第421話 アルテアダンジョン 9F・2
「何があったのさ?」
突然のクリスの行動と、俺の戸惑った反応を見たからか、セラが首を傾げてきいてきた。
正直俺にも何が何だか分からないが、セラにはあの光が見えていないのだろう。
あれは確か精霊だったはずだ。どんな姿かは分からないが、あの光と魔力反応は何度か感じたことがあった。
「その、私の精霊に似た反応だったから私の契約精霊を呼び出したの。そしたら精霊たちが呼ばれているっていって飛んで行ってしまったの」
「それじゃソラが感じた反応は精霊ってことなのかい?」
「そうなるのかな? 確かにクリスが呼び出したという精霊と酷似していると思う」
改めて魔力察知を使うが、そんな差はないような気がする。
ただ完全に一致しているかといえばそうでもない。微妙の差異だが。
「なんか呼んでいるみたいだから、私たちも行ってみましょう」
「危険じゃないのかい?」
「うん、大丈夫だと思う。なんとなくだけど、悪い気は感じないから」
俺とセラは顔を見合わせ、ひとまずクリスに従うことにした。
一応シールドの重ね掛けだけしておこう。
そうして俺たちは森の中を進んだ。
警戒をしながら歩いていたわけだが、周囲を見ると色々な種類の木が寄り集まって森を作っていることが分かった。
葉の形や色も違えば、蔓のようなものが木に巻き付いているものもある。
そのため木の実の種類は豊富で、ヒカリがいたらきっと飛び上がって喜んだに違いない。
鑑定すれば、それこそ今まで見たことも聞いたこともない実が生っている。
あ、あれなんて確かヒカリが好きだった木の実だ。
あっちにあるのは元の世界でも見たことがある果物だ。名称はさすがに違うが、見た目は苺に似ている。けど苺ってあんな太い幹の木から採れるような果物じゃなかったような気がする……。
「ソラ、何か気になるものでもあるのさ?」
「あ、いや、色々な木の実や果物があるからな。それとキノコ類も豊富だし、ヒカリがいたらきっと喜んだろうと思って」
俺が思わず答えたら、セラも周囲を見回しながら「確かに」と頷いていた。
それから小一時間ほど歩いて、やっと光の集団のいる場所に到着した。
色とりどりの光が踊るように舞っていて、森の暗がりもあって幻想的な光景が広がっていた。
やがてそこから一つの光がこちらに寄ってきて、クリスの肩に留まった。
クリスは何事か頷いていたが、
「ソラにセラちゃん、やっぱりあの子たちは精霊みたい」
と教えてくれた。
「それで何をしに来たか知りたがっているみたいなんだけど、何て言えばいいかな?」
「……聖樹の実のことを素直に言った方がいいかもしれないが……」
この森の何処かに聖樹の実があるかもしれないが、まだダンジョンは続いている。
それにもしそれが精霊たちにとって大切な物だった場合、今は友好的みたいだが、突然敵に回るなんてこともあるかもしれない。
聖樹の実について俺が分かっていることは、せいぜいエリクサーを作るのに必要な材料ということだけだから。
「それなら竜王様に聞いたって伝えてみたらどうですか?」
迷っていたら、そうクリスが提案してきた。
「……そうだな。なら一応竜王様のことを知っているかどうかを聞いてもらっていいか?」
「分かりました」
クリスが再び精霊に向かって何か話している?
声を出していないところを見ると、俺の念話と似たような感じで意思疎通をしているのかもしれない。
やがて精霊とおぼしき光は一際強く光ると、クリスから離れていき集団の中に入って激しく明滅を始めた。
するとそれに呼応するように集団も明滅し、たぶんクリスの元に来ていた精霊ともう一つの光……精霊がこちらに戻ってきた。
クリスはそんな二体の精霊に頷きながら、
「うん、ありがとう」
と思わず言った感じで頭を下げて礼を言っていた。
「ソラ、皆さん竜王様のことは知っていました。それとここには聖樹の実はないみたいです。ただお母さんなら知っているかも? と言ってるかな」
「お母さん?」
「……はい、精霊さんたちがそう呼んでいる存在がいるみたい。ただこの階にはその方はいないようですね」
ということは次の階にその人? 精霊? がいるということなのだろうか?
「クリス、精霊にこの階に魔物がいるかどうかを聞くことは出来るかい?」
「……セラちゃん、ここには魔物はいないみたい。この子たちと、あとは階段の近くにお友達がいるって言っているよ」
「なら先を急ごうさ」
セラの言葉に従い、俺たちは再び歩き出した。
ただそれもしばらくしたら一時中断。休憩は必要だし、お腹も減ってきた。
いつもならヒカリがご飯時を教えてくれるが、今はいないからな。
「食事にしよう。何処か休めそうな場所があるか聞くことって出来るか?」
「……休めそうな場所かは分からないみたいだけど、のんびり出来る場所なら知っているみたい」
クリスの言葉を待っていたように、先を飛ぶ精霊たちは脇に逸れると、明滅を繰り返しながら進んで行く。
俺たちが立ち止まってそれを見てると、激しく明滅を繰り返した。
まるで早くついてこいと言っているみたいに。
「ふふ、なんかお気に入りの場所みたいで、早く私たちに見せたいみたいですよ」
クリスが楽しそうに笑いながら歩き出したため、俺たちもそれに従い後を追いかけた。
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