第414話 アルテアダンジョン 8F・1

 翌日早速ダンジョンへと行くため、玉座の裏にある扉を通り抜けた。

 時間をずらしたお陰か、そこには親衛隊の人だけがいた。


「ま、待てよ!」


 いざ八階へ移動しようとしたら、息を切らせて走ってきたサークが現れた。

 サークは大きく深呼吸を繰り返して乱れた呼吸を落ち着かせると、


「ぶ、無事に帰って来いよ! そしたらまた勝負だからな⁉」


 とだけ言ってまた走って行ってしまった。元気が有り余っているようだ。

 それと入れ替わるようにユイニとサハナがアルフリーデと現れ、


「皆さん、ご無理はしないで下さいね」

「ヒカリ、またサークを痛めつけてね」


 と言って送り出してくれた。

 ちなみにサハナの言葉から分かるように、昨日のヒカリとサークの戦いはヒカリに軍配が上がったようだ。

 ルリカとセラによれば、前回戦った時よりも動きが良くなっているという話で、血の滲む様な、かは分からないが努力はしてきたのだろう。

 ただそれ以上にヒカリも修羅場を潜り抜けてきたから、残念ながらその差は埋まらなかったようだ。

 むしろ実践的という意味ではヒカリの方が成長しているのかもしれない。

 サハナも辛辣な言葉を使っていたが、サークの戦いを心配していたそうだ。相変わらず素直じゃないよな、この子。サーク限定だけど。


「それじゃ行って来るよ」


 俺たちは八階に続く階段のある踊り場に転移すると、まずは皆に結界術のシールドを付与する。

 それが終わったらまずは俺が中に入って行ったが、すぐに戻ることになった。


「魔物がいたの?」


 俺は首を振り、生活魔法で体を温めた。


「吹雪いていなかったけど、雪が積もってた。そして寒かった……」


 少なくともブーツは変更する必要があるし、服も今のままだと駄目だ。

 俺たちは防寒着に着替え、靴も靴底に滑り止めのついたものに履き替えた。

 俺とクリスはローブを厚手のものに替え、ヒカリたちはローブを纏うことになった。

 ヒカリは肩を回して動きを確認しているが、少し動き難そうだ。それはルリカとセラにも言えることか。


「前衛はゴーレムに任せて、ヒカリたちは投擲武器で攻撃。一応俺とクリスの魔法中心で戦うようにしよう」

「それがいいかもね」

「そうですね。あとは出る魔物次第ということで。魔法が効き難ければ結局セラちゃんたちに頼ることになるかもですけど」


 俺の言葉にルリカとクリスが頷く。


「それじゃ行くぞ」


 俺は再度階段を下りた。

 八階に足をおろすと、まずは刺すような寒さに襲われる。

 露出している頬が痛い。吐く息も真っ白だ。

 俺はMAPを呼び出し気配察知を使った。

 近くには魔物の反応がない、というかMAPを広げても魔物は表示されない。


「ん、寒い」

「これはきついさ」

「山登りの時よりも辛いかも」

「うん、冷たいね」


 確認をしていたらヒカリたちも階段を下りてきた。

 俺は一応ゴーレムを呼び出して、雪の中を歩けるか確認した。

 進む速度はいつもよりも少しだけ遅いが問題なさそうだ。

 ただ雪の層は深いのか、ゴーレムが一歩踏み出すごとに埋まる。

 俺はそれを見てふと思い付いたことを実行した。

 付与術を使ってゴーレムに火属性を付与してみた。

 するとゴーレムが接触した雪が溶けていった。

 ただしばらくすると……五分ぐらいかな? 消えた雪が逆再生でもするように元に戻っていく。

 また雪の積もり具合は、だいたい五〇センチあるかどうかということも分かった。

 土の地面を踏み締めたが、まあ、普通の土のようだ。雪で濡れているかと思ったが、乾燥しているようで普通に歩きやすい。


「やっぱりただの雪ではなさそうだな」

「ダンジョンはそもそもが謎の多いところですからね」

「それと俺のMAPだと魔物の反応がないんだが、ヒカリとルリカはどうだ?」

「……いない」

「少なくとも近くにはいないかな。ただダンジョンである以上警戒しておいた方がいいよ」


 それはルリカの言う通りだな。

 俺はもう一体、犬型のゴーレムを呼び出して同じように火属性を付与した。

 魔力察知で二体のゴーレムの魔力の流れを確認すると、属性を付与すると魔力の消費量がいつもよりも早いみたいだ。

 ただ二体のゴーレムが並んで歩けば、俺たちが歩く場所の雪を完全に溶かしてくれるからその後ろを歩いて行けば俺たちの負担は少なくなる。


「とりあえず階段のある方は分かるから。まずは階段を目指そう」


 俺の言葉にヒカリ以外の皆が頷く。


「どうしたヒカリ?」

「何でもない」


 反応がなかったヒカリに尋ねたが、ヒカリは首を振るだけだった。


「とりあえず注意しながら進もう」


 俺はゴーレムに進むように指示を出すと、その後を追うように歩いた。


「けど吹雪きじゃなくて良かったよね」


 それはルリカの言う通りだ。

 吹雪で視界が塞がってたり、風を受けていたらもっと大変だったと思う。

 風魔法で結界を張ることは可能だが、やはり視界が塞がるのが一番辛い。

 そもそも色々なスキルを同時に使えば、MPもSPも枯渇してしまう。

 歩いていても消費しないのは、あくまで一種類のスキルのみなのだから。


「けど一番助かるのは階段のある方向が分かっていることさ。見渡す限り目印がないから、普通だったら迷っているさ」


 セラの言葉にクリスがコクコクと頷く。

 確かに今のところ見渡す限り積もった雪しか見えない。日が反射してキラキラと美しいけど、それを楽しむ余裕はあまりない。

 それにゴーレムが雪を溶かしていってくれるが、それでも歩き続ければ休憩は必要だ。

 特にルリカとヒカリは周囲を警戒して神経を使っているから、消耗が激しく見える。


「とりあえず一度休憩しようか?」


 俺は皆に声を掛けると、とりあえず試しに雪を使ってかまくらを作ってみた。

 土魔法で家を建てるような感じで、水魔法を併用した。

 雪を溶かした時と同じように何かしらの変化が起こるか見たが、どうやら雪を利用して形を変えた時は何も起こらないようだ。


「今更だけど、ソラの魔法は便利よね」


 ルリカには呆れられたが、出来るものは仕方がない。

 俺はかまくらの中にアイテムボックスから取り出した木材を敷き詰めて、皆が座ったのを見て温かい飲み物を取り出すのだった。


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