第413話 再会
街の様子はそれほど変わっていないように見えた。
俺はトルコ船長に言われた通り真っ直ぐ城に向けて進めば、城へと通じるあの重厚な門の前でドゥティーナと再会した。
「お久しぶりです、皆さん。それではご案内します」
ドゥティーナは挨拶もそこそこに歩き出し、俺たちを玉座の間に通した。
玉座の間の椅子は空席で、その傍らにルフレ竜王国第一王女のユイニが立っていた。また彼女の横には、親衛隊長のアルフリーデも控えていた。
「ソラさんお待ちしておりました。お父様の……前竜王のことは既にご存知ですか?」
「ああ、最後に会ったよ」
「そう、ですか。なら直接お話を聞いたということですよね?」
俺は頷き、ダンジョンに潜りたい旨を伝えた。
ユイニは一度アルフリーデを見たが、こちらに向き合い口を開いた。
「皆さんの行く八階は、お父様以外誰も進んだことがありません。それはあの扉を開くことが誰も出来なかったというのもあるのです。なのであの先に何があるかは私は知りませんし、私たちはお手伝いすることが出来ません。それでも行きますか?」
「ああ、そこに必要なものがあるから」
「分かりました。ただ何があるか分かりません。今日は休んで、明日向かってはどうですか? サークとサハナも会いたがっていると思いますし」
準備は既に済ませてあるが、確かに少し休息は必要かもしれない。
昨日一日マルテの町を回ってリフレッシュはしたが、共和国から竜王国までは殆ど休みなく移動してきたのだから。もちろん無理のない範囲で進んできたが、疲れは蓄積されているはずだ。
それにユイニはアルザハークのことをなんとなく聞きたそうにしているのが態度から分かった。
その後サークたちと再会した訳だが、開口一番
「勝負だ!」
と言ってヒカリが連れて行かれてしまった。
「ソラは少しユイニと話すといいさ。ヒカリちゃんはボクとルリカが見てるから。クリスはソラのことを頼んだよ」
そう言ってセラとルリカはヒカリの後に付いて行ってしまった。
「本当に落ち着きがなくてすいません。まだまだ子供みたいで」
ユイニは困りましたわと言っているが、その目を優し気にサークの後姿を見ていた。
結局俺とクリス、ユイニの三人で話すことになった。
サハナは少し迷っていたが、やはりサークのことが気になるようでアルフリーデと共に行ってしまった。
「護衛が誰もいなくなったがいいのか?」
「ふふ、大丈夫ですよ。それとも悪さしようと思っているのですか?」
そんな真顔で言われると困る。
これを危機感がないと取るか、それとも俺たちのことを信用してくれていると取るか……後者だと思うが心配になってくる。
もっともレベルだけ見ればクリスよりも高いし、おっとりしているがそれなりに戦えるのだろう。
ユイニの執務室に移動して、そこでお茶をすることになった。
のんびりお茶を飲みながら、アルザハークの最後を話した。
最後と言っても別に死んでないし元気にしている。向こうの世界で最後に会った時のことを話したのだ。
「お父様はかなり先のことを見通して行動していたのですね」
「そう、なんだろうな」
自らの牙を俺たちに渡したことも、俺が神殺しの武器を作ることを想定して渡したのかもしれない……それは考え過ぎか? あ、けど翁かイグニスに渡すように仕向けた可能性はあるか。
それに俺たちがエリザベートを倒せなかった場合は、アルザハークがその手で決着をつけたような気がする。
ただそこには恨みつらみはなく、ただ純粋にエリザベートの暴走を止めたいという思いがあったような気がする。
ユイニから母親のことを聞いた後でも、何故かそう思えた。
大切な者を奪われたのにそう思える心は、正直言って俺にはなかった。
今思い返せば、半分以上はミアをいいように扱ったエリザベートに対する怒りに支配されていたような気がする。いや、そもそも倒すのに必死で、それすら考える余裕がなかったかもしれない。
「けどダンジョンの先には何があるのでしょうか? お父様は何も教えてくれなかったですし、私も興味があります」
「ユイニはダンジョンに行ったことはあるのか?」
「一度だけ、七階までは行ったことがありますよ。そもそも奥の方に進むのは、月桂樹の実目的でしたから。それより先のことは考えたことがありませんでした」
そもそもここのダンジョンのメインは、上層階による農業と、食肉用として狩っている魔物のようだしな。
「あ、けどダンジョンに行くなら特に注意してください。近頃ダンジョン内の魔物が凶暴化しているという話を聞いていますから」
凶暴化しているため、親衛隊も交代でダンジョンに潜っているとのことだ。
「マルテの町でも聞いたけど、異変が起きているのはやっぱり竜王様がいなくなった影響だったりするのか?」
「……詳しいことは分かりません。ただその可能性は高いと私は思っています」
そう言ったユイニの瞳は、不安そうに揺れていた。
何か力になるようなことがあればと思うが、生憎と良い案は思い浮かばなかった。
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