第420話 アルテアダンジョン 9F・1

「それじゃ何かいるってことかい?」

「少なくとも一〇体? の反応はあった。ただいるのは出口側の階段近くだったけどな」


 俺の報告にセラは難しい顔をした。

 特に何の反応もなければ、とりあえず進んでみようかと思っていたら、その期待を裏切るように何かの反応を捉えた。

 数は少ないが、その相手が少数精鋭だった場合はかなりの苦戦を強いられることになるだろう。いや、下手をしたら敵わない場合だってあり得る。


「お婆ちゃんにもう少し話を聞こうと思います。症状は伝えましたし、何か分かったことがあるかもしれないから」

「なら俺も準備をし直すよ。森の中だから火系の武器はあまり使わない方がいいと思うし。別の属性を付与したものを増やしておくよ」

「……ボクは二人の看病でもしてるさ。ただ見てるだけだけどさ」


 俺たちは一度解散し、また夜に集まって相談することになった。

 結論から言えば特に進展がないまま時間だけが過ぎたことになる。


「翁さんやイグニスさんたち、経験豊富な人たちがいないから詳しいことが分からないみたいです。特に翁さんは、魔王城で別れてから姿を見た人がいないみたいで……」


 翁がいたら色々と教えてもらえると思ったが、確かに俺もあれ以来その姿を見たことがない。

 イグニスも飛び回っているようだし、また悪巧みというか何か暗躍しているのだろうか?

 しかし翁がいないのは痛いな。翁なら俺たちの知らない多くの知識を持っているだろうし、それは長い時を生きてきたエルフ……モリガンたち以上に違いない。

 そもそも魔人たちはどれぐらい昔から生きているのかも分かっていないか。今度会った時にでも聞いてみるか?


「それでどうするのさ?」


 セラが俺に聞いてきた。クリスもこちらを見てくる。

 正直な気持ちとして、俺は先に進みたいと思う。

 ただクリスたちのことを考えると決心が鈍る。


「ソラ、そこは素直になって頼って欲しいです。ミアのこともあるけど、私たちだってヒカリちゃんやルリカちゃんのために何かしたいって気持ちもあるんですよ?」

「そうさ。どうせ先には進まないとなんだし、まとめて皆助けたらいいさ」


 どうやら俺以上に二人の決意の方が強いようだ。

 なら俺が迷っては駄目だ。セラの言う通り、先に進んでまずはミアを目覚めさせる。その次に二人も助ける。

 仮にエリクサーを数用意出来なくても、ミアの神聖魔法なら二人を目覚めさせることが出来るかもしれないし。


「なら今日は早く休んで、明日の朝出発しよう」



 翌朝ユイニたちと一緒に朝食を食べて、そのままダンジョンへと向かった。

 やはり二人の容態は変わらず、見ただけなら本当にただ眠っているだけにしか見えないという。

 それこそ何かの拍子に目を覚まし、


「お腹空いた」


 なんてヒカリの口から飛び出しても決して不思議じゃないという。

 それはその通りだが、ユイニたちのヒカリに対するイメージもどうやら腹ペコキャラで固定されているみたいで、そっちの方がある意味驚いた。

 九階へは、いつも通りの入り方で移動した。

 まず俺が中に入り、次にセラ、クリスと続いた。


「本当に森の中からなのさ」


 驚くセラを横目に、MAPを確認する。

 やはり反応は出口付近に集まっていたはずなのに、突然こちらに向かってきた。

 しかも森の中を進んでいるのに、かなり速い。

 走って出るスピードとは思えない。


「警戒。こっちに近付いて来ている!」


 俺の言葉にセラは武器を構え、クリスも魔法の準備をする。

 戦う準備を整えたが、すぐに階段へ逃げ込めるようにしておくのは忘れない。

 逃げることは恥じゃない。

 ただ次に入った時に、入口周辺で待ち構えられると厄介だなとは思った。

 いや、その前にそもそも何でこちらに向かって来ているかを考えるのが先か?

 前回は何の反応も見せなかったのに、今回はこちらに向かってきている。

 俺はふとクリスを見た。

 タイミング的にクリスが九階に入ってきた時に動き出した。


「魔力を感じ取った?」


 俺も魔力はある方だが、解放状態というか変身を解いた状態だとクリスの方が圧倒的に感じる魔力の圧は強い。

 それを考えると強い魔力に反応して引き寄せられた案はあっているような気がする。

 そして再び視線をMAPに落とせば、既に半分以上の距離を移動していることが分かった。

 どうする? このままだとすぐにこちらに到着する。

 そもそもこんなに早く動くものを捕らえることは可能なのか?

 時空魔法の時間遅延を広範囲に展開すればいけるか?

 俺は攻撃魔法と時空魔法を待機させ、いつでも魔法を使えるように準備した。

 そしていよいよ反応が近付いたその時、


「待って、ソラ!」


 とクリスによって呼び止められた。


「クリス、危ないさ」


 それどころかクリスが俺たちよりも前に出て、構えていた杖をおろした。

 慌てる俺たちを尻目に、クリスは片手を上げて何事か呟いた。

 すると掌の上に強い魔力を感じ、そこから三つの光が飛び立った。

 その魔力反応は、それこそ今こちらに近付いてきているそれと非常に酷似していた。

 光はやがて森の中に飛び込んでいき、空中で動きを止めた。

 その動きを止めた先には、今まで物凄いスピードで向かってきていた反応があった。

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