精霊も千差万別で、食事をするもの、自然から力を吸収するもの、契約者の魔力をもらうもので別れているそうだ。
その中でも食事を自らするものは極めて少ないと、クリスはモリガンから聞いたことがあるらしい。
ちなみにクリスの精霊は基本自然から力を吸収するが、クリスからも時々魔力を分けてもらっているらしい。
「私の子たちは優しいから、私に負担が掛からないように気を遣ってくれているの」
本当ならクリスから魔力をもらいたいが、それを我慢してくれているとのことだ。
ただ近頃は変身で魔力を消費していないから、クリスも精霊に渡せる魔力が増えていると笑顔で言ってきた。
「それじゃ俺たちも食事にするか」
精霊が飛び立っていくのを眺めながら、俺はシートを敷いてスペースを作ると料理をアイテムボックスから取り出す。
ちなみにクリスの精霊も一緒に行ってしまった。
「本当温かい料理を食べらるのは便利さ」
「うん、そうだよね」
「出来れば俺のアイテムボックスと同じ機能のアイテム袋が欲しいところなんだけどな」
さすがに俺のスキルでもそこまでのものは作ることが出来ない。
「ソラのスキルで作れるようになったら、価値がなくなっちゃいますよ」
「アイテム袋を作れるってだけでも大変なことさ」
変な権力者に知られたら、それこそ陣営に引き入れようとするに違いないと言う。それこそ身分を振りかざして、無理やりなんてする輩もいるかもしれない。
それが分かっているから、俺も基本仲間が使う物しか作っていない。
お金が困ればあるいは……と思うが、その時はポーションを作ってお金を稼げばいい。
ただこれから先、ポーションの価値がどうなるかが問題だな。魔王の脅威は去ったわけだし。
「それは大丈夫だと思うよ? 魔物がいなくなるわけじゃないし、ダンジョンに夢見る人は多いから」
「逆に黒い森に出張していた人たちがダンジョンを目指せば、価格は高騰するかもさ」
それだと嬉しいが、被害も多かったしどうなんだろうな?
特に王国と帝国は被害甚大だったわけだし。
王国はそれでも獣王が一応管理しているからいいが、帝国は帝都が酷いことになっているという話だしな。
まあ、俺としては帝国のしてきたことをセラから聞かされたし、それに実際どんな人間だったかも知っているから、この際大きく変わってくれたらと思うが、難しいだろうな。
他愛もない会話をしながらご飯を食べていると、やがて精霊たちが戻ってきた。
三体? の精霊がクリスの周りを飛び回っていて、それをクリスが笑いながら何かを呟いている。あれがクリスが契約している精霊なのだろう。
何と言っているかは聞こえないが、その表情から楽しそうなことが伝わってくる。
そんな中、離れたところから一体がその輪の中に近付いていき、クリスが相槌を打っている。
「ねえ、ソラ。この子がソラの食べている料理を食べてみたいって言っているらしいの」
やがてクリスはそう言ってきた。
ただ少し困惑もしているようだ。
クリスがこの子と言った精霊に視線を向けると、点滅して何事か主張してきた。
たぶん、その通りとでも言っているのだろうか?
「本当に?」
思わずクリスに尋ねたら、コクンと頷かれた。
まあ、わざわざクリスが嘘を言う訳もないし、出して食べなければまたしまえばいいだけか? お皿に盛ると少し手間だが……。
それにここは精霊たちの領域だ。機嫌を損ねると何か良くないことが起こりそうだと思い俺は従った。
俺は簡易テーブルの上にお皿を並べると、とりあえず色々な料理を盛りつけていった。ステーキもあればスープもあるし、普通に野菜中心の炒め物も用意した。
クリスが何か言おうとしていたけど、構わず続ける。
俺が準備をしていくと、徐々に精霊たちが寄って来た。
もっとも全ての精霊ではなく、クリスの契約精霊三体と、他にも数体遠巻きに動かないで見ているものもいる。
「さあ、どうぞ?」
俺は言葉では伝わるか不安だったが、俺が一歩離れるとそれを待っていたかのように精霊たちはさらに殺到していった。
そして料理はまるで光に呑み込まれるように、次々と皿の上から消えていくのだった。
それを見たクリスが一番驚いていたのは何でだろうか?
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