竜王国編2

第412話 異変?

 山岳都市ラクテウスから山を下りてマルテを目指したが、山から見るルフレ竜王国の景色に思わず息を呑んだ。

 眼下に広がる木々は以前竜王国にいた時は青々としていたのに、今はすっかり枯れているのが遠くからでも分かった。

 もっともそれが自然の流れでそういう時期と言われればそうなのだが、ラクテウスの人たちに聞いたら、初めて見る光景だと言われた。

 何か起こったかと言われたら、竜王がいなくなったという大きな事件が起こっているはずだ。それの影響があるのだろうか?

 山をゆっくり下りてマルテに向かう道中もやはり少し肌寒さを感じた。

 なんて思っていたら、アルテアを囲っている湖が凍っているじゃないか。

 ヒカリが石を投げたら簡単に割れたから、どうやら表面に氷が張っているだけのようだ。

 その後日暮れ前にマルテには無事到着したが、以前来た時のような活気が感じられないような気がした。

 もともと外からの人が少ない感じではあったが、それでも心なしか寂しさを感じる。

 近頃王国の王都をはじめとした、ちょっと人口の多い場所を歩いたからだろうか?


「あら、また来てくれたのかい?」


 前回泊まった宿に顔を出すと、宿の人は覚えていてくれたようで歓迎してくれた。

 まずは部屋に通され一休み。

 その後食堂に通されて食事をしたが、利用客は俺たちを除くと一組だけだった。


「元々外から人が来ることは少なかったんだけどね」


 そう言って女将さんが話した内容によると、徐々に町の周囲の環境……木々が枯れ始めたという話だった。

 それと同じくして、アルテアから供給される食料も徐々にだが減っているとのことだ。


「別に生活出来ないほどじゃないんだけどね。ただこれから先もこのようなことが続くと、ちょっと心配になっちゃうかなってとこさ」


 思わず出たといった感じの発言だったが、きっと不安なんだろう。

 そして話を聞いていて、その異変が起こったのは俺たちが女神と戦った時期以降だということが分かった。

 それはすなわち竜王がこの国から消えてからの出来事ということだ。


「どうにかならないのかな?」

「竜王様がいなくなった影響だとすると、どうしようもないんじゃないかな?」


 クリスの言葉にルリカが答えた。

 確かに竜王……神様がいなくなった影響だとすれば、人の力でどうにか出来るとは思えない。

 それともそれを見越して、竜王は俺たちに竜王国を訪れるように誘導したのだろうか?


「とりあえず明日冒険者ギルドに行って、アルテアのギルドの方に連絡をとってもらおう。とにかく島に渡らないことには始まらないだろうし」


 結局その日はそのまま休むことになった。



 翌朝起きたら、領主から派遣された人から連絡を受けた。

 明日アルテアからの連絡船がマルテに到着するので、明日はマルテにいて欲しいとのことだった。


「そうなると今日一日ここで過ごさないとか?」


 俺たちは宿の人に明日出立する話をして、今日は一日マルテの町を回ることになった。

 といっても行くのは冒険者ギルドと錬金術ギルドぐらいだ……商業ギルドにも少し顔を出しておくか。

 冒険者ギルドで聞くのは、近頃の様子だ。特に竜王がいなくなった辺りから、何か変わったことが起きていないかの確認だ。


「そう、ですね。少し魔物の数が増えたような気もします。あとは上位種を目撃したという話を、クロワとフォルクの両ギルドから受けたこともありました」


 現在その目撃情報がマルテから山岳都市ラクーチカの街道近くであったため、騎士と冒険者の合同チームが派遣されているとのことだ。

 一瞬騎士が? と思ったが、その騎士というのがアルテアから派遣された人たちとのことだ。

 もしかしたら親衛隊の人たちなのかもしれない。

 そのアルテアから派遣された人たちは、どうやらクロワとフォルクにもいるみたいだ。

 現状を聞いたユイニ辺りがアルテアから派遣したのかもしれないな。

 その後商業ギルドでは簡単な社交辞令的な話をして、錬金術ギルドでは何か新しいことをしているかを聞いた。

 すると現在の森の原因究明をするために色々と実験……もとい調査をしているそうだ。

 何でも冒険者の護衛を雇って、職員が自らサンプルを採取しにいったらしい。


「魔物と遭遇すれば危険といえば危険なんですけどね。けど冒険者に頼んでも何を採ってくればいいか分からないものだから、結局自分たちで現地に行った方が早いんですよ」


 とはギルド職員の言葉だった。

 確かに依頼を出しても、上手く伝わらないと関係ないものを採取されるなんてこともあるしな。

 その後はヒカリの要望で屋台を回り、アイテムボックスのストックを増やしつつ町中を歩いた。

 そして翌日。連絡船がやってきたため、それに乗ってアルテアへと向かったのだった。

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