第411話 通信機・3
「あ、お兄ちゃん! それにヒカリちゃんも‼」
フィロの家に到着したら、早速俺たちに気付いたコトリが元気よく駆けてきた。一緒に遊んでいた子供たちも同様にだ。
ただ今日は用事があってきた訳だから、まずはそれを終わらせる必要がある。
「ナオトさんたちはいるか?」
話ではナオトたちはオリンの手伝いをしているそうだ。
シュンは冒険者に憧れているようだが、ミハルが乗り気じゃないため渋々と言った感じで農業をしている。
「今ならオリンさんのところにいますよ。カエデお姉ちゃんたちも一緒です」
「なら少しコトリも一緒に来てくれるか? ヒカリ、悪いけど子供たちの面倒をみてもらってもいいか?」
「うん、任せる」
「ならボクたちも手伝うとするさ」
結局クリスたちも子供たちの面倒を見る様だ。
竜王国に向かえば、当分の間また戻ってくることは出来ないからな。
転移用の魔道具を置いておけばすぐに戻って来ることは可能だが、エリルの方に既に置いてあるからな。近くにもう一つ設置すると、MPの問題もあるから気軽には出来ない。
「それで今日はどうしたんですか?」
「ああ、通信機を用意したから、コトリたちにも渡しておこうと思って。その使い方の説明かな?」
「通信機? スマホみたいなものですか?」
「そこまで高性能なものじゃないよ」
本当現代人からしたらちゃちなものだから、そんな期待に満ちた目で見ないでもらいたい。
それにコトリもこの世界の通信機がどんなものかは少しは理解しているはずだ。
スイレンたちが使うのを見ているはずだから。
コトリは色々と質問してきたが、皆が揃ってから説明すると言って、近況を聞くことにした。
いや、だって今説明してもすぐにナオトたちにも説明しないとだし、二度手間じゃないか。
コトリもそれが分かっているからか、通信機についてはそれ以上の質問はしてこなかった。
「けどコトリは最終的にどうするんだ? 向こうの子供たちとも仲良くなってたし」
「……少し悩んでいるところなんです。けどやっぱりカエデお姉さんたちと一緒に居たいと思う自分もいるから……」
コトリは複雑な心境を吐露してきた。
「お兄ちゃんは竜王国に行くんですよね?」
「ああ、竜王の言葉を信じるなら、そこにエリクサーの手掛かりがあるはずだからな」
「なら……もしそれでミアさんを助けられたら、その後どうするんですか?」
「……正直まだ決まってないんだよな。一応獣王国には行ってみたいと思っているし、魔導国家にいる知り合いにも会いに行きたいかな」
魔導国家のマジョリカにいるレイラたちもそうだが、エルザとアルトのことも気になる。
その後コトリは、一緒に異世界召喚した魔導王のことも気になっているようだが、残念ながら行方不明だとウィンザから聞いたそうだ。
「あ、けど帝国は大変なことになっているって言ってましたよ。何でも帝都が壊滅したって話です」
それは初耳だが、セラの件もあるし特にこれといった感情は湧かない。
ルリカやクリスはセラのことがある前から、あまり良いところじゃなかったような話もしていたし、実際にマジョリカに行く途中で会った帝国の冒険者の態度は、最悪の部類に入っていた。
あとはセラの元奴隷主だと言っていた男たちも、どうしようもない奴らだったし。
「お兄ちゃんどうかしましたか?」
「いや、何でもないよ。そうか……帝都が壊滅したのか……」
その後ナオトたちと会い、通信機について説明した。
元々一つを渡すつもりだったが、最終的にもう一つ渡すことになった。
一つはコトリが持ち、もう一つは基本的にミハルが管理するようだ。
この先離れて活動することもあるかもしれないということで、仲間内で連絡をとれる手段が欲しかったようだ。
「けどこれ、どうしたの?」
一瞬はぐらかそうと思ったが、既に転移のことも知っているし、通信機を創ったと伝えても今更かと思ったため正直に話した。
一応錬金術のようなものと伝えた。
ナオトには半ば呆れられたが、ミハルにはかなり持ち上げられた。
シュンやカエデからは人数分用意出来ないか聞かれたが、材料がないから無理だと答えた。
「材料があれば作れるのか?」
とシュンから聞かれたから頷いたら、何の材料か聞かれた。
魔物素材以外だと、ミスリルをはじめとした魔鉱石なども使用している。他には良質の魔石か。
その後俺たちが竜王国に向かうことを話したからか、その日は皆で食事をすることになった。
主にこの世界に来てからどんなことをしていたかの話だったが、シュンたちは俺がどのようにこの世界で生きて来たかの話を興味深そうに聞いていた。
そしてその翌日。俺たちはナハルを旅立った。
コトリや子供たちが名残惜しそうにしていた。特にコトリたち異世界組は事情を知っているから特に止めようとはしてこなかった。
「ほら泣かないの。また会いにくるからね。それにもう少ししたらおばあやエリスお姉ちゃんも戻って来るからさ」
ルリカの言葉に、子供たちからやっと解放されることになった。
「ソラ君。この子たちのことお願いね」
フィロの言葉に頷き、俺たちは竜王国に行くために馬車に乗った。
聖王国を経由していけば馬車でそのまま竜王国入り出来るが、さすがに遠回りになるから、竜王国から共和国に来たルートを戻る感じで進む。
もっとも馬車で移動出来るのは国境都市ベルカまでで、そこからは山登りになるため徒歩になる。
「いよいよだね」
クリスの言葉に俺は頷いた。ヒカリがギュッと手を握ってきたから視線を向けると、少し不安そうにしていた。
「大丈夫だよきっと」
それは自分自身に言い聞かせる言葉でもあったが、ヒカリはコクリと頷いた。
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