第404話 移住計画・2

 俺たちが並んだ後には誰も人が来なかった。

 時間的にそろそろ日が暮れる頃だから、その前に到着するようにしていたのだと思う。やっぱり普通の人は野営が嫌だからね。

 俺? 俺は慣れたかな。

 そんなことを言ったら、


「主、それは違う」「あれはもう野営とは言わないさ」「ソラ、私もあれはどうかと思います」「だよね~」


 といつものメンバーから言われてしまった。

 それはさておき、順番が回ってきていざ入場する段階になって一悶着あった。

 身分証を持っていない人は確かにいるが、そこはお金を支払えば入場は可能だ。

 では何故揉めたのか?

 それはある門番の一言が原因だったからだ。


「ああ、ルリカたちか。子供たちが喜びそうだって……ば、婆か!」


 モリガンの右ストレートが炸裂した。

 アルゴが殺気を放ち、視線で人が殺せそうな形相を浮かべていた。

 ギルフォードたちが必死に宥めている。一人など後ろから羽交い絞めにして止めているし。

 他に人がいなくて本当に良かった。後続がいたら大騒動だった。

 その前にいた人たちは既に町の中に入って姿が見えないことも幸いした。きっと宿が取れるか心配してたから、急いで走って行ったに違いない。


「な、何事だ!」


 それでも騒ぎを聞きつけたのか、門の近くにある詰所から警備隊の面々が出て来た。

 特に我先に現れたのは髭面の大男で、対面に立たれると首が痛くなりそうだ。

 前回は見掛けなかった人だな。

 その大男は地に伏す門番を見て目を吊り上げてこちらにやってきたが、突然立ち止まると直立不動になった。


「こ、これはモリガン様!」

「ん? 誰かと思ったら洟垂はなたれの坊やかい。久しぶりだねえ」

「はっ! モリガン様も変わりなく美しいです」

「世辞はいいよ。それよりも入場手続きを早くしてもらいたいねえ」


 その原因を作ったのはあんただとは誰も言わない。

 きっと皆自分が可愛いから。

 いつもなら鋭い一言をいうヒカリも沈黙を守っている。あ、お腹をさすっているから、ご飯のことを考えているだけのようだ。

 ちなみにその髭面の大男……警備隊長によって入場はその後滞りなく終わった。

 もちろん顔見知りがいるからといって、身分証のもっていない者の分はお金を支払った。

 ちなみにナオトたちが身分証を持っていないのは、王国が自由を奪うためだと聞いている。その辺りの事情を知っているモリガンが、移住のついでに身分証をもらってくれるようなことも話していた。

 一番簡単なのは冒険者などどこかのギルドに所属することだが、まだナオトたち自身が何をしたいのか悩んでいるというのが現状だ。

 それからモリガンに殴られた門番は、どうもルリカたちと同じようにモリガンに昔育ててもらった者の一人だったようだ。

 モリガンは出会い頭に殴っていたが、


「あの悪ガキがねえ」


 とちょっと嬉しそうだった。


「しかしだいぶ変わったねえ」


 モリガンは懐かしそうに言うが、以前俺たちが来た時と比べても町中は変化しているように思える。

 正確には町の中心地ではなく、町の外周部だ。

 以前来た時は荒れ地になっていたところが、農地に変化している。


「ん~、あまり農地には適していない土地だったと思うんだけどねえ」

「あ~、もしかしたらソラのお陰かも」


 首を捻るモリガンにルリカが説明している。

 確かに土壌薬を作ったが、その効果かはまだ分かっていない。

 後で違ったなんてことになったら目も当てられないから注意しようとする前に、到着してしまった。


「ここもちょっと変わったかねえ」


 モリガンが立ち止まり家を見上げていると、慌ただしくドアが開いた。

 そこから出て来たのはフィロで、一目モリガンを見ると大きく目を見開き、


「モリガンさん!」


 と言って抱き着いた。


「あらあら、大きくなったと思ったのに、泣き虫なのは相変わらずなのねえ」

「だ、だって……」

「ふふ、冗談だよ。ごめんなさいね。迷惑を掛けてしまったみたいで。クリスたちから話は聞いてたよ」


 フィロはそこで周囲にも人がいることに気付いたようで、ハッとなって離れたが、その内の一人を見てまた驚いていた。


「も、もしかしてエリスなの?」

「はい、フィロさん。お久しぶりです」

「もう、お久しぶりじゃないわよ。まったく貴女はしっかりしているようでマイペースなんだから。けどそっか、エリスも見つかったんだね。本当に良かったわ」


 フィロはエリスに近付くと抱き着いたり頭を撫でたりしている。


「それよりフィロや。他にもお客さんがいる。中に入ってもいいかねえ?」

「そう、ですね。けどこの人数だと狭くなってしまいますが大丈夫ですか?」


 確かに人数が多いよな。


「俺たちはなんだったら宿を取るよ」

「……今は宿が空いてないかもしれないわ。色々あって人が集まっているから」


 アルゴの提案に、フィロは難しいと言った。


「なら男は隣の更地で野営すればいいんじゃないか? 女の人たちだけなら十分そっちに泊まれる広さがあると思うし」


 俺は前回利用させてもらった時のことを思い出しながら提案した。

 それに更地に家を建てれば雨風は防げる。さすがにベッドはないから寝床は床に直で寝ることになるが、そこは休みやすいように均せば問題ないだろう。

 俺は一応魔法で家を建てたいことをフィロに言って、一応の了解をもらえたが、上手くこちらの考えが伝わったのか心配になる。

 なんかクリスたちが苦笑を浮かべていたが、去り際に


「説明しておきますね」


 と言ってくれたから大丈夫だろう。

 俺は薄暗くなるなか、男九人が眠れるだけの大きさの家を土魔法を使って造るのだった。

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