第407話 閑話・16

 エルド共和国、首都フラーメン某所にて


「こ、これはモリガン様! 御無事で何よりです」

「ふん、また心にもないことを言う」

「滅相もございません」

「……冗談だよ。まったく心配かけたねえ」

「いえ、むしろ我々の力が至らず申し訳ございませんでした」

「あれは仕方ないねえ。私も油断していたし。それよりもクリスのことを守ってくれたようで、そっちに感謝だねえ」

「……我々にはそれしか出来ることがありませんでしたから……それに途中からはあの若者に任せきりになっていたようなものです」

「なるほどねえ。クリスやルリカからも話は聞いたし、改めて礼をいった方がいいかもねえ」

「……それで今日は何の御用でこちらに?」

「そうだねえ。エリスのことはどのぐらい把握しているかねえ?」

「すいません。そちらは全く把握出来ていません」

「それは見付かったことも分かっていないってことかねえ?」

「! 発見されたのですか!」

「何だい。それを知らなかったのかい。エリスは今ナハルにいるよ。それでそのエリスだけど、どうやら魔王になっていたみたいでねえ」

「まさか! それでどうなっているのですか?」

「魔王からは解放されたみたいだねえ。それで、だ。そのエリスが魔王をやっていた時に、大層世話になった人たちがいるって話なんだよ。彼らは遥か昔に迫害を受けて避難した人たちの子孫みたいでねえ。長いこと隠れ住んでいたみたいなんだよ」

「……その話を私にするということは、彼らの新しい住処を用意しろということでしょうか?」

「話が早くて助かるねえ。人数にしてだいたい五〇〇人ぐらい。もしかしたら魔人も一緒に移住を希望するかもだねえ」

「ま、魔人もですか?」

「その辺りはもう耳にしているだろう?」

「はい、王国のことは既にこちらでも把握しております。どうしますか? 奴隷として生かすとの話でしたが、必要ならこちらで手を打ちますが?」

「そういうのは任せておけばいいんだよ。向こうから話ぐらいはあるかもだけどねえ」

「分かりました。その時はまた相談させてもらうかもしれません」

「年寄りを酷使するもんじゃないよ。それで移住の件なんだけどねえ。エリスもお世話になったし、何よりその中には同胞もいるみたいなんだよ」

「……分かりました。ただ、その移住先なのですが……」

「クリスに聞いたけど、例の遺跡のとこはどうなっているんだい?」

「調査した結果。特に危険もなければ、発見もないと報告を受けています。ただ王国がちょっかいを出してきたみたいですが……」

「その大元がああなったからねえ。どうだい? そこを移住先に出来ないものかねえ」

「……何もないとはいえ、遺跡は保存しておきたいところですが?」

「その辺りは新しい住人たちに任せてもいいと思うけどねえ。気になるなら手の者を派遣すればいいだろう?」

「……あとはあの周辺の地質は悪いので、食料を定期的に運ぶ必要が出てきますが大丈夫ですか?」

「その辺りは仕方ないねえ。あとは土壌薬だったかい? あれを試せばいいんじゃないかねえ」

「確かにそれはそうですが、錬金術ギルドの話では、あまり大量に作製することは出来ないという話でして……他にも使用したいところがあるのですが?」

「発案者の彼に言ってもらうよ」

「発案者? 錬金術ギルドに知り合いでも?」

「何だい。調べてないのかい? 全く成長したと思ったら、大事なところで抜けてるねえ」

「…………」

「その土壌薬を作ったのがクリスと一緒に同行していたソラ君だよ」

「それは本当ですか⁇」

「嘘を言っても仕方ないだろう? だからその辺りは彼に私の方から頼むからいいねえ。クリスも満更ではないようだし、いっそクリスの婿に欲しいぐらいだねえ」

「…………」

「何だいその顔は?」

「いえ、昔幼かったエリス様や赤ん坊だったクリス様を見に行った時に、『この子たちは嫁には出さん!』とか言っていたのを思い出しただけです」

「……時代が変わったということかねえ」

「分かりました……それと移住の件ですが、議会の方で話しておきます」

「そうしてもらえると助かるねえ。本当ならここに皆が集まっていれば良かったんだけどねえ」

「……皆忙しいものでして……はい」

「そんな脂汗浮かべながら言われてもねえ。それと、あともう一つ」

「何でしょうか?」

「そんな緊張しなくてもいいよ。王国が呼んだ者たちのことは聞いているかい?」

「はい、本当に別の世界からの者たちなんですか?」

「話を聞く限り間違いないねえ。それで、その子たちも今一緒に来ていてねえ。彼らの身分証を発行してもらいたいんだよ」

「……分かりました。そちらはすぐにでも手配します、が、大丈夫なんですか?」

「素直ないい子たちだし大丈夫だよ。それとこれから先何をするかは彼ら自身が決めることだからねえ。もしかしたらこの国から出て行く者もいるかもしれないし、それはその時にならないと分からないねえ」

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