第417話 アルテアダンジョン 8F・4
再びかまくらの中に戻ると、二人は眠ったままだ。
呼吸も脈も問題ないが、ただそれだけだ。
魔力が枯渇した影響で一時的に魔力が回復しないだけかもしれないが、やはり水晶に触れて魔力が奪われたらしいことから、何かしらの対処はした方がいいというのが、クリスの意見だ。
俺はクリスにヒカリの体を支えてもらうと、ヒカリの両手を取った。
ちょうど魔力操作の練習を初めてした頃に、魔力の流れを教えるためにとった時と同じだ。
何故わざわざそのような格好になったかと言えば、魔力を流して反応を見るためだ。
自分で魔力を回復させられないなら、外部から魔力を注いでみたらどうかというやつだ。
クリスが言うには、最終的に口移しを試みたみたいだが駄目だったそうだ。
報告する時に頬を赤らめて恥ずかしそうに言われると、どういう反応をすればいいのか正直困ります。
セラは馬鹿正直に話すクリスを見て苦笑を浮かべていたな。
俺はそんなことを考えていたが意識を切り替えてヒカリに魔力を流す。
もちろんゆっくり慎重にだ。
俺は魔力察知で魔力の流れを視ながら魔力を流していたが、ヒカリの手から体の方に移ってしばらくすると突然魔力が消えた。
「ソラ、どうしたの?」
「ああ、突然魔力が消えたんだ」
俺は驚きのあまりそのまま声に出して答えていた。
もっともクリスには通じなかったようで、俺は変わらず魔力を流しながらどうなったかを分かりやすく説明した。
「それって大丈夫なんですか? もしかしてヒカリちゃんたちの体に何か異変が起きているってことですか?」
言われて俺も不安になった。
そこで俺は改めて鑑定した。
【名前「ヒカリ」 職業「——」 Lv「71」 種族「人間」 状態「魔力枯渇」】
さらに状態の魔力枯渇を鑑定すると、魔力無の表示が現れた。
それを見たままやっていると、表示が魔力有と切り替わってしばらくすると魔力吸収となってまた魔力無に戻った。
もう少し検証すべきか迷ったが、俺は魔力を流すのを止めた。
これ以上続けて何か変な反応が出ても怖いと思ったからだ。
「出来るだけ早めにここから離れてみよう。俺たちもあれから離れたら影響を受けなくなった訳だし」
俺は現状をクリスたちに説明して、離れることを二人に進言した。
まだ日が出て明るいため、俺たちは移動を再開した。
とりあえず人型ゴーレムを先頭に雪を溶かしながら進み、犬型ゴーレムにはリヤカーのような荷車を引かせてその二台に二人を寝かせる。
人型ゴーレムを俺が、犬型ゴーレムはクリスが魔力を流して指示を出す。
ただこの時犬型ゴーレムは雪を溶かせないようになるから、人型ゴーレム、セラ、犬型ゴーレム、クリス、俺の順番に並んで歩くことになった。俺とクリスは殆ど並んで歩いていると言った方が正しいけど。
ちなみに二人でそれぞれのゴーレムに魔力を流したのは、進む速度を上げるためだ。
「ソラ、大丈夫なの?」
「ああ、一体クリスが受け持ってくれてるしな。それに基本直進だからそこまで指示が複雑じゃないし」
少しゴーレムとの距離があるが、それほど難しいことじゃない。
それと例の水晶の樹っぽいのは、MAP中央にあるだけで、他にはないから助かった。
あれがMAPに散らばっていたら、避けるために進路を何度も変更することになっただろう。
他にも魔物が一切出ないというのも大きかった。
もっとも今までは、ということでこれから先も警戒する必要はある。
索敵が得意な二人がダウンしているため、俺への負担がどうしても増えるが、それもクリスがゴーレムを一体管理してくれているからだいぶ楽になった。
「ボクももう少し役に立てたらいいんだけどさ」
「そんなことないよ。セラちゃんがいてくれているお陰で、安心して進めるわけだし」
「歩きながら周囲に気を付けてくれてるしな。気配察知で捉えられなければ、最終的には目視確認になる訳だからさ」
気配察知で魔物を一切感じられない状況も、あの謎の水晶の樹の存在があるため不安になる。
本当なら水晶の樹に鑑定を試したいところだが、近寄るリスクを考えるとそれが出来ない。
二人を救出する時に接近した実績はあるが、次も大丈夫かは分からない。
それこそ俺まで倒れたら、残された二人にかなりの負担がかかる。
「そうだ。通信で外と連絡を取ってみるのはどうだ?」
「あ、確かにお婆ちゃんなら何か知っているかもです」
クリスもそのことに思い至ったようで、通信機を出した。
しかしすぐにその表情は曇り、
「通じません」
という言葉が返ってきた。
俺も通信機を取り出しコトリに連絡を入れようとしたが、通信機に反応がない。
俺はかまくらから出て今度はクリスに連絡を入れたが、それは通じた。
「ダンジョンの外へは連絡が無理みたいだな」
それがこのダンジョン限定なのか、それとも全てのダンジョン共通なのかは分からないが、とにかく外部への連絡は無理なようだ。
「とりあえず出口まで行って、一度ダンジョンを出ることにしよう」
俺の言葉に、二人は静かに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます