第418話 一時帰還

 二人が倒れてから二日後。俺たちはダンジョンの外に無事、と言っていいかは分からないが出ることが出来た。何故なら二人の容態は一切変わってないからだ。


「どうしたのですか?」


 と、驚くユイニに状況を説明して部屋を用意してもらった。


「私はお婆ちゃんに連絡してみますね」

「ああ、頼むよ」


 クリスが出て行くのと入れ替わるように、バタバタと足音を発てたサークが部屋の中に入ってきた。


「ヒカリが倒れたって⁉」


 かなり急いで来たのか、息を切らしている。

 そしてベッドに眠るヒカリに気付くと、ベッドに駆け寄ってきた。


「サーク君落ち着いて。それから汗まみれじゃないですか」


 ユイニはサークを押しとどめると、洗浄魔法をかけた。

 するとサークは一つ大きく深呼吸すると、一度目を閉じてからユイニへと視線を向けた。


「落ち着きましたか? 今から説明しますね」


 ユイニの説明を静かに聞いていたサークだったが、それを聞き終えると俺の方を睨みつけて、


「あ、あんたがいながらどうして!」


 と殴り掛かってきたが、それはいつの間にか現れたアルフリーデによって防がれた。

 一度は落ち着いたようだったが、ヒカリの置かれた状況を聞かされて頭に血が上ったようだ。


「煩いわねサーク。静かに出来ないなら出て行きなさいよ。病人がいるのよ?」


 サハナは相変わらずサークに厳しい。

 俺もその態度が愛情の裏返しだということが大分分かってきたが、サークは理解出来ていない様でちょっと涙目だ。

 反論しようと口を開けかけたが、サハナに一睨みされて慌てて口を閉じている。


「それにソラさんたちが一番辛いに決まってるじゃない。そんなことも分からないの?」


 止めを刺されたサークはとぼとぼと肩を落として部屋を出て行く。

 そんな二人のやり取りを見たユイニは苦笑しているが、サークを特に引き留めようとはしなかった。

 ただアルフリーデが一礼してその後を追っていった。


「すいません、ソラさん。お馬鹿な兄が……」

「いや、実際止められる立場にいたのは事実だからな」


 サハナには謝られたが、サークの言葉は心に突き刺さった。

 水晶の樹を見て警戒は覚えたが、それほどの危機感は覚えていなかった。

 そこにはスキルから危険な要素を感じられなかったというのもあるし、異世界ゆえの幻想的な光景に目を奪われていたというのもある。

 たぶんこれが普通のフィールドなら別に問題なかったが、そこはダンジョンの中だった。

 あれほどスキルに頼らないようにしようと言っていたにもかかわらず、あの時は隙が出来ていたのを否定出来ない。


「ひとまずヒカリさんとルリカさんは私たちの方で看ています。ソラさんたちも少し休んだ方が良いですよ? 文官たちにも文献の方を調べてもらいますから」


 その言葉にどうするか迷っていると、クリスも戻ってきてモリガンたちも調べてくれるという話を聞き、一度俺たちも休むことにした。

 特に戻ってくるために強行軍でダンジョンを進んで来たから、クリスとセラの疲労は色濃く出ていたからだ。



 一休みして目を覚ますと、部屋は真っ暗闇だった。

 時間的には日暮れ前に戻ってきたことを考えると、まだ一日経っていないのかもしれない。

 こんな時にはっきりした時計が欲しいと思うな。

 俺はベッドから出ると通信機が光っているのに気付いた。

 色からしてコトリから通信があったことが分かる。留守番機能なんてものはないが、誰から連絡が入ったかは分かるようにはなっている。

 とはいえ今の時間が分からないから不用意に連絡するわけにはいかない。

 なんて思っていたら通信機が明滅した。


「もしもし……」

「お兄ちゃん! ヒカリちゃんが大変って本当⁉」


 通信機からコトリの大きな声が聞こえてきた。

 夜中だと思うが元気だな。

 それとコトリの言葉から、どうやらモリガンかスイレンのどちらかから話を聞いたんだろうことが分かる。


「なんかミハルお姉ちゃんが竜王国に行った方がいいかなって心配してたよ」

「あ~、とりあえず神聖魔法は俺も使えるし、こっちでも使える人はいるから大丈夫だよ」


 もっとも俺のヒールもリカバリーも効果はなかったけど。


「そうなんだ……」


 それからコトリには詳しい経緯を話し、それが終わると近況を話し合った。

 話し合ったというよりも、コトリたちの近況を聞かされる感じだったけど。

 どうもコトリたちは冒険者として本格的に活動しようという話になっているそうだ。

 その理由が現在行方不明になっている魔導王ことシズネを探すためのようだ。

 ただ勝手が分からないため、アルゴや最果ての町から移住してきた人たちと協力して活動していくとのことだ。

 アルゴたちからは冒険者のノウハウを教わり、最果ての町の協力者は、コトリたちのパーティーに入って一緒に活動するようだ。


「その理由が酷いんですよ。私のことが頼りないからなんて言うんです」


 コトリには愚痴られたが、それを否定する言葉が俺にも見つからなかった。

 これはコトリだけでなく、ナオトたちもこの世界に関する知識があまりないから。もっとも最果ての町の人たちも、引きこもって生活していたから怪しいと思う。

 ここはアルゴたちに期待だな。


「色々大変だと思うが、頑張ってな」

「はい。お兄ちゃんも時々連絡くださいね! それからヒカリちゃんのこと、頼みましたよ」

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