第415話 アルテアダンジョン 8F・2

 あれから何度となく休憩をとりながら進み、現在は完全に日が暮れたため今日はここで休むことになった。

 かまくら作りも回数をこなしたから慣れたもので、簡単に作ることが出来るようになった。


「けど不思議よね。雪に囲まれているのに温かいなんて」


 ルリカは説明を求めるようにチラチラとこちらを見ているが、残念ながら俺には詳しい原理は分からない。

 だから説明のしようがない。

 知識としてあるのは、テレビで見た映像と、かまくらの中は温かいという事実のみ。

 俺はかまくらに魔力を多めに注ぎ込み、強度をつける。

 ついでにゴーレムたちにも魔力を流し、見張りを頼む。これはクリスにも手伝ってもらった。

 今の所魔物の気配はないが、昼と夜でがらりと変わる可能性もある。警戒をしておくに越したことはない。

 その時新しいスキルも試す。


【同調Lv1】


 これはルイルイが使っていたスキルに似ている。

 これは対象を選んで視界を確保する訳だが、主にゴーレムに使うことで、ゴーレムが見ているものを俺も見ることが出来るという奴だ。

 ルイルイと違うのは、レベルが低いからかゴーレム以外と同調が現在出来ないことだ。

 また今出来るのはあくまで視界を確保するだけで、乗り移ってゴーレムを動かすことは出来ない。

 レベルが上がれば出来るようになるかもしれないけど。

 俺はしばらくして同調を切ると、火の扱いに注意しながら料理の準備をする。

 パンや肉料理はそのままでもいいが、やはりスープぐらいは温めたい。気分的な問題だな。あとは暖を取るために火を起こしているというのもある。

 しばらく黙って食事をしていたが、それが終わると今後のことについて話し合った。


「それで今どのぐらい進めたの?」

「まだ五分の一ぐらいかな?」


 ルリカの問いに魔力を流してMAPの見える範囲を広げながら答えたら、ちょっと嫌そうな顔をされた。

 マジョリカのダンジョンだともっと長い時間を過ごしたと思うが、やはり雪が積もっている今の環境が嫌なのだろう。

 それでも雪の上を歩いていないだけ疲労は少ないと思うが、その辺りの感覚が俺には分からないからな。

 それに寒いだけでも体力は消耗していく。


「けど無理に急いで体調を崩すよりも、今のペースで行く方が私はいいと思うよ」

「クリスの言う通りさ。それともルリカはゴーレムに運んでもらうかい?」

「だ、大丈夫よ。頑張るんだから」


 ルリカは顔を真っ赤にした。

 ゴーレムに抱えられる自分の姿を想像したのかもしれない。


「とりあえず今日は休もう。良い方に考えればあと四日で次の階に到着出来るんだ。疲れてたら一度ダンジョンから出ればいいわけだから」


 移動中以外は寒さからもバッチリ守れる環境を作れるから、ゆっくり休めるに違いない。もちろん見張りはどうしても必要になってくるけど。


「そうね。なら最初に私が見張りをするわ」

「ん、私も先にする」


 ルリカとヒカリが最初に見張りをすることになり、あとの組で俺とクリス、セラの三人が見張りをすることになった。



 見張りの交代時間になって目を覚まし、まずは同調を使って外の様子を見る。

 ゴーレムは省エネモードのためその場を動かないように配置されているが、何か近付くものが現れれば警告を発するようにしてあるし、迎撃出来るように動くように指示を出している。

 それがなかったということは特に何事もなかったということだろう。

 俺は月明かりのもと見える視界を確認するが、ただただ銀世界が広がっているだけだ。

 ただ流石に昼間のように遠くは見通せないから暗視スキルをONにして確認しておく。


「特に問題なさそうだな」


 俺は同調したまま飲み物を温める。

 並列思考がなければ同調したまま別作業をすることなんて出来なかっただろう。


「ありがとう、ソラ」

「ありがとうさ」


 二人に飲み物を渡してホッと一息。ちょっと話すことが見つからず沈黙が続いた。

 ただこの穏やかな時間は苦にならない。この空気に包まれていると、思わずここがダンジョンだということを忘れてしまいそうだ。


「けど凶暴化、か。ここのダンジョンは他のダンジョン……って言っても私もマジョリカのダンジョンしか入ったことがないけど、確かに環境が違う気がするし、やっぱり竜王国周辺に起きた異変は竜王様がいなくなったことと関係があるのかな?」

「その可能性は高そうだけどな、時期的に」

「ならこの先魔物が出てきたら厄介かもさ」


 それはセラの言う通りだ。

 しかもこれから先の階は、何の魔物が出るかも分かっていない。

 必要に応じて逃亡することも考えて置く必要はありそうだ。

 そう言えば転移でダンジョンの外に出ることは可能なのだろうか?

 ふと思い付いて試してみたが、残念ながら外に出ることは無理そうだった。

 普通にダンジョン内……同一階での移動は可能みたいだけど。

 ただ難点は、皆を運ぶには俺の近くに集まる必要があることか。

 最悪一人一人のもとに転移して回収するという連続使用も考慮すると、MPの残量に注意する必要がある。さらに一緒に飛ぶ人数が増えればさらにMPの消費量は増えるわけだから。

 ゴーレムも召喚しているし、意外とMPに余裕がないんだよな。

 クリスもゴーレムに魔力は籠められるが、属性を付与しながらは無理だからこの階では俺が魔力を籠めないとだから。

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