第406話 移住計画・4
「お婆ちゃん気を付けて行ってきてね」
「なーに大丈夫だよ。ウィンザ殿もいるし、彼らもいるからねえ」
クリスの言葉に、モリガンはナオトやアルゴたちを見る。
ウィンザだけでなくAランク冒険者のアルゴたちも同行するのだ。下手な盗賊なんて返り討ちだろう。
もっともエルド共和国の首都フラーメンはナハルのお隣。馬車を使えば三日で到着出来る。
そしてもちろん移動には馬車を使うとのことだ。
そうだよね。町と町を歩いて移動とか、お金を持っていたら馬車を使うのが普通だよね。
俺の事情で歩いて旅を続けてくれていたパーティーメンバーには感謝だ。
ちなみにナオトたち異世界人一行が同行するのは、そこで身分証を発行してもらうためのようだ。
「それとお婆ちゃん。これ返しておきます」
クリスがモリガンに渡しているのは例のペンダントだ。
「これはクリスが持っててくれてもいいんだけどねえ」
「だけどこれって何かの証なんだよね? 持っていった方がいいと思うよ」
「そうだねえ……私のことを忘れてる輩もいるかもだし、借りていくとしようかねえ。そんな輩は鉄拳制裁だけどねえ」
少し考えたのち、モリガンはそれを受け取った。なんか物騒なことを言っていたが、気のせいに違いない。
クリスだって特に何も言わないし。
「フィロや。後のことは任せたよ。今度は早く戻って来るからねえ」
「はい、任せてください」
「それからソラ君や。君は家造るの禁止だからねえ。この町に移住すると決まった訳でもないからねえ」
物腰は優しいが、有無を言わせない迫力がある。
確かに冷静に考えたら、朝起きて家が建ってたなんてことがあったら驚くのが普通だ。
フィロの家が比較的郊外にあったから噂にならなくて済んだが、確かに騒ぎになる原因になったかもしれない。
あとは簡単に家を造ってしまうと、それで職を失う人が出てくるからというのもあるようだ。
「それじゃあ行ってくるよ」
モリガンたちを乗せた二台の馬車は、そういって走り出した。
残された俺たちは馬車が見えなくなるまで見送り、家に戻った。
もっとも家に戻ったのはクリスたちで、俺は子供たちに農業を教えている農場主のオリンとノーノの元に向かった。
オリンの農園に向かうと、子供たちが元気よく畑を耕している姿があった。他にも向こうでは種を植えているし、あっちでは収穫している。
朝からヒカリの姿が見えなかったが、どうやらヒカリもこっちにいたようだ。
俺が来たことに気付いたヒカリが作業の手を止めてこちらに手を振っている。
振り返せばオリンもこちらに気付いたようだ。
「これはこれはソラ君。ヒカリちゃんが来てたからソラ君もいるって知って待ってたんじゃよ。見てくれたまえこの野菜たちを! 君の土壌薬のお陰ですくすく育ってくれて助かっているんじゃよ」
オリンは興奮して捲し立てる。
確かに以前来た時と比べても、野菜の実量は増えているし、一つ一つの大きさも段違いだ。手に持てばずっしりとした重さも感じる。
「順調そうで良かった。それじゃ実験は一応成功したってことですよね?」
「成功したってもんじゃないぞ! 質が良いものが採れるから、首都から買いに来る商人が増えたほどじゃよ!」
「それにしても農地がかなり拡大しているみたいだけど……」
「ああ、一応この辺り一帯はフィロ名義の土地になっておるんじゃよ。錬金術ギルドの者たちが実験のために買取ったのを、ただでそのまま譲渡してきたんじゃ」
それは太っ腹なことだ。
痩せていて利用価値が低かった土地も、土壌薬で使える土地になったのならかなり価値が上がるはず。そうなれば高く売って稼げると思うのに、それをただで譲るとは……。
「なに、お礼みたいなものらしいぞ。向こうは向こうでソラ君が発案した土壌薬で儲けるとかいっておったから。それから利権がなんちゃらあるから、もし見掛けたら来てくれとも言っておったぞ」
「なら後で顔を出してみます」
普通に接する分にはいい人たちだけど、実験のこととなると人が変わるからな。
今回は土壌薬のことでの話し合いだから、大丈夫だと思うけど。
「わしものんびり農業をしながら余生をと思っておったんだけどのう。もう少し頑張らないといけんみたいじゃ」
子供たちが大きくなって、誰かに後を引き継いでもらうまで頑張るとのことだ。
子供たちを見る眼差しはモリガンのように優し気で、それでいて今が楽しいのか子供たちに話し掛けては笑っている。
「主、お腹いっぱい食べられるようになったって言ってた」
「そっか。それは何よりだな」
「うん、それは素晴らしいこと。だけどもっとお肉も食べた方がいい」
野菜中心の農業みたいだしな。自前で肉を用意するとなると畜産かな?
その辺りはオリンやフィロと相談して決めた方がいいだろう。
「俺は今から錬金術ギルドに行くがヒカリはどうする?」
「うん、行く。あと屋台でお土産を買いたい」
肉を所望しているんだな。
俺たちはオリンに断りを入れると、錬金術ギルドへと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます